調査・研究

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英国

英国の児童貧困と無償学校給食の取り組み

2020年11月30日 

 

英国の貧困の現状

英国は世界で7番目に裕福な国ですが,食糧面に不安を抱えている家庭が多いのが現状で,約840万人が貧困の危機に瀕しているとされており,これはロンドンの人口と同程度です。 EVIDENCE AND NETWORK ON UK HOUSEHOLD FOOD INSECURITYの調査によれば,英国の成人の10%が「食糧調達に不安を抱える家庭(Food Insecure Households)」予備軍,他の成人10%と子供の19%は中程度もしくは重度の「食糧調達に不安を抱える家庭」に所属しています。一方,2018年には英国で9.5億トンの食糧が廃棄され,そのうち70%はまだ食べることが可能なものでした。貧困な食生活は,二型糖尿病や心臓病,ガンなど深刻な病気に繋がることから,目下の飢餓やストレスだけでなく,社会への長期的な影響が大きいためフードロスの削減と貧困の改善が強く求められています。

 

無償学校給食の取り組み

貧困に瀕する子供を助けるため,イングランドでは無償学校給食(Free School Meal,以下FSM)の取り組みが行われています。国から生活保護などの社会保障を受けている家庭の子供や,親・保護者に代わって国から直接社会保障を受けている子供が対象で,申請の処理やFSMの提供は自治体の責任で行われています。FSMにかかるコストは政府から各学校への助成金によって賄われます。

また,英国の学校では昼食だけでなく朝食まで学校から支給される場合があります。朝食の提供は学校に義務付けられていることではありませんが,実際に多くの学校が朝食クラブの取り組みを行なっています。例えばMagic Breakfast社は政府教育局との契約のもと,35%以上の児童がFSMの対象資格を持つ学校で朝食クラブを運営しており,コストは個人や企業からの寄付によってカバーされています。

 

新型コロナウイルスのロックダウンと学校給食

英国政府は,2020年3月に始まった新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンの最中も貧困児童の救済のため上記FSMを継続していましたが,7月で終了する予定でした。しかし22歳のプレミアリーグ選手のマーカス・ラッシュフォード氏が6月に下院議員宛に書簡を送り、政府に方針の変更を訴え,FSMの継続の約束を取り付けたことが英国では大きなニュースになりました。ラッシュフォード氏のおかげで,イングランドの130万人の子供が夏休み中も無料で給食を受け取る事ができるようになったと報じられています。ラッシュフォード氏は10月に大英帝国勲章も授与されています。

英国では秋頃から新型コロナウイルスの第2波が押し寄せ,日々の新規感染者数が1万人を超えている中,クリスマス休暇もFSMを至急するべきだという声が高まっています。ラッシュフォード氏の活動には25万人の署名が集まっており,労働党(野党)もこのキャンペーンに参加し始めました。しかし保守党(与党)は,学校閉鎖中の貧困家庭を救済するため,93億ポンドの社会保障費を追加で用意したほか,自治体が貧困家庭に生活必需品を提供するために630億ポンドの追加支給を既に行なっており,「休暇中に食事を提供するのは学校の役割ではない」という主張を今のところ曲げていません。政府の今後の対応に注目が集まっています。

参考URL
https://leftfootforward.org/2020/10/8-shocking-facts-about-food-poverty-in-the-uk/
https://www.gov.uk/apply-free-school-meals
https://commonslibrary.parliament.uk/free-school-meals-in-england/
https://www.magicbreakfast.com/plan-your-own-fundraiser
https://www.bbc.co.uk/news/uk-54579549

 

(2020.10 所長補佐 阿部)

 

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