2012年9月17日(水)14:00~15:30
講師:Mr. Keith Dinnie, Senior Lecturer,International Marketing NHTV Breda University of Applied Sciences,The Netherlands
於:クレアロンドン事務所 会議室
日本国内の各自治体が様々なかたちで地域の「ブランド化」に取り組まれている中、国外からみた「ブランド化」の考え方や手法、また日本の自治体が海外に向けてどのような「地域ブランド化」に取り組むべきかについて、“Nation Branding(国家のブランド化)” “City Branding(市のブランド化)”など地域の「ブランド化」に関する執筆を多数手がけておられるオランダNHTVブレダ大学のキース・ディニー(Keith Dinnie)氏にご講演頂きました。
氏はかつてテンプル大学の准教授として日本にも在住され、日本の地域の実情もご存じでいらっしゃいます。御講演の概要について次のとおり報告します。
【総括】
○地域は様々な地理的単位でブランド化することができる
・地域のブランド化を進める際に、明確なブランドを確立することが望ましいが、国、地域、市町村など、どの単位に収斂させるかという点が大切な部分である。
・一方、「公園」「森」「川」「畑」「ストリート」などもブランド化することができる。
・要は人の想像力の問題である。例えば東京や京都などは海外の人にも「日本」とわかるブランドとして確立しているが、そうでない地域では「日本」などとどう結び付けるかを考えるべきである。
・自分(ディニー氏)の出身である英国スコットランドでも、エディンバラ市は単独でも売って行けるが、グラスゴー市は「スコットランド」と結び付けて売っている。
○何を売りとするか
・「観光」「投資」「輸出」「教育」「食べ物」「文化」「スポーツ」など分野別のブランド化も可能である。
・例えばギリシャを見れば、「観光」では今なお強力なブランドであるが、「投資」先としてはダメである。
・日本は食べ物、輸出などでは優れたブランドを確立している。
【国のブランド化】
○誰が「ブランド化」を担うべきか
・自分が東京にいた当時、ある国の大使館の2人の職員と話をした。1人は自分の国のブランド化についてほとんど考えていなかったが、もう1人の経済担当者は非常に詳しく語ってくれた。属人の資質や関心による場合が多いのが現実である。
・政治家であり首相などトップリーダーであるべきとの考え方もあろうが、そうした人達は忙しいし、大抵の政治家などはブランド化の重要性を理解しているとは言い難い。
・キャメロン英国首相は「グレート・ブリテン・キャンペーン」をやっているが、彼は広報を専門にしていた経験もあり、例外的である。表面的な広報をしているだけとの批判もあるが、良くやっていると自分は思う。
・韓国のイミョンバク大統領は経営者だっただけあり、うまくやっている。
・大使の中には地元の人と交わるのを好まず、外交関係者とだけ交わるような人もいるが、自分が東京にいた時のクロアチア大使は積極的な人で、文化的知識も幅広く、様々な取り組みをしていた。
・ブランド化は政府がすべきか民間がすべきかという議論もあるが、自分は政府がある程度前に出てやるべきであるとの意見である。政府は民主主義で選ばれた組織であり、正統性はある。一方、民間では同業他社との競争もあり、なかなか「ブランド」としてまとまりにくい面もある。
・ただ、三菱、トヨタ、ソニーなど日本企業はブランドとして確立されている。例えば欧米人が電気製品を買う場合、同じものでも日本製は高く、韓国製だと安いのが当然と感じる、ということが調査結果として出ている。今は日本製品の方が信頼を得ている。事実、自分が6月にロンドンへ来て無料の夕刊紙イブニング・スタンダードを手に取ったところ、サムスンを「日本企業」と誤記していた。これなどは日本が優れた製造業のブランドとして認知されている証でもある。サムスンには気の毒だが、これは日本にとっては良いこと。
○政府が国家戦略として持つブランド化の方向性と、民間が持つブランド力、そして地方自治体、市民やNPO、海外移住者などを活用していくことも重要である。
・観光については日本は欧州ではまだまだできることがある。
・自分が東京の大学で教えていた時には日本は商売がしづらい国だとよく聞かされた。日本人は「自分の国を自慢する」ということを好まないということもその原因である。しかし、同じく自慢を嫌うカナダやスコットランドのような国ですら大いに「自慢」をしている。
・自分の国や地域の自慢をすることは政府の仕事ではないという考え方もあるだろうが、そのような考えには自分は与しない。
・たとえばデヴィッド・ベッカムなどは単なるサッカー選手というよりはセレブの1人として英国のブランド化に大いに貢献していると思う。
・作家の村上春樹氏は日本における国際的な人材の象徴的な存在であるとともに、文化的な影響力を持つ存在である。読まなくても彼の本を書棚に飾っておくだけの人もいる。今年、国際交流基金賞を受賞したが、これは日本の政府関係機関による非常にいいブランド化だと思う。
・一方で、英国(スコットランド)において、サッカーの中村俊輔選手が活躍していたときに、日本はブランド戦略を実行できていたかというとそうではなかった。所属していたセルティックがヨーロッパ・チャンピオンズリーグで人気チームのマンチェスター・ユナイテッドと戦った時に決勝ゴールを挙げた。中村選手自身が謙虚な人でメディアへの露出を好まなかったということがあるだろうが、日本にとっては機会損失である。
・今はマンチェスター・ユナイテッドに香川選手がいる。既に得点も決めた。新たなチャンスだと思う。今回はどうなるか、注目している。
・中村選手については、同様にセルティックもチームとして日本への売り込みをしていなかったのはもったいない。中村選手のケガをおそれてあまり日本へ出したがらなかったとも聞く。極めて近視眼的な対応だったと思う。
○日本のブランド力強化のための提案
・今後日本がブランド力を強化するためには、以下3点が必要ではないか。
①国家戦略としてのブランド化をもっと活発に行うこと。
②輸出産業で得ている高い評価をツーリズムや投資誘致の分野に落とし込んで行くこと。
③日本の強みであるソフトパワーの側面を強化していくため、さらに文化外交に投資していくこと。
【地域のブランド化】
○地域のブランド化を進めるに当たって大切なこと
次のような点を明確にしながら進めることである。
・地域のブランド化戦略の効果をどのように測定していくのか
・他の競合相手と比較した場合に自己のブランドはどのような状態にあるのか
・誰が責任者としてハンドリングしていくのか・
・地域全体の総合的なブランド化と部分的な(商品や)ブランド化との連携をどう取っていくのか
○国のイメージと地域とをどう結びつけるか
・日本と日本の都市はつながっている。中村俊輔選手で言えば横浜(現在所属しているマリノス)との関係。
・東京・京都は誰でも知っているが、それ以外の都市はどれだけ知られているか。世界に出てしまうと、大阪ですら、名前は知っていてもどんなところか説明できない人がほとんどだろうと思う。札幌については、自分は非常に一生懸命取り組んでいる起業家に出会ったことがあるが。
・都市や地域がどういうイメージとつながるかは重要である。国の例になるがスペインは美しい女性のイメージの一方、一日中踊ったり呑んでいる男性というイメージである。これに対しポルトガルはミステリアスだと思われている。「ミステリアス」というのは重要である。
・ワインなどとつながっている地域もある。山梨などは欧米のジャーナリストを呼んで宣伝すると良いと思う。
○地域のブランド化の例
・アムステルダムの場合。公園に「I amsterdam」というロゴのコンクリート製モニュメントを置いている。I am とAmsterdamを引っかけたものだが、訪問者の多くを引き付けており、それなりに成果を上げている。
・バルセロナの場合には”Vicky Cristina Barcelona”(注:邦題「それでも恋するバルセロナ」)という名前の映画にお金を出して宣伝をしようとしたが、そんなことにお金を使うのか、という議論になった。あまりうまく行かなかった例の1つである。
・ソウルが行った「アジアの魂(ソウル)」という宣伝はsoulとSeoulを引っ掛けたもので言葉の面でも面白いしカラフルで効果があったと思う。
・「イメージの再構築」という手法もある。ニューヨークなどは治安対策に力を入れ、犯罪都市のイメージを返上しつつあるが、これは自分などは80年代には全く想像できなかったこと。
○地域のブランド化を行っていく上で、次の点が重要である。
(1)発すべきメッセージは何なのかを明確化すること
(2)それをどう表現するのか(どのようなトーンで、どのようなコミュケーション手段を使うか)を戦略的に考えること。
・DVDで和食を紹介しているビデオを見たことがある。自分は和食が好きであり楽しみに見たが、内容が子どもっぽかった。最後に「感想はどうでしたか?」となっていた。これではうまく行かない。
・ターゲットによって手段を使い分けることも重要である。たとえば英国では、シニカルでドライな表現の方が好まれる。
・大きな企業などではこの辺を慎重に使い分けている。
○地域のブランド化で見られがちな課題
・焦点が絞れていない(真にグローバルに通用するものは限られる)
・政治家の無関心(外国の人は投票してくれないので)
・内部の連携不足
・事前の情報収集が不足し、ターゲットはどんな人達なのかを理解しないまま進めてしまう
・地域特性に重点を置きすぎ、ターゲットとなる人達がどんなことに価値を置いたりどのような信念を持っているかに十分関心を払わない
○地域ブランド化とはスローガンやロゴを作って終わりではない
・フランスのIFA(注…Investment in France Agency)運動ではビジュアルのブランド化や広告が含まれた
・ターゲットとなる人達の間の顔の見えるやりとりに力がより割かれた
・市民も「大使」として地域ブランド化運動に参加
・ブロガーやフェイスブックの活用も考えられるだろう。
・地域の特産品のプロモーションを行う際には、その特産品を通じて地域をどのようにブランド化していくかということと同時に、国内市場だけではなく、将来的に国際的にどう飛躍していくかということを考え、戦略を練っていくことが必須である
○市民アンバサダーの活用
・地域住民を「アンバサダー(大使)」として巻き込むことで、住民が地域に対して誇りを持つことにつながり、地域から発するメッセージも生き生きとしたものとなる。
・アンバサダーには、「市民アンバサダー」「ビジネス・アンバサダー」「セレブリティー・アンバサダー」などのカテゴリーごとに任命してもいいのではないか。
・地産地消や地域ブランド戦略の理解も進む。
・地域住民のアイデア、創造性、知識やネットワークを生かすことが重要。
○終わりに
・自分はこうした日本の地域ブランド化に関する取り組みを是非世界に紹介したいと思っており、今後本にしたいと思っている。
地域ブランド化に関心のある自治体があれば是非自分に声をかけていただきたいと考えている。
※キース・ディニー氏は日本の地域のブランド化に強い関心をお持ちです。氏へのお問い合わせやご相談がある場合は、当事務所にご連絡ください。当事務所より氏にご連絡させていただきます。
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TEL: +44 (0)20 7839 8500,
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(日本との時差マイナス9時間)
【質疑応答】
Q.JET経験者を地域のブランド化に活用することについて
A.貴重な財産だし、英語での情報発信ができるのだから、是非活用すべきである。自分自身も日本に住んだことがあり、日本を宣伝したいと思う一人であるが、おそらく同じ思いを持っている人が多いのではないか。ただし、一人ひとりがボランティアとしての立場ということであれば、誰かが明確な戦略を持っていなくてはならないと思う。
Q.日本の地域の英語での広報等に対してどのような意見・アドバイスを持っているか
A.素晴らしいものも多いが、政治や行政のリーダーがどこまで関心を払っているのかという面には疑問もある。それと、どのような方法ですべきかについて十分な検討が必要である。例えば沖縄県がロンドンでイベントをやっているが年に一日だけではもったいない。もしレストランで沖縄料理を毎日提供していればプレゼンスが全く違ってくると思う。英国における取組みとは違うが、マレーシアは、国家戦略として東京・銀座にレストランを経営し、マレーシア料理の普及とブランド化を実践している。これなどは良い成功例だと自分は思う。