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【ロンドン事務所】英国の医療制度の課題と展望
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英国の医療制度は、国籍を問わず全住民に対して無料の医療を提供する国営医
療制度(National Health Service : 以下NHS)によって運営されており、その
起源は古く、「ゆりかごから墓場まで」という言葉で有名な労働党政府の福祉政
策の一環として、1948年に設立されました。
このNHS制度の利用にあたっては、まず一般開業医
(General Practitioner:以下GP)への登録が必要で、日本のように患者の判断で
直接大きな病院へ出向くことはなく、どのような症状であっても最初に地元のGP
で診察を受けるシステムになっています。私も赴任してすぐ近隣のGPで登録を行
い、実際に子供の予防接種など日々NHSの恩恵を受けています。
このように、移民や我々のような外国人を含め、「万人への普遍的な医療サー
ビスの提供」こそNHSの基本精神と言えますが、それ故に多くの課題も抱えていま
す。その一つに、GPの予約に時間がかかり過ぎることです。英国ガーディアン紙
は、2019年のGPの予約までにかかる平均待ち時間が14.8日であるという調査結果
を発表しました。その要因として、人材不足が挙げられますが、2015年、当時の
ジェレミー・ハント保健相は、2020年までに新たにGPを5,000人増やすことを目標
に掲げたものの、失敗に終わっています。
そもそもこの人材不足の根幹にある問題はNHSの慢性的な資金不足です。医療
従事者の給与も満足に払えないため、優秀な人材は民間や海外に流出しており、
それ故に残った医療従事者もまた過酷な労働環境を強いられているのが現状で
す。また、医療技術の高度化にともない医療費が高騰し、人々の医療サービス
に対する要求も大きくなる一方で、高齢者が増え長生きするようになったこと
で、長期的なケアが必要とされる患者も増えています。
今年7月に就任したボリス・ジョンソン首相は初の閣議演説で、NHSの予算の
18億ポンド(約2,300億円)拡充、20の病院での施設改修の実施、GPの待ち時間
の短縮などを優先事項として掲げており、いかにNHSに対する世論の関心が高い
かを示しています。ジョンソン政権下で、どこまで改善が図れるか今後もNHSの
動向に注目が集まります。
ロンドン事務所 所長補佐 高橋