世界で初めて孤独担当大臣を創設した国をご存じでしょうか。実は英国です。孤独がもたらす心身への影響と経済的損失を挙げ、2018年1月に世界初となる大臣を設置しました。残念ながら、ある大臣が兼任で就任したポストで、際立った成果を上げることはできませんでしたが、このことは世界から注目を集めました。
シェフィールド・ハラム大学の2022年の調査によると、英国の成人5,237万人のうち2,599万人(49.63%)が頻度に差はあれど孤独を感じており、子どもも含めると人口の約7.1%となる383万人が慢性的な孤独を感じているといいます。これは2020年の6%(324万人)から上昇しており、新型コロナウイルス感染症拡大などの影響で、人々の孤独感が増していることがうかがえます。
英国でメジャーとなっている対孤独・孤立の取り組みの1つとして、「ビーフレンディング(Befriending)」というボランティアが、対面や電話で相手の話を聞くというものがあります。
Re-engageというチャリティー団体は、社会とのつながりが薄れやすい75歳以上の方を対象に、週1回程度の電話による無料のビーフレンディングサービスを提供しています。事前に確認した興味関心などをもとに選ばれたボランティアが、サービスを求めるお年寄りと電話で話すというシンプルなサービスですが、2023年度は約7,000人が利用しています。利用者の70%が「より幸せな気持ちになった」と話し、80%が「生活に楽しみができた」とサービスに満足しているそう。Re-engageは、このほかにもお茶会や、ダンスや太極拳といったグループ活動の機会も提供しています。
非営利団体The Chatty Café Schemeが行う「”おしゃべり&雑談”テーブル(’Chatter & Natter’ tables)」という取り組みもユニークです。カフェや病院、図書館などに専用のテーブルが設けられ、席についた人は誰でもお茶と会話を楽しむことができるというもので、誰かに話を聞いてほしい人はもちろんのこと、新しい出会いを求める人や宿題を教えてほしい子どもなど、利用者は老若男女と幅広いようです。英国最大のコーヒーチェーンであるコスタコーヒーや、国王チャールズ三世が立ち上げた非営利団体Pub is The Hubなどの協賛のもと、全国数百カ所で取り組みが行われています。
旧保守党政権下で本格化した英国の孤独・孤立の取り組みですが、7月の政権交代の影響で今後の方向性がまだ不透明です。施策が継続され、より一層官民連携での取り組みが進むことを期待しています。
ロンドン事務所 所長補佐 野村
<参考文献・引用文献>
・孤独は社会問題 孤独対策先進国イギリスの取り組み(多賀幹子.株式会社光文社,2021)
・Campaign to End Loneliness, Facts and Statistics(検索日:令和6年8月15日)
https://www.campaigntoendloneliness.org/facts-and-statistics/
・Befriending Networks, What is Befriending?(検索日:令和6年8月16日)
https://www.befriending.co.uk/about/what-is-befriending
・Re-engage, charity for reducing loneliness in later life(検索日:令和6年8月16日)
https://reengage.org.uk/
・Chatty Cafe Scheme UK, Chatty Cafe Scheme UK(検索日:令和6年8月16日)
https://thechattycafescheme.co.uk/
・Costa Coffee, Communities ━ Sustainability(検索日:令和6年8月16日)
https://www.costa.co.uk/sustainability/communities