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調査・研究

スピーカーシリーズ

英国の政治運営システム -日米との比較の観点から

2013年08月23日 

2013年7月10日(水)14:00~15:30
講師:成蹊大学法学部教授 高安 健将 氏
於:クレアロンドン事務所 会議室

 2013年度第1回目としまして、成蹊大学法学部教授 高安 健将 氏を講師にお招きし、英国の政治運営システムについて日米との比較を交えながら、ご講演いただきました。主な内容を以下のとおりご紹介いたします。

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・英国の政治システムは、多数代表型の議院内閣制であり、議会主権、多数代表的選挙制度(小選挙区)、党規律の強い政党政治により集権的に運営されている。

・執政、議会の関係で見ると、英国型の議院内閣制は、議会の多数派勢力が首相を出し執政府を掌握するという意味で「権力融合型」、米国型の大統領制は、民主的正当性の根拠や権力の委任先が複数あり「権力分立型」と言える。

・ロバート・ダールは、多数支配型デモクラシーとマディソン主義的デモクラシーという2つの異なるデモクラシー論を示した。前者は、権力の自己抑制と政治への信頼を前提として多数派(議会)に執政権力を委ねるデモクラシー論で、英国の権力融合型システムに当てはまる。後者は、権力者に対する不信を前提として専制を拒絶するデモクラシー論で、米国の権力分立型のシステムの特徴に当てはまる。

・英国においては、60年~70年代ごろから首相府・内閣府のスタッフ強化が徐々に進められてきた。特に、1997年に成立した労働党政権においては、省庁横断的課題の増大による政府内調整の必要性、官僚組織や首相の伝統的政策顧問としての閣僚への不信、メディアや国際会議における露出増による首相個人への期待・責任の増大などにより、首相を支える身近なスタッフの強化が必要になったため、首相府、内閣府のスタッフ強化、財務省の役割の強化がなされ、政府内部における集権化と階層化が進行した。

・日本においては、2001年橋本行革により、内閣府の新設、内閣官房の強化、首相スタッフの増強が行われ、小泉政権下では、経済財政諮問会議が経済政策の司令塔と位置付けられた。この点では、日英両国は似た面がある。

・日本においてもこれまで政策の担い手であった官僚への不信は増大し、メディアや国際会議の果たす役割も高まっており、こうした状況下で首相個人への支持や責任が増大している。

・近年の政治不信により、これまで二大政党であった保守党、労働党への不信が高まったこと、また有権者の多様化により、総選挙において自民党も含めた各党の得票率が接近するなど、二大政党制が崩れてきた。スコットランドやウェールズでも地域主義(領域)政党が台頭している。これにより、恒常的に二大政党と政権から排除される人々が生じるため、多数代表型デモクラシーというシステム全体の正当性と機能の空洞化が危ぶまれる。

・近年のスコットランド、ウェールズ、北アイルランドへの権限移譲により、英国は、多数代表的で集権的な中央政府と合意形成型モデルの傾向がある上記「領域」政府による二重国家体制となっていると指摘されている(M.フリンダース)。

・上院(貴族院)では、1999年に世襲貴族の数を絞ったことにより、推薦議員が大部分となり民主的正当性が向上した。また近年、同院の政党間構成が均衡してきたことにより、政権は法案提出の前後に他党や中立会派と調整を行うようになっており、合意形成型モデルへ接近していると指摘されている(M.ラッセル)。選挙の争点として明確に掲げられた政策課題については、原則として下院の決定を上院が覆すことはない「ソールズベリーの原則」も問い直しが必要か。今後英国でも「ねじれ国会」のようなことも起きるかもしれない。また、現在の連立政権では、上院を「大部分の議院が選挙で選ばれた院」へ改革するとしている(2010年連立合意)。ただし、この改革については、事実上先送りが決まっている。

・権限移譲、民主的正当性を高めた上院などの要素に加え、1998年人権法やスコットランド法などは、制定に当たりレファレンダム(有権者による直接投票)に委ねる手法を採った結果、基本法的な性格を有するに至っており、議会で容易に変更できるものではない。これらの改革は、政治不信を前提にした、権力分立的なマディソン主義的改革であるとみることができる。正当性の基盤に疑問符をつけられた一方で、集権化傾向をもつ中央政府が存在するという状況が英国の議院内閣制にはみられる。こうした問題への対応としてマディソン主義的改革は、注目に値する。

・日本においても、衆議院と内閣の関係は権力融合型、内閣の問責決議権を持つ参議院と衆議院・内閣との関係は権力分立型と言える。慢性的な政治不信と、1994年改革以降集権化傾向のある衆議院に対して、参議院は重要な権力の抑制手段を提供している。ただし、内閣の選任に関与しない参議院が、事実上の罷免を可能にする問責決議権を持つ点は正当性に疑問が残る。

講演資料へリンク(PDF)

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