英国において2021年1月5日から開始された3度目のロックダウンは、3月~6月にかけて段階的に緩和・解除される方針となっている。4月12日からは、第2段階の緩和が始まり、屋外でのバーやレストランの営業や、動物園などの屋外型の集客施設の営業も可能となり、ロンドン動物園もこれを機に再開されることとなった。
日本には多くの動物園があり[1]、また、自治体(公社等外郭団体、指定管理者)が運営している施設も少なくないが、新型コロナウイルス感染拡大予防のための対策や、収入の確保は、世界中の動物園等の集客施設が抱える課題であると思われる。ロンドン動物園の取り組みについて、参考となる情報があればと思い、ロンドン動物園における、新型コロナウイルス感染拡大予防策や、収入源の多様化の取り組み(特に寄付金)について調査した。
ロンドン動物園は、ロンドン中央部のリージェンツ・パーク内にあって、1828年に開園した世界最古の科学動物園と言われており、2021年1月時点で約440種、約2万の個体が飼育されている。(大型動物だけでなく、昆虫等も含む数)[2]
運営主体はロンドン動物学会(以下、ZSLという)という慈善団体(Royal Charter charities)であり、ZSLは、ロンドン動物園と、ウィップスネード動物園の2園を運営しているほか、英国内にとどまらず世界中で生物多様性の保全・研究の取り組みを行っている。
(1)新型コロナウイルス感染拡大予防のための対策
ロンドン動物園における新型コロナウイルス感染拡大予防対策は、主に次のようなものである。
(記載内容はすべて、本レポート執筆時点(2021年4月28日)のもの。)[3]
チケットの事前予約制 | 過密状態を避けるため、一日の来園者数を制限してチケットを販売。 |
片道ルートの設定
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来園者どうしのソーシャルディスタンスを保つため、動物園内に、3つの片道ルートを設定。来園者は、この中から、入園直後にまず1つのルートを選択することとなる。これらのルートは、すべて動物園の中庭で終わるよう設計されており、動物園内にいる限り、任意の順番で何度でも利用できる。 |
屋内エリアの閉鎖 | 屋内エリア(爬虫類館、昆虫館など)は引き続き閉鎖されたままであり、屋外エリアのみを利用可としている。園内スタッフによると、5月中に見込まれるロックダウンの更なる緩和のタイミングでの再開を目指しているとのこと。 |
飲食店はテイクアウト専用 | 園内のレストランは営業はしているが、食事の提供はテイクアウト専用となっている。 |
決済は現金非対応 | デビットカード、クレジットカードなどの非接触型決済のみを受け付けており、現在、現金は受けつけていない。 |
動物についての解説イベントやふれあい体験コーナーの中止 | 来園者と飼育員の安全確保のため、人々が一か所に集中しないよう、動物についての解説イベントや、動物とのふれあい体験コーナーは中止となっている。 |
来園者に呼びかけられていること | ・指定エリアでのマスク着用義務(3歳以上の来園者は、一部のエリアでマスク着用を求められる。園内スタッフによると、ウイルスが動物、特にヒトに近い種(霊長類等の哺乳類)に感染するリスクを最小限に抑えるためとのこと) ・手指消毒の励行 ・ソーシャルディスタンスの確保 (可能な限り、来園者どうしは、2メートル以上の距離を保つこと) ・(後に感染が判明した際の追跡・連絡のため、)専用ウェブページ等による連絡先の把握 ・フェンス・窓・看板・展示物に触れないようにすること |
(2)収入源の多様化の取り組み(主に寄付金について)
ZSLの2019-20の年次報告書(決算日4月末)によれば、ZSLの総計66.9百万ポンド(100億円)の収入の内訳は、下記のとおりとなっている。 [4]
・入園料及びメンバーシップ(年間会員)収入:29.3百万ポンド(44億円)
・補助金等:15.9百万ポンド(24億円)
・物販・ケータリング等の事業収入:12.4百万ポンド(18億円)
・寄付等:7.5百万ポンド(11億円)
・その他:1.8百万ポンド(3億円)
日本の動物園と比較して、ロンドン動物園の収入源は多様である。特に、寄付金収入の比率の大きさは特筆すべきと思われる。
寄付金という点では、日本でも、ふるさと納税の使途として、寄付金が動物園整備に充当されるケースが見られるが、ロンドン動物園に限らず欧米の動物園では、寄付金が収入の大きな柱になっており、組織内に寄付金を集める専門のチームもあることも珍しくない。[5]
ZSLでは、一般の人でも寄付がしやすいように工夫をしており、以下に、その多様な寄付メニューの一部を紹介する。[6]
チケット購入時の募金案内 | 通常の入園チケットを購入するウェブページ上、募金を含む料金、含まない料金が併記され、いずれかが選択できる形で表示される。 |
メモリーベンチ | 2000ポンド(30万円)以上の寄付で、メッセージ付きの真鍮製のプレートがついたベンチを、園内の思い出の場所など、好きな場所に設置できるもの。とはいえ、園内のどこにでも見られるものではなかったため、園内スタッフに尋ねたところ、現状、それほど多く設置されている訳ではない模様であり、カバ舎のそばに設置されているのを確認できたのみであった。 |
遺灰の散布 | これはかなり変わった手法であるように思われるが、200ポンド以上の寄付で、ロンドン動物園と、ウィップスネード動物園で、早朝に、遺灰の散布をすることができるというもの。 |
誕生日等のプレゼントの代わりの寄付の呼びかけ | 自身の誕生日、クリスマス、結婚式等の記念日にあたり、寄付を集めるためのオンラインページをあらかじめ設けておき、家族や友人からのプレゼントをもらう代わりに、ZSLに対する募金を呼びかけてもらう、というもの。 |
養子縁組パック | 20ポンド(3000円)で、ナマケモノ、ペンギン、トラ、ライオン、キリン、ゾウのいずれかとの1年間限定の養子縁組の証明書、ノート、しおりなどのセットを購入できるというもの。 子供や孫への誕生日・クリスマスのプレゼントなどとして利用されている。 ※これについては、寄付のページではなく、グッズ販売ページに商品として掲載されているもの |
おわりに
ZSLは、1月5日から始まった3度目のロックダウンによる影響だけでも1.8百万ポンド(2.7億円)の減収となり、また、3度にわたるロックダウン全体では、26百万ポンド(39億円)の減収[7]という大きな影響を受けている。実際、筆者が訪れた日も客足はまばらであり、引き続き、コロナ禍が経営に大きな影響を与えてることは想像に難くない。
一方で、このような状況下においても、園内各所にいるスタッフが、(一定の距離を保ちつつも、)実に気軽に笑顔で声をかけてくれるのが非常に印象的であり、またうれしくもあった。動物たちだけでなく、動物園を支えるスタッフにも会いに、ロックダウン解除後に再び訪れたいと思う。
[1]https://www.jaza.jp/about-jaza/structure
2021年4月14日現在、(公社)日本動物園水族館協会正会員の日本国内の動物園は91園。
[2]https://www.zsl.org/about-us/list-of-animals-and-animal-inventory
[3]https://www.zsl.org/zsl-london-zoo/coronavirus-safety-measures-at-london-zoo
https://www.zsl.org/coronavirus-london-whipsnade-zoo-update
[4]https://issuu.com/zoologicalsocietyoflondon/docs/zsl_annual_report_2019-20?fr=sMDU1OTIwNDgxMTg
なお、本文中、為替レートは、1ポンド=(約)150 円(2021年 4 月時点)を適用。
[5]https://tust.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=330&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=13
[6]https://www.zsl.org/support-us/donate-to-zsl/donate-in-memory
https://www.zsl.org/support-us/donate-to-zsl/celebrate-and-donate
[7]https://www.reuters.com/article/uk-health-coronavirus-britain-zoo-idUSKBN2AF0EY
https://www.zsl.org/zsl-whipsnade-zoo/news/zoo-gates-crash-open
(2021年4月 所長補佐 西川)