OECD諸国のうち、家庭用水道に料金がかからないのは、アイルランドのみである。
同国では、2008年の金融危機をきっかけとする政府の緊縮財政政策の一環として、従来地方自治体が管理した家庭用水道事業が国有の公共事業「アイリッシュ・ウォーター」に譲渡され、それぞれの家庭に水道メーターが導入されると同時に、追加的な水道料金が請求されることになった。
国民の生活のあらゆる分野に影響を及ぼした緊縮財政策に加えて、これまで税金だけで賄われていた家庭用水道事業の料金を徴収することにしたことが国民の我慢の限界を超えたといえる。
アイルランド全土に渡って、「アイリッシュ・ウォーター」や家庭水道料金に対して抗議活動や支払拒否運動が広がり、抗議団体も政党も同様に、「アイリッシュ・ウォーター」の廃止を求めている。
このレポートでは、まず、アイルランドにおいて2008年の金融危機後に打ち出された緊縮財政政策のうち、家庭用水道事業の国営化の現状をまとめる。その後、その実施主体である「アイリッシュ・ウォーター」の概要について説明し、これに対する住民運動と政治的な動きを紹介する。