2015年度第1回スピーカーシリーズ
“Japanese museums – from UK art historian’s perspective”
2015年7月15日(水)14:00~16:00
講師:美術史家 ソフィー・リチャード氏
於:クレアロンドン事務所 会議室
2015年度第1回目のスピーカーシリーズでは、英国在住の美術史家であるソフィー・リチャード氏を講師にお招きし、西洋の視点から見た日本の美術館についてご講演いただきました。主な内容を、以下のとおりご紹介します。
○プロフィール、活動への想い
フランスに生まれ、早くから日本文化、中でも日本建築に関心があった。15歳の時に見た日本の映画において映し出された建築や服装に感動したことを今でも覚えている。
大学時代をパリで過ごした後、美術ジャーナリストとしての活動を開始。これまでに100を超える日本の美術館への取材を実施。取材においては、それぞれの美術館が持つ歴史背景やオリジナルストーリーを理解するため、館長や学芸員へ取材を行うようにしている。
2014年2月にJapan Societyより出版した「The art lover’s guide to Japanese museums」が好評だった。現在は第2巻の発刊のため、年に数回、日本への取材を行っている。
(△The art lover’s guide to Japanese museums)
自分にとって、「美術館」は訪れる地域を知るための入口。自分が出した記事やガイドブックをきっかけに、もっと多くの西洋の人に収蔵作品や建築デザインの豊富さ、日本の美術館が持つ多様性に気づいて欲しいと感じている。
日本の美術館への訪問を勧めるのには、さまざまな理由がある。治安が良く国内の旅行が安全。公共交通機関の乱れはほとんどなく、効率的な運営が実現されている。美術館をはじめとする施設において、スタッフは大変親切。展示作品の質はもちろん、美術館自体のデザインも大変レベルが高い。
○日本の美術館について
日本には5,600を超えるmuseumがあり、うち美術館(art museum)は約1,100。人口一人当たりのmuseum施設数が最も多いと言われることもある。
日本の美術館の展示の入替サイクルは、欧米の美術館に比べて一般に短い。また、特別展が多いことも特徴の一つで、せっかく訪れても、自分の見たい作品が見られない場合が多くある。作品入替のために一時閉館する場合もあり、渡航前に確認できるよう、こうした点について英語による情報発信が必要だと考える。
日本のいくつかの美術館において、入場の前に靴を脱ぐなど、日本独特の文化の楽しみ方を提供しているものについては、記事や発行書籍において紹介するようにしている。
○日本の美術館への提言
1.海外からの来館者の存在を視野に入れる
美術館のほとんどの来館者は日本人。日本の多くの美術館スタッフに聞いたところ、来館者に占める外国人の割合は、カウントは取っていないが5~10%程度。この数字は、海外の方にまだ十分に美術館の情報を伝えきれていないことを表しているように感じる。
2.コンテンツに自身をもつ
展示はもちろんのこと、周辺の街並み、美術館としてのデザインなど、一体としてどのようなストーリーを提供しているかが重要。明確なストーリーを持った良いコンテンツがある日本の美術館には多くの人を魅了する力があると感じている。
3.美術館が提供する情報へのアクセシビリティの向上
・ウェブページにおける英語情報の発信
英語のウェブページがあっても日本語のウェブページとの情報量の差は、愕然とするほど。必要な情報を期待してようやくたどり着いたページがタイトルだけのウェブページである場合などはとても残念。特に大都市圏以外では改善の余地があると感じている。
・英語パンフレットや展示説明
・オーディオガイドやバイリンガルスタッフの活用