2020年度のロンドンマラソンは、新型コロナウイルス感染症対策のため、完全無観客のセントジェームズパーク内特設周回コースで行われた。
街中でのポスターや旗での宣伝も無く、たまたまセントジェームズパークの入り口に掲示してあったシンプルな看板を読んで、ロンドンマラソンが10月4日に開催されることを知った。
エリートランナーは無観客・周回コースでの開催
例年は4万人を超える市民ランナーが参加するロンドンマラソンだが、今年は会場での参加はエリートランナーのみに限定された。
さらに、通常はロンドン市内各所を巡るコース、75万人の観衆の声援の中で開催されているのだが、ロンドン中心部にあるセントジェームズパーク内を19.7周するコースが用意された。公園内には観客は一切立ち入ることができず、公園の外からも見ることができない完全無観客の状態での開催となった。
45,000人のランナーのほとんどはロンドン市外で参加
参加することができなくなった市民ランナーは、開催日である10月4日の24時間の間に、居住エリアの道や公園などを通る自ら選んだ42.195kmを、アプリで走行距離や時間を記録しながら走った。
バーチャル参加のランナーの様子はロンドンマラソン中継の中でも紹介された。海辺で走っている人や、最大限に時間を使うために夜0時に走り始めたグループもいたようだ。
時間制限が24時間となったこともあり、アプリに走行記録を残した約45,000人の参加者の内、36,000人以上が完走した。
開催の経緯
当初、ロンドンマラソンは4月26日に開催される予定だったが、まだパンデミックが始まりかけている段階の3月中旬に10月4日への延期が発表された。その後開催に向けて慎重に検討が重ねられた。7月から8月にかけて新規感染者数が改善されてきていたものの、気温が下がる秋や冬には感染者が再び増加する可能性があり、4万人がロンドン市内を走り抜けるのは困難だということで、エリートランナーのみ、周回コースでの開催とすることが、8月に発表された。
当初、サッカースタジアムやF1コースでの開催も検討されたが、既に王立公園やロンドン市、ウエストミンスター区との深い関係性があったことから、セントジェームズパーク内で開催することになった。
徹底した新型コロナウイルス感染症対策
ワールドクラスの選手を招いて安全に大会を開催するために、徹底した感染症対策が行われた。
大会開催9日前の9月28日から10月5日までの間、選手や関係者は、ロンドン近郊の練習やトレーニングのできる宿泊施設で外部から完全に隔離された状態で過ごした。
検査も入念に行われた。それぞれの選手・スタッフが普段トレーニングを行っている国からロンドンへ移動する前、ロンドンのホテルへ到着した後、そして大会前の10月2日にも検査を行った。参加予定だった選手やサポートスタッフの中には、陽性反応がでてロンドンへ到着することができなかった人もいた。
さらに、多くのランナーはケニアやエチオピアなどから参加しており、選手が一般の乗客と混ざって移動するリスクを軽減するために、東アフリカから参加する選手のためにチャーター便も用意した。
今年3月1日に開催された東京マラソンでは、新型コロナウイルス感染症対策として、エリートランナーのみの参加、コースの見直し、ボランティアの人数の大幅な削減などが行われていたが、公道を使用してのレースでは、それでも多くの運営・警備スタッフが必要となり、沿道での観戦を完全に禁止することも困難である。
多くの市民ランナーが訪れることでの経済効果を期待することはできないが、上位の大会への選考を含むようなエリートランナーの参加する大会は、このパンデミックが収束するまではロンドンマラソンのような形態での開催が、一つのモデルとなるのではと感じた。
(2020.11 所長補佐 金子)