2009年度 ロンドン

国際交流

2009年度実施事業 ロンドンセミナー

 

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1.事業の概要

事務所開設20周年を記念して、地方自治体協議会(Local Government Association)と共催で、「The Recession One Year On: Strategies and Solutions for Local Communities」をテーマに、不況によりもたらされた問題解決に向けた日英双方の政策や実例を取り上げたスピーチとパネルディスカッションの構成で開催しました。

■テーマ 「The Recession One Year On: Strategies and Solutions for Local Communities」
■開催日 2009年11月23日(月)
■開催場所 Local Government House(ロンドン)

2.実施内容

■挨拶 Mr. Michihiro Kayama
Chairman of the Council of Local Authorities for International Relations (CLAIR)
事務所開設20周年を記念したこのセミナーを、地方自治体協議会(LGA)と共に開催できることに感謝の意を表する。JLGCは英国をはじめ北部ヨーロッパ各国の調査、交流に従事しており、日本の英国理解に大きく貢献している。CLAIRのよく知られた事業にJETプログラムがあるが、イギリスからの参加者には、現在Liverpool John Moore’s universityで日本研究の講師を務める女性と、その御子息の2世代にわたりJETプログラムに参加された例もある。
自治体の国際的な絆を深める活動は、長期的な視点で継続していかねばならないと確信しており、地方自治体協議会をはじめ英国自治体との交流を今後も深めたいと考えている。

■挨拶 Cllr. Richard Kemp(司会)
Chairman of the LGA European and International Strategy Group, Leader of the LGA Liberal Democrats Group, LGA Deputy Chair英国におけるJLGCの20年間の活動に敬意を表する。日本がクレアを通して20年間行ってきたことを、他国は都市自治体連合(United Cities and Local Governments)とともに始めたばかりであり、CLAIRの例は、地方自治体が直面している長所、短所、チャンス及び脅威を分析する上でテンプレートとなり得る。イギリスはヨーロッパで最も中央集権化された国であり、政府は地方分権の必要性を認めてはいるが未だ実行していない。全ての地方自治体は異なった状況を有していることから、政府は総合的な戦略を策定し、コミュニティレベルの管理をするべきではない。また、全ての地域の状況は異なっているが、これはお互いに学び合うことを排除するものではない。
1980年台初頭の不況時にLiverpool市議会議員を務めた経験と、ドットコム景気の終焉から判断すると、前途に待ち受ける課題に地方自治体はうろたえるべきではない。

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■講演1 Mr. Greg Clark
Advisor on City and Regional Development, UK Government
「Sharing success: UK and Japanese cities」
このセミナーでスピーチする機会をいただいたことに感謝している。現在日英双方の都市は交流の方法が分からない状況に直面しているが、このセミナーが両国間でより活発に対話や学習を行う協調議題への第一歩となることを期待している。

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■講演2 Mr. Michitaka Nakao
Former Director of Business Development, Japan External Trade Organisation London Office
「Connecting Regions」
Jetroの役割について説明するとともに、個人的な見解として、多くの日本の納税者はJETROは税金の無駄遣いであると考えていることに懸念を示した。北九州市とリバプール市の生命科学分野における新たな協同について例を挙げた。

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■講演3 Ms. Sarah Longlands
Director of Policy, Centre for Local Economic Strategies
「The role of local government in recession: strategies and solutions」
自信が所属するCentre for Local Economic Strategiesの業務内容と構成員の紹介に続き、復元モデルの例としてアメリカ合衆国・ポートランド市及び四日市市を取り上げた。

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■パネルディスカッション
パネリスト
Cllr. Richard Kemp(司会)
Mr. Greg Clark
Mr. Michitaka Nakao
Ms. Sarah Longlands
Mr. Akiyuki Hamagami
Director General of the European Representative Office of Hyogo Prefectural Government
カンブリアで発生している洪水の犠牲者に哀悼の意を表するとともに、兵庫県ヨーロッパ事務所の役割とヨーロッパから訪問者を誘致する努力について語った。

パネルディスカッションは会場からの質問に回答する形で進められた。

Q:Prof. George Jones (LSE)
地方自治体が取るべき対策について多くの議論がなされたが、避けるべきことについてお聞きしたい。

A:Mr. Clark
地方自治体は、軍隊の招集、独自通貨の発行、国境管理はするべきではない。しかしこれらを除く政府業務の大部分については合法な役割を持っているので、政府が不得意な分野を調査し、バランスを確保することが課題である。地方自治体への権限移譲は更に進められるべきだが、イギリスに関しては、独特の地形や地域間における相違を理解することが重要である。

A:Mr. Nakao
私の考えでは、地域経済の発展のため政府が果たすべき役割とそうではない役割を分析するべきであり、また官民の役割を明確にする必要がある。しかし、地方自治体は政府の全機能において一定の役割を持っており、特に地方自治体は地域経済界の重要人物に接触する方法や地域産業のニーズについて、中央政府より多くの知識を有している。

A:Ms. Longlands
地方自治体は、社会の最貧困層を犠牲にして、何よりも優先して経済成長を模索するべきではないし、市場の動きを推測するべきではない。その代わり、地方自治体は様々な条件が地元企業の支援に適しているか調査するべきであり、民間部門に適した役割や、福祉手当の支給など中央政府が行う役割を担うべきではない。また、地方自治体は他の誰かが先に行動するのを待つのではなく、リーダーシップを発揮するべきである。

A:Mr. Hamagami
地方自治体は、住民をないがしろにすることはできない。新たなあり方を模索するべきである。

A:Cllr. Kemp
地方自治体は、経済状況に落胆する代わりに、名案を追求し、歴史から得た知識を利用するべきである。日本企業の生産方式である「Just in Time(必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する)」よりはむしろ、「Just do it(実行あるのみ)」という姿勢が望ましい。

Q:Cllr Peter O’Neill(NE Derbyshire DC)
グダンスクの復元モデル、特に財政が破たんした時の無力感と地域のアイデンティティの役割に興味がある。

A:Ms. Longlands
地域のアイデンティティは地域経済を促進する鍵である。ポートランドは環境に関する実績と社会的公正を都市ブランドの一環として利用し、一方でグダンスクは貿易都市としてのアイデンティティを競争力を上げるため利用した。

Q:Cllr. Kemp
これらの点をわきまえて考えると、インターナショナリズムが度を超していないだろうか?

A:Mr. Clark
グローバリゼーションは必ずしも同一化を意味しない。実際他のものと異なっていることは、競争を行う中で都市の最も優位なツールである。都市にとっては、開かれたシステムの中で、世界レベルで参画することが重要である。ポートランドとグダンスクの例によると、両者とも長期的戦略を持っており、ポートランドはアメリカ西海岸の一般的な例によらず、不十分な都市計画制度を持つ代わりに、競合する機関を一つの部署に統合した。

Q:Cllr. Kemp
では、兵庫県は他の日本の地方自治体とどのような点で異なっているか?

A:Mr. Hamagami
兵庫県では、他の日本の自治体が行っているような取組を行っている。

A:Mr. Nakao
浜上氏と同意見である。グローバリゼーションは都市の独自性を否定するものではなく、アイデンティティは競争力のきっかけとなる。バイオテクノロジーに関連した都市と地域間の繋がりを促進する取組に関しては、残念ながら全ての地域が自分の取組が最善だと主張したが。

Q:Cllr. Ansuya Sodha(London Borough of Barnet)
私が議員を務める自治体では、政策を可能な限り外注し、より良いサービスに対する料金を導入する形で、リーダーシップが遂行されている。そのような動きは日本にはないのか?

A:Mr. Clark
社会政策のプラスになるというアウトソーシングの役割を否定するべきではない。例えばオーストラリアでは、地方自治体はアウトソーシングをその地域における新しいビジネスの立ち上げに用いて成功している。地方自治体は、代表すること、基本的なサービスを提供すること、調整すること、投資と開発を誘致・促進することの4つの役割を持っていると私は考えている。最後の点については、チューリッヒやシンガポールが良い例であり、そこへ移住する動機となる良い条件を提供し、能力ある人を集めている。

A:Ms. Longlands
アウトソーシングは現在の効率化という課題を超えたものであると考える必要があり、特にバーネットの例は適当ではない。調達問題とは本質的に何かを問うような偏向した議論によって、貧困層の生活を改善することはできない。その代わり、必要としているものを最良の価格で入手する方法に焦点を合わせるべきである。

A:Mr. Hamagami
アウトソーシングに関する議論は日本でも行われているが、イギリスほど進んでいない。最良のサービスを住民に提供しながら、コストを削減する方法を見つける必要がある。また、日本の地方自治体業務には、路上清掃、公共交通、パスポート発行など、アウトソーシングに適すると考えられる分野が数多くある。

Q:Mr. Edard Richards(Homes for Islington)
私はイスリントンの公営住宅管理機構に勤務している。サービス供給者としての私たちと、地方自治体の間に機能の分離が見られる。機能の分離は地方自治体の不況から脱出しようという努力の妨げになっていると思うか?

A:Ms. Longlands
サービス供給が地方自治体から分離する状況は常に発生すると思うので、この答えは分からない。

A:Mr. Hamagami
地方自治体は常に地域住民の意見を取り上げ、尊重するべきである。兵庫県ではこれを実現するため、地域構想委員会を立ち上げている。

A:Mr. Nakao
これに関する私の経験は限られているので、短い答えになるが、私が日本で従事していた経験では、地域における新しいプログラムや活動分野に対する合意を得るために、地元企業で構成されるワーキンググループを設立することが常に重要である。

A:Mr. Clark
機能やリーダーシップの役割よりも、地方自治体の規模について調査することが重要である。実際、機能ばかりに重点が置かれており、他の二つに関しては不十分な状態である。

Cllr. Kempがスピーカーとゲストに対して感謝の意を表するとともに、JLGCが更に20年間ロンドンで活動を続けられるよう願っているとの閉会の言葉により、セミナーは終了した。引き続きレセプションが開かれ、Prof. George Jones及び赤松俊彦総務省国際室長からご挨拶を頂いた。