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民営化から30年以上!ロンドンの水道事情にクローズアップ

2020年11月30日 

水道事業の民営化というと、日本では令和元年10月に水道法が改正されたのが記憶に新しいが、英国(イングランド・ウェールズに限る。)※1では、サッチャー政権下においてガス、電気が民営化されたのに続き、1989年に水道事業が民営化された。世界的にも、英国は「民営化」の先駆けだったと言える。

 英国の水道事業の歴史等については、当所で発行しているクレアレポート(イングランドとウェールズの水道 1993年)にて既に取り上げていることから、説明は省略し、本稿では、現在の水道事情について、当職の体験を含めながら紹介することとしたい。 

※1本稿では、英国はイングランドとウェールズを指す。

1 水道管の劣化?頻発する漏水 

 ここ数年、英国では、汚染事件や漏水事故、高額な料金などに関し、水道会社に対する不満が広がっている。 漏水事故に関しては、1990年代半ばに比べれば減少しているものの、2001年以降は漏 水への取り組みは遅々として進んでいない。BBCの報道によると、ロンドンの水道管は6年半で36,000回(※2018年2月時点)破裂・漏水しており、その主な原因は、ビクトリア朝時代から継続して利用されているパイプの劣化と言われている。  

 例えば、ロンドンで最大の水供給会社であるThames waterは、2018年に漏水に関する管理が不十分であるとして、規制当局であるOfwat(Office of Water Services)※2から、顧客へ補償金1億2,000万ポンドを支払うよう命じられている。 

 水道公社が管理していた時代から、保守管理のためのインフラ投資は不十分であり、修繕が必要な水道管が数多く存在していた。当時の英国では、民営化によってこの問題を解決できると考えられていたが、実際のところ、現在も水道会社はインフラ管理・維持費用に悩まされ続けている。 

 民間企業である水道会社としては、これら管理・維持コストを水道料金値上げという形で回収したいというのが自然な考え方であるが、料金の上限設定については、Ofwatが権限を持っているため、自由に値上げすることはできない。 

 結果として、水道料金で利益を得られず、インフラ投資もできないとして、制度に不満を訴える水道会社も少なくはない。 

  しかしながら、英国の水道会社は、民営化以降、株主に高額な配当金を支払い続け、重要なインフラ維持・管理への投資をしてこなかったという批判が報道されている(ガーディアン紙)のも事実である。 

※2Ofwatは、消費者保護を目的とし政府から独立した機関。5年に1度、各社の経営状況や事業評価に応じて水道料金上限値を設定しており、水道料金の高騰を防ぐ役割を担っている。 

2 民営化後も、進まないメーター設置 

  漏水防止等に役立つ水道保守管理の効率化手法の1つに、各戸への水道メーター設置が挙げられるが、英国では、民営化後も水道メーター設置は遅れており、2015年時点で、英国の水道メーター普及率は約40%。実際、我家にもメーターは設置されていない。メーターがない場合は、不動産の評価額を基に積算された定額を支払うことになる。 

  環境庁やOfwatは、適正料金の算出、漏水の早期対応等への理由から、水道使用者である住民等にメーターを設置するよう促しているが、設置に係る費用は水道会社が負担するため、水道会社は積極的ではない。また、使用者側としても、メーターを設置すると、定額制から従量制になるため、水道料金が高くなるのではないかという懸念により、設置に前向きではない人が一定数いるのも確かである。 

3  水を届ける「プライオリティーサービス」 

 当職が住むロンドン北部地域では、先日、水道管が破裂するという事故が発生し、広範囲で一時的に水道が使用できない、または水圧が弱まるなどの影響があった。  

 工事の進捗状況については、水道会社の公式webページにおいて情報が逐次更新されるほか、登録者へは携帯メッセージにより状況を説明するなど、住民の混乱を防ぐための細やかな情報発信があったのは、民間企業ならではの対応と思われた。 

【ロンドンの水道会社の1つ。Affinity Water社のホームページ】

   加えて、このような断水を伴う修復工事中には、水道会社は、医療・福祉の観点から、水が必要不可欠な人に、無料で水を家に届ける「プライオリティーサービス」を提供している。いつ復旧するか分からない重大な事故の場合にも、このようなサービスがあれば安心できるのではないだろうか。  

 幸いなことに、今回の漏水で我が家の水道が完全に止まることはなかったが、断水するかもしれないという緊急事態に際し、震災以降に得た防災の知識(ホイルを食器にして洗い物削減等)を生かして、冷静に対応することができた。 

 近隣地域では飲用水が売り切れたという話もあり、どこの国でも、最終的には自分のことは自分でなんとかするという精神が大切であることを、身をもって体験できたことは貴重な体験であった。 

 その上で、前述の「プライオリティーサービス」のような、社会的弱者を助ける仕組みが必要なのは言うまでもない。 

 英国の実情を見るに、水道民営化によってあらゆる課題が解決されるという考えは楽観的過ぎると言わざるを得ないが、よりよい水道事業の在り方を検討する上では、英国の現状は参考になるのではないだろうか。 

 更に、英国の水道事業について深く知りたい方は、当事務所発行のクレアレポ―トをご覧いただきたい。 

イングランドとウェールズの水道1 

イングランドとウェールズの水道2 

自治体国際化フォーラム2012年1月号「地方自治体と際水ビジネス」内のP8-9英国の水道事業 

                             (新野 所長補佐 2020.11)

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