●テーマ:「欧州での原子力発電について」
●日時:2008年2月19日 13:30~14:30
●講師:東京電力株式会社ロンドン事務所長唐崎様、副所長浅妻様、牧野様
ご講演要旨
欧州では、気候変動(地球温暖化)対策、エネルギー・セキュリティ確保の観点から、持続可能な低炭素型社会の実現に向けての取組が活性化している。原子力への取組はその中核の一つである。一方、原子力発電をどう位置づけるかは、政治情勢等により国ごとにその方針が異なる。
【英国における状況】
○英政府は、2006年7月に発表されたエネルギー・レビューにおいて、「地球温暖化対策の強化」及び「エネルギー・セキュリティの確保」を2つの柱として、前者については、2050年を目標に温暖化ガスを1990年比で60%削減することを掲げており、後者については、北海油田の産出量の低下(1999年がピーク)により、ロシア及び中東への依存が拡大していることで、エネルギー・セキュリティの危機感が現実味を帯びているとしている。
○英国の発電電力量の構成比は、37%が石炭、36%がガス、18%が原子力、4%が再生可能エネルギーとなっている。現在稼動中の原子炉も、2032年までには1基を除き、全てが寿命を迎えることとなり、結果として、原子力発電所20基分相当の供給力不足となることが予想される。
○2008年1月に政府が ‘原子力新設を支持’する最終意見書を公表した。その内容は、「地球温暖化対策、セキュリティ確保の観点から、原子力は引き続き一定の役割を果たすべきであることとした上で、廃炉措置から廃棄物処分に至るまで、政府からは財政援助を行なわない」というものであった。ここにいたるまでには、先に述べたエネルギー・レビューに対し、環境保護団体等から、「エネルギー・レビューは、適切な公開審議を得ていない」とする申立がなされ、2007年2月、公開審議のやり直しを求める司法判断が下ったため、政府は同年5月から改めて公開審議を実施し、集約された2700件の意見書を考慮した上で、この最終見解を示したという経緯がある。本最終意見書に対する野党の反応としては、サッチャー以来原子力を支持してきた保守党は、「再生可能エネルギー、分散化電源の推進を軸とした」同党エネルギー政策を平行して進めることを前提に、政府見解を支持。自由民主党は、反対の立場をとっている。なお、争点の一つでもある高レベル放射性廃棄物の処分方法については、政府が提案した深地層処分の概略設計、処分場ホスト自治体選定のプロセスについて、概ね国民の支持を得たと政府は報告している。
その他欧州各国の原子力政策については、各国の歴史的経緯、政治情勢、国民の受容性等に大きなばらつきがあるため、EUとしての統一の方針が示せない状況である。欧州各国の原子力に対する姿勢は概ね以下のとおりある。
○原子力を積極的に活用:フランス、チェコ、イギリス、スイス、旧東欧諸国、フィンランド(政府による明確な政策を保持せず。) 他
○脱原子力政策を維持:独、スウェーデン、ベルギー、イタリア、オーストリア 他
【フランス】
○全発電電力量に占める原子力の構成比は86%であり、次が石油の12%である。
○第一次石油危機を契機として、政府は1974年3月に「新規電源は全て原子力発電で対応」という方針を打ち出し、現在、58基の原子炉を運転している(米国についで、世界第2位)。
○先の選挙では、保守UMPサルコジ候補が、「老朽原子力の早期閉鎖と2020年までに原子力比率を50%までに逓減する」と唱えた社会党ロワイヤル候補に勝利した。
○巨大企業アレバが原子炉建設から原子燃料供給、使用済燃料の再処理まで幅広くサービスを提供している。
【ドイツ】
ドイツの発電電力量の構成比は、42%が石炭、原子力が31%、石油が12%、ガスが11%。石炭が4%である。
○社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権下において、2001年6月に電力会社は脱原子力協定(32年で閉鎖)に調印した。
○現在、17基の原子炉が運転中である。
○2005年11月、SPDとキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)との大連立で就任したメルケル首相は、在任中には脱原子力政策の見直しを行なわないことを表明するとともに、風力、太陽光等の再生可能エネルギーの拡大に注力すること、豊富な褐炭資源とロシアからのガス(パイプライン建設中)で原子力の穴を埋めることとした。
○ 原子力閉鎖による供給力不足を懸念する産業界が、閉鎖間近の原子炉の延命策を講ずるが、実らず膠着状態であり、2009年の総選挙の頼みの状況である。
【スウェーデン】
○2006年9月、ラインフェルド首相のもと社会民主労働党、中道左派による連立政権樹立。同政権中には、「原子力の新設及び閉鎖は行なわず。出力増強は推進。」という方針を表明した。
○現在、原子炉10基が稼動中であり、電力需要の約50%を賄っている。既に2基の原子炉を閉鎖している。
(以上)