日時:2012年7月18日(水)14:00~16:00
講師:一般財団法人マルチメディア振興センター 所長 柴﨑 哲也 氏
場所:クレアロンドン事務所 会議室
日本の地方自治体における電子自治体の取り組みは、ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアの普及もあり、これまで中心であった基盤の整備からその利活用といったソフト面へと重心が移ってきています。
当事務所では、そうした日本の自治体の取り組みの変化も踏まえ、情報通信の国際業務及び英国・アイルランドの情報通信の政策動向の調査を担当している一般財団法人マルチメディア振興センターの柴﨑所長より、英国における「情報通信事情」についてご講演いただきました。柴﨑様によるご講演のあと、ご参加いただいた在英国日本国大使館やその他日系機関の参加者のみなさまと意見交換を行いました。その概要について報告します。
【英国デジタル「利用」の先進国である】
英国は、インターネット普及率が8割を超えており(2011年)以下の3つの項目とともに以下4つの項目は、調査時においてG20中で首位である。
①インターネット経済のGDPシェア(8.3%日本4.7%,4位2012年)
②Eコマースの小売購入額に占めるシェア(23.5%、日本:4.3%,2010年)
③オンライン広告が広告総支出額に占めるシェア(28.9%、日本21.6%,2010年)
また、以上の割合は今後も増加していくことが予想されており、英国はデジタル利用の先進国であるといえる。
【インフラ中進国である英国】
一方、インフラについては、「中進国」といえる。光サービス等の超高速ブロー
ドバンドサービスは2010年にサービスが開始されたばかりであり、ブロードバンド利用の約80%はまだDSLを利用している(日本: FTTH(光ファイバー)約55%、ブロードバンド約28%)。
民間主導の整備の結果、都市部と過疎地域の地域間格差は依然大きく、3G回線(高速の携帯電話用)の普及も日本より遅い。ただし、日本はいわゆるガラパゴス携帯の普及という特殊事情があり、英国においてもこの2年ほどで一気にスマートフォンが普及している。
【現保守党・自民党連立政権のICT関係施策】
2010年5月に発足した連立政権は、大きな政府へのアンチ・テーゼとして大きな社会(Big Society)を掲げ、中央政府が社会経済活動を隅々までコントロールするのではなく、国民・企業・地域社会の自立参画を求めている。
その中で情報通信の政策としては特に行政手続のオンライン化、情報公開の徹底、
ICT調達の合理化により実現することを目指している行政サービス改革があげられる。
政府では前の労働党政権の時代から行政サービスを100%ネット上で受けられるようにすることを目指しており、既にそれを実現した。また、行政サービスのオンライン化を通じて、行政の効率性および公平性の確保が期待されている。
また、政府のICT関連調達については、高度な知識が求められることから新しい窓口を設置し、全省庁が新調達方式へ移行することで2012年度末までに調達コストを130億ポンド(約17兆円)、25%の削減を目標としている。
また、調達に対する中小企業の参入促進を図ることなどを目的とした「CONTRACT FINDER(http://www.contractsfinder.businesslink.gov.uk/)」というウェブサイトを公開している。全省庁の政府調達について一度に検索することができるため、入札を行いたい業者側が自由にそしてより簡単にアクセスできる。
また逆に、「Gクラウド」というシステムもある。これは、業者側が売りたいものを事前に登録しておき、行政側が必要なものが生じたときに、そのサービスを登録されているものから選択していくというものである。これにより、行政の側も一からソフトの作りこみを委託し莫大な費用を負担するというようなことが無くなっている。
「CONTRACT FINDER」による業者側からみたアクセスビリティの向上にも目をみはるものがあるが、「Gクラウド」はまさに調達の逆転の発想でコスト削減を図っている。
【その他】
意見交換では、ICT行政サービスと個人情報の保護のバランスや、「なりすまし」をどう防止するかなどの質疑応答が行われました。
また情報セキュリティについて、英国では国家防衛という観点から国防省が担当しており、「Cyber Defense Security Strategy」を作成しているなど強力な体制をとっている一方で、自由主義国家として、ネットの利用について、国が一定の方向性を決めてしまうことへのジレンマも抱えているとの指摘もありました。
日本では、社会保障・税にかかわる番号制に関する議論が活発に行われており、ICTサービスの基礎となることも期待されています。カウンティ毎の自動車の反則金の納入などもネット上で行うなど、行政サービスの電子化の面では一歩先を行く英国から学べるところも多くあるということを実感しました。