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ADレポート「英国におけるラストワンマイルの取り組み」

2021年09月14日 

ラストワンマイルとは、元々は通信業界で用いられていた用語で、「生活者や企業に対し、通信接続を提供する最後の区間」を意味していたが、現在は物流、交通分野においても多く用いられており、「顧客にモノ・サービスが到達する最後の接点」のことを指している。

今回のレポートでは、英国(主にロンドン)における、このラストワンマイルにおける各分野での取り組みについて紹介する。

 

物流分野:ラストマイル物流ハブによる配送車両削減と大気汚染低減

英国においては、EC市場の拡大に伴う配送車両の交通量増加などによる、ラストワンマイルにおける交通渋滞や大気汚染などの問題が深刻なものとなっていた。

そこで、ロンドン中心部の自治体「シティ・オブ・ロンドン・コーポレーション(City of London Corporation)」は、昨年末、ロンドン中心部の配送を集約し、交通量を減らし、有害な排気ガスを削減するための初のラストマイル物流ハブを承認した。これは、ロンドン・ウォール駐車場の39台分の駐車スペースを、アマゾン・ロジスティクスのハブとして活用するものであり、宅配便のラストワンマイルにおける配達は、宅配用電動アシスト自転車と徒歩にて行われ、「シティ」の道路から大量の宅配用自動車が削減される。具体的には、アマゾンのラストワンマイル・ロジスティクスハブだけでも、1日に最大85台の車両が道路から削減され、ロンドン中心部での車両移動が毎年23,000回も減少するとしている。

シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションの交通戦略の中では、自動車による物流が「シティ」に与える影響を軽減する重要性を強調しており、「シティ」が健康的かつ魅力的で、住みやすく、働きやすく、学びやすく、観光等で訪問しやすい場所であることを目指し、ラストマイル・ロジスティクス・ハブを含む施策を実施している。

シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションは、2022年までにさらに2つのラストマイル・ロジスティクス・ハブを提供することを予定しており、2025年までに合計5つのラストマイル・ロジスティクス・ハブの設置を目指している。

 

交通分野:パーソナルモビリティの普及

ラストワンマイルの交通手段として期待されている電動マイクロモビリティのうち、特にe-scooter(電動キックボード)は、米国をはじめ世界各国で急速に普及が進んできている。

日本においてもe-scooterの実証実験が始まっているが、英国においても、これまで主にイングランドの都市を中心に実証実験が各地で展開されており、首都ロンドンにおいては、今年6月から公道でのe-scooterのレンタルサービスの実証実験が開始されている。(参考:これに先立ち、2018年から、ロンドン東部のオリンピックパーク敷地内(私道)ではe-scooterの実証実験が始まっていた。)

レンタルe-scooterの提供会社は、提供する車両について、下記のような要件を満たす必要がある。

・速度は時速12.5マイルに制限(「ジオフェンシング」テクノロジーを使用して、特定の「低速」エリアの境界に到達すると時速8マイルに減速、各トライアルエリアの境界に到達すると安全に停止)

・e-scooterには常に点灯するフロントライトとリアライトを装着

・ハンドルから手を離さずに操作できる「音による警告システム」の搭載

 

筆者が居住する、ロンドンのアクトン地区でも、今夏のごく短期間のうちに多数のレンタルポイントが設置されたため、試しに乗車してみた。

筆者が利用したLime社のe-scooterの場合、専用のスマホアプリをダウンロード後、運転免許証のスキャンデータの送信を求められる。免許証の審査が通った後、車体のQRコードをスマホアプリでスキャンすると開錠され、乗車が可能となる。

あらかじめ、Lime社のサイトで運転方法の解説動画を確認し、「安全運転クイズ」にも回答した上で、ヘルメットを被り、いざ乗車した。

ハンドルやブレーキ操作はほとんど自転車や原付を思わせるようなものとなっており、簡単に運転に慣れることができた。最高速度を出しても、体感的にはそれほど早く走るものではなかったが、道路自体に凹凸や石などがよくあるため用心しながら運転をした。電動のため、ほとんど音もなく静かに走行する。

目的地近くのレンタルポイントにて駐車後、スマホアプリで、車体をレンタルポイントに駐輪した旨の写真を撮影して送信して返却完了となる。

e-scooterの利用料金は、基本料金が1ポンド、1分あたり0.16ポンドが課金され、カード決済を行う。なお、Lime社は保険会社と提携しており、万が一の乗車中の事故の際にも、運転者や被害者への補償が約款に基づきなされるようである(保険料は利用料金に含まれている)。

おわりに

ロンドンの公道は、元々の道幅が広くない上に、多くの場所で路上駐車が認められていることにより、実際に通行可能な道幅が非常に狭いことが珍しくなく、e-scooterによる事故のニュースもよく目にする。このため、特に都心部で運転する際には相当の注意が必要と思われる。しかしながら、郊外の、交通量が少なく公共交通機関のサービスレベルが都心部に比べて劣るエリアにおいては、家と店舗との間など、ちょっとした移動の際などには非常に便利であると感じた。また、電動キックボードに乗車したのは今回が初めてだったが、まるで遊園地の乗り物に乗っているかのような、やや童心に帰るような気持ちで、風を切る爽快感を味わいながら快適に乗ることができた。

ラストワンマイルにおける変化は、市民・消費者・ユーザーが普段目にする世界観の変化に直結する。新しい制度や新しいテクノロジーを駆使した、ラストワンマイルでの様々な取り組みが活発に行われることにより、人々や社会をより豊かにする(特に、豊かさや社会の進化を”実感”させる)ことの可能性を大いに感じた。

 

出典等
https://news.cityoflondon.gov.uk/city-of-london-corporation-teams-up-with-amazon-to-cut-delivery-vehicles-and-improve-air-quality/
*https://zagdaily.com/places/where-are-the-uks-e-scooter-trials/
https://www.theverge.com/2021/5/17/22440320/london-electric-scooter-rental-trial-dott-lime-tier
https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-london-57154993

(2021年9月 所長補佐 西川)

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