日本でも多くのスポーツイベントがボランティアによって支えられています。例えば、私の派遣元である岡山市で開催されているおかやまマラソンでは、総勢5000人近いボランティアが参加し、多くの職員も運営に関わります。私自身もコースの沿道整理や総合案内所などに立ったり、ボランティアの当日の受付をするなどといった関わりをしてきました。その他にも、市民体育大会や駅伝大会などいくつかに関わってきた経験から、イギリスのスポーツイベントではどのような運営がなされているのだろうかと気になっていたところ、世界的にも有名な馬術のイベントで、子どもの頃からの憧れでもあったLondon International Horse Show がボランティアの募集をしていたため、実際に参加することができましたので、その様子をご報告します。
イベントについて
London International Horse Showは、1907年から開催されている馬術競技大会で、オリンピック種目である障害飛越競技と馬場馬術競技の他に、馬車競技やシェットランドポニー競馬、ドッグアジリティー、騎兵隊のショーなども行われます。
また、併せて大規模なショッピングビレッジも設けられ、乗馬ファンにとっては世界レベルの競技やショーとショッピングが楽しめる一大イベントとなっています。
例年はOlympiaというロンドン内の別会場で開催されているため「Olympia」と呼ばれているイベントですが、昨年は中止、今回はより規模の大きいExcelロンドンでの5日間の開催となりました。
参加申込み
このイベントへは元々観客として訪れる予定だったので、Facebookアカウントをフォローしていたところ、ボランティア募集の投稿があり、申込むことにしました。
申込みは公式サイトから行うようになっており、日にちと朝昼夕のシフトを選択するようになっていました。
申込み後しばらくして、「受付は完了しているので、数週間連絡を待つように」とのメールが届きました。
最終的に詳細に関する連絡が届いたのは開催10日前。ボランティアの登録者は200名程度のようで、1日のみの参加の人から、5日間全て参加する人もいるようでした。
日本の感覚からすると正直なところかなり連絡が遅く、そのためにキャンセルしてしまった方もいたようです。
事前説明会
イベントが始まる前日の午後、ボランティア説明会が開催されました。
会場となるExcelロンドンの会議室に集まったのは100人程度で、過去のイベントでのボランティア経験のある方も多いようでした。
ここではポロシャツ2枚とベスト、関係者であることを示すリストバンドが手渡され、イベントの概要と混雑状況、来場方法、緊急時の対応方法などについて説明があり、その後会場を歩いて回りながら、各場所の位置について説明を受けました。
そして、欧米版LINEのようなWhatsAppというSNSのグループのQRコードが回覧され、このグループにて連絡を行うということでした。
この日に割り当てが決まると思っていたのですが、コロナの影響などで流動的だからということで、当日着いた時に割り当てられるとの案内がありました。事前にリストを元に当てはめるのが当然と思っていたため驚きました。
ボランティアの業務:選手席の案内
ボランティアの主な役割は、会場の席の案内や、ゲートの開閉、インフォメーションセンターでの案内でした。
初日にボランティアセンターで割り当てを決める際、英語があまり得意でないことを説明したところ、選手席の案内係を割り当てられました。指定席ではなく、マナーの悪い方も少ないため、たまに食べ物の持込みが不可能なことを説明するくらいで、特段トラブルもありませんでした。
観客席では多くの場所で警備会社の人も配置されており、ボランティアは観客が最初に接するポイントではありますが、トラブルになりそうな時は警備会社の人が対応してくれるという形になっていました。
私が割り当てられた日は、リストバンドや関係者バッジをつけていれば入れるというルールで動いていたのですが、翌日はリストバンドの色を制限し、選手のみに限定するという方針になったようで、そのあたりのルールが事前にしっかりと決められ、案内されていないと対応が統一できないとも感じました。
ボランティアの業務:ゲート係
2日目はゲート係に配置されました。
この係は、競技人馬と観客が交差する場所のゲートと、競技会場に入る二重の扉を開閉する業務で、30分ごとに役割を交代して行いました。
特に競技会場に入る直前の扉は、客席からもよく見える場所に位置していたため、特に行動に気をつけるよう注意があり、人馬が頻繁に双方向に行き来するため、かなり集中力を使う業務でもありました。
競技人馬だけが通る箇所は競技の進行や人馬の安全な通行を妨げてはいけないという緊張感がある一方、競技人馬と観客が交差するゲートでは、いま行われている競技があと何秒くらいかかりそうか、競技関係者で閉鎖中でも通さないといけないかなどさらに判断すべき事項が増えるため、配置に付いている4人の判断が揃わず戸惑うこともありました。
このゲート係は、会場内の案内係が見晴らしの良い客席にいるのとは異なり、会場に1番近いゲートへの配置になる時以外は競技を見ることはできませんが、そのゲートの手前に立っている時には、わずか10メートルほど先で馬が巨大な障害を飛び越えるのを見ることができ、その他の場所でもこれから競技に向かう人馬の息遣いを感じることができたため、より「参加している」という実感が得られました。
休憩や困りごとに関する担当者やボランティアとのやり取りはWhatsAppグループで
メイン会場でのプログラムは、朝、昼、夜とチケットが分かれているため、客席係ではプログラムの合間に1時間ほど休憩をしながら食事を取る時間があり、元の配置に戻る時間もWhatsAppグループで案内がありました。また、ゲート係では、11時から16時までの間で30分間の休憩を取ることができました。食事代は16ポンド分(食べ物と飲み物を買って少し余る程度)のクーポンをもらうことができ、会場内のお店で購入することができました。
基本的に、困ったことがあったり、短い休憩を取りたい場合、帰る時間になっても交代するボランティアがいない場合などは、WhatsAppグループで呼びかけると、ボランティア担当者からアドバイスがもらえたり、手の空いているボランティアが駆けつけてくれるようになっており、ボランティア担当者は1〜2人が指示出しと他の関係者との連絡調整、もう1人は現場に駆けつけて問題に対応したりしていました。このWhatsAppグループでのやりとりはかなり頻繁で、全てのメッセージを追いかけるのが難しい時間もありましたが、質問やその答えがすぐに全員に共有され、休憩したい人が気軽に声を上げ、交代していく様子は、今までに体験したことのないものでした。
新型コロナウイルス対策
1日に9万人も感染者が発表される中でも開催で開催されたこのイベントでは、入場者はワクチンを2回接種した証明か、抗原検査などの陰性証明を見せる必要がありました。
また、ボランティアは毎日簡易検査を行うよう指導されていました。
しかし、客席は飲み物とスナック類は可能だったため、スポンサー企業のシャンパンを飲みながら観戦していてなかなかマスクを着用しない人や、司会者から声を出すよう呼びかけられる場面があるなど、特に感染者の多いロンドンで、客席もかなり埋まっている状態を考えると、少し心配になる状況も見られました。
感想
まず、当日に割り当てを決め、その後もWhatsAppグループを使って個々に調整していくというボランティアの配置のフレキシブルさに驚きました。
実際に、地下鉄の遅延や他の事情で参加できなくなってしまった人や、少し早く帰らないといけなくなった人がグループ内で連絡をしていたり、逆に予定より早く着いたので、休憩のカバーに回るという申し出をしている人もいました。しかし、連絡なく当日来なかった人もかなりいたようで、交代要員が確保できない時間もあったようでした。私が運営側に立つことを考えると、どうしてもある程度事前に決めてしまわないと不安に感じたり、連絡なしに欠席する人が多いと最低限必要な人数に満たないこともあるのではと心配してしまいますが、実際にこのような方法でも運営が回っていることに一種のカルチャーショックを受けました。
また、参加しているボランティアの中には、毎年このイベントと春にあるもう一つのイベントに参加している人や、遠方から来てホテルを取って参加している人もおり、ボランティアの人たちからも愛されているイベントであることも実感することができました。
子どもの頃から憧れていたイベントにボランティアとして参加することができたことは本当に光栄で、一緒にボランティアに参加した人たちと交流をすることができたことも、イギリスの馬術文化を知る上でよい経験となりました。
海外でのスポーツイベントでのボランティア体験談の一つとして、参考にしていただければ幸いです。
(2021年12月 所長補佐 金子)