国際交流
2007年度実施事業 カーディフセミナー
ウェールズの首都カーディフのエドワード朝時代に建てられた市庁舎にて、2008年の日英セミナーが開催された。これまでのこのセミナーシリーズは、英国四地域における地方分権、公共サービスの向上を総合テーマに、イングランドではロンドン、北アイルランドではベルファスト、スコットランドではエジンバラなどで開催されてきたが、今回は特に「自治体の地域再生への挑戦」に焦点を当て、ウェールズと日本が積んできた経験を共有、比較検討をするよい機会となった。
本セミナーは、当事務所の主催で毎年開催されている。今回は幸いにも、ウェールズ議会政府、カーディフ市、ウェールズ自治体協議会(WLGA)、全国地方自治体事務総長・上級職員協会(SOLACE)ウェールズ支部からの協力を得ることができたのに加え、在英国日本国大使館、国際国流基金ロンドン事務所、ジェトロ・ロンドン、国際観光振興機構(JNTO)、そして在英日本商工会議所の後援を仰いだ。
今年のセミナーは、カーディフ大学日本研究センターの所長であるクリストファー・フッド氏の司会で進められた。同氏は、自治体国際化協会の事業であるJETプログラムのOBでもあり、日本の経済・社会に関して執筆活動も行っている。
フッド氏はセミナーの冒頭、次のように述べた。「今年は、英国と日本が正式な外交関係を樹立してから150周年にあたる記念すべき節目の年である。日本は当時、英国などの支援によって近代化の道を歩み、封建社会から脱することができた。両国は今日、G8の中でも指導的な役割を果たしているが、そのアプローチには違いがあるように見られる。日本はJETプログラムを活用して世界各国との結びつきを強化すると同時に、他国における発展から学ぼうとしている一方で、英国は多くの場合、米国やヨーロッパ諸国に意識的に目を向けている」
続いて、カーディフ市のギル・バード市長が挨拶を行い、「ウェールズにおいては近年、カーディフ大学日本研究センターやパナソニックなど日系企業の存在、またウェールズ出身者によるJETプログラムへの参加によって、日本の果たす役割は重要性を増している」と述べた。また、本セミナーが英国と日本の友好関係を祝し、ウェールズと日本の地方自治体の相互理解を促進する機会となること、日英関係の節目の年に、ウェールズの地方分権の本拠地であるカーディフで再び日英セミナーが開催されることに対して歓迎の言葉を述べた。
次に、香山充弘財団法人自治体国際化協会理事長が挨拶を行った。香山理事長は、「誇り高き歴史を持つカーディフ市でセミナーを開催できることは光栄である」と述べるとともに、カーディフ・ベイに代表されるカーディフ市の地域再生事業に対して賛辞を送った。更に、日本の自治体が直面する課題について述べ、地方経済の回復が中央政府の優先課題となっていることを紹介した。最後に、パナソニックの例でも分かるように、ウェールズは英国の中でも特に日系企業の進出が盛んな地域であり、日英外交樹立から150周年を迎えたという事実は、日英の友好関係の力強さを証明するものであると指摘した。
以下に、本セミナーで行われた6つのスピーチの内容を紹介する。
1.「ウェールズの地域再生の過程における課題」-
ガレス・ホール・ウェールズ議会政府経済・交通省長官
ウェールズが近年直面している課題には次のようなものがある。
1. 経済構造の変革・・・ウェールズはかつて、炭鉱と重工業で栄えていたが、過去25年間、これらの産業は大きく衰退し、ウェールズの最後の炭鉱は2008年初頭に閉鎖した。特にヘッズ・オブ・ザ・バレーズ地域は、こうした経済構造変革により相当な打撃を受けた。
2. 国際競争の激化・・・特に中国とインドが大きな経済発展を遂げ、世界的な大国へと成長している。
3. 住民の経済活動への不参加・・・ウェールズの労働人口の10%が経済活動に参加していない。これらの人の多くは、重工業に従事したことを原因とする長期的疾患を患っており、精神的疾患やうつ病の患者も多い。
こうした問題に取り組むためは、10年から30年の年月をかけた長期的で包括的な戦略が必要である。「声なき大衆」の心を掴むには、トップダウン方式よりも、住民と直接の係わりを持つことが重要である。この構想の実現には一連のアクションが必要とされる。しかし、「重要業績評価指標(Key Performance Indicators)」は、アクションそのものではなく、アクションの結果を評価するものである。
包括的戦略には以下が必要とされる。
1. 官民を含むコミュニティのあらゆるフィールドからの参加。
2. 早い段階での成功・・・早期にアクションを起こし、成功を収めて今後のモチベーションにつなげる。
3. 資金力のある団体と同様、資金力のない団体の専門知識も大切であると認識すること。
4. 常勤スタッフからなる専任チーム。
5. 持続的なコミュニケーション。
6. 長期戦略であることを人々が認識すること。
7. コミュニティに繁栄・自立の兆しが現れた時に地方自治体が地域再生事業から段階的に手を引くための「出口戦略」
質疑応答
Q. 地域再生に向けた包括的戦略に取り組むうえで直面する課題とは何か?
A. 包括的戦略には時間と労力が必要とされる。従来の戦略は機能しないということを理解し、セミナーを開催するのではなく、商店に足を運び、人々に問いかけるといった従来とは異なる方法で、「声なき大衆」や若者に訴えることが必要である。包括的戦略においては、事態を予測することは不可能である。私たちがヘッズ・オブ・ザ・バレーズ地区で働いていた頃の最大の難題の一つは、住民が地域に誇りを持っていなかったことだった。彼ら住民は、もし自分たちが地域に誇りを持てるようになったら、地域の状況も改善するだろうと話していた。
Q. 製造業におけるエネルギー使用との関連で包括的戦略を説明してほしい。パナソニック社にとっても環境問題は課題となっている。
A. 「持続可能性」を環境問題に限定して考えてないでほしい。これは、スキルについても使われる言葉である。我々は、エネルギーを安価に利用できるようになることを望んでいる。将来のエネルギー供給源は多岐にわたるだろう。現在、原子力の利用が議論されている。重要なのは、地域レベルでの再生可能エネルギー供給である。
2. 「衰退から再生へ-カーディフ市の歩み」-
バイロン・デービス・カーディフ市事務総長兼SOLACE議長
カーディフ市は、1905年に「シティ」の地位を与えられ、石炭の輸出量では世界一だったこともある。北アメリカの鉄道はウェールズの鋼鉄で敷設されたものである。好況だった時代には、多くの人々が英国やアイルランドからウェールズに働きに来ていたが、1970年代になると、ウェールズの産業は衰退し、多くの人々が職を失った。英国に富をもたらしたこれらウェールズの元工業都市であるが、現在は住民が地域に愛着を持てなくなっているのは遺憾なことである。
地域再生促進のため、カーディフ市は、社会問題、インフラ、そして環境問題に取り組む必要があった。我が市がこれまで手掛けたプロジェクト及びスキームの一部を紹介する。
1. クイーン通りを歩行者道として整備する。
2. 市内からの車両迂回道路であるPDR(周辺分配道路)の整備。
3. 「セント・デービッズ2」―既存のショッピングセンター「セント・デービッズ」を含む市南部の開発スキーム実施。
4. カーディフ・ベイの大規模な再開発。
5. ミレニアム・スタジアム建設。
1998年に、ヨーロッパの主要国首脳によるサミットがカーディフで行われたが、ちょうこの頃が、カーディフが都市として十分な成熟に達した時期であった。1999年にカーディフで開催されたラグビーの世界選手権大会とサッカーのFA杯はすべて成功をおさめ、カーディフはその存在感を増すこととなった。
カーディフは現在、スポーツの都として成長を続けている。10億ポンドを投入して建設中の「国際スポーツ村」には、25000人収容のスタジアムを含む優れたスポーツ施設が建てられる予定である。サッカーは、多くの雇用を生み出しており、市の大きな魅力の一つとなることが期待されている。
我々の現在の希望は、世界に誇れる高い生活の質を住民に保証することである。しかしながら、最大の課題の一つは環境である。住民の生活の質向上のため、我々は、2018年までに二酸化炭素(CO2)排出量を60%削減することを目指している。
質疑応答
Q. カーディフ市の資金調達の問題について教えてください。特に内部での資金調達や、カウンシルタックスに対する反対意見について教えてください。
A. カウンシルタックスは大きな論点となっており、これが、我々が内部ではなく外部に資金を求めている理由である。EU補助金は現在、カーディフ市ではなくウェールズの他の地域に支給されている。我々はこの点について不満であり、ウェールズへのEU補助金はウェールズ全土に配分されるべきであると思っている。
Q. 英国の他地域に接続する交通システムの改善について教えてください。
A. 空港施設は改善が必要だ。一つ残念な点は、新たな高速鉄道がウェールズに乗り入れないことであり、非常にがっかりしている。
Q. ガレス・ホール氏のスピーチでも触れられていたが、カーディフはインドや中国といった経済新興国にどう対処しているのか?
Q. それらの国々とは友好関係を築かなければならないと考えている。彼らと共同で何が出来るかを考えなければならない。