現在も新型コロナウイルスの感染が深刻化する国が多く存在する中、英国では、3度の厳しいロックダウン措置を経て、国内感染者数は減少傾向にある。また、昨年末より開始されたワクチン接種も今年7月末までに18歳以上の全成人人口の接種を終えることを目指して順調に展開され、現在、英国の成人人口の7割近くが第一回目の接種を終了している。今年1月より実施されている3度目のロックダウンについては、その緩和に向けたロードマップが2月に打ち出され、3月より段階的に規制緩和が進められており、今月17日には、一部海外旅行の再開を含む、さらなる緩和が進められる予定である。
本レポートでは、現在の英国における感染者数の推移及びワクチンの接種状況、今後予定されている規制緩和の内容について報告する。
1 英国における感染者数の推移
英国では、2020年3月より実施された1回目のロックダウン実施中の4月に最初の感染のピークを迎え、夏にかけて一時減少したものの、秋には感染者数が再び増加した。その後、11月に2回目のロックダウンを実施し、再度減少に転じるも、変異株の広がりにより、年末に感染が急拡大し、ピーク時には、一日の新規感染者数が約6万8,000人(2021年1月8日)、死者数が1,820人(2021年1月20日)にものぼった。
3回目のロックダウン措置が講じられた1月初旬から約4カ月が経過した現在(5月11日時点)の英国における一日の新規感染者数は2,474人(10万人当たり3.7人)、死者数は20人(10万人当たり0.03人)となり、ロックダウン措置とワクチン接種の進展により、急激に減少している。
<図1 英国内一日あたり感染者数・死亡者数(5月11日)[1]>
一方、日本では、2021年3月21日に1都3県の緊急事態宣言が解除された後、徐々に新規感染者数が増加し、5月の大型連休前には全国で5,000人を超える感染者数を記録した。4月25日には、4都府県に対して、3度目の緊急事態宣言が発出されたが、現在(5月11日)も、一日の新規感染者数は6,238人(10万人当たり4.96人[2])、死亡者数は123人(10万人当たり0.09人)を記録するなど、未だ高い水準にあり、10万人当たりの感染者数をみると、日本は英国における感染者数を上回っていることが分かる。
2 英国におけるワクチンの接種状況
英国では、昨年12月にワクチンの接種が始まり、現在(5月10日時点)までに、3,558万人(成人人口の67.6パーセント)が1回目の接種を、1808万人(成人人口の34.3パーセント)が2回目の接種を終えている。特に高齢者、介護施設の入居者や医療・介護従事者など、感染リスクの高い接種対象者が含まれる9つの優先グループについては4月中旬までに接種を完了し、現在は38歳以上を対象に、順次接種が進められているところである。
<図2 英国ワクチン接種者数(5月10日)[3]>
3 5月17日からの規制緩和について
英国政府は、今年2月22日、イングランドにおけるロックダウンの緩和に向けたロードマップを含む「新型コロナウイルス対策 2021年春」(原題:COVID-19 RESPONSE – SPRING 2021[4])を発表した。規制緩和に向けたステップを4つに分け、各段階においてワクチンの接種状況やその効果、入院患者数の推移などの条件が満たされた場合に、次のステップへ進むこととしている。3月には、緩和策の第一段階である「ステップ1」に進み、8日に学校の対面授業が再開されたほか、29日からは屋外スポーツ施設の営業が再開し、6人または2世帯までの屋外での社交が解禁された。「ステップ2」は4月12日から始まり、生活必需品以外の小売店やスポーツジム、理髪店、バーやレストランでの屋外サービスも再開され、12日当日の英国全体の小売店来客数は前週と比較して146パーセント増加[5]した。ロンドン中心部の繁華街では、百貨店や衣料品店などに訪れた買い物客による長蛇の列やパブ・飲食店の店外に設けられた席で久々の外食を楽しむ人で賑わう様子が見られた。
そして5月17日には、予定どおり「ステップ3」へ移行することとなる見込みである。今回のステップ移行による緩和内容は下のとおりとなり、博物館や美術館、劇場のほか、レストランやパブ、バーなどの飲食店における店内飲食が可能となり、観光ホテルの営業も再開される。
<「ステップ3」の緩和内容について(5月17日より適用)[6]>
・屋外でのほとんどの社会的接触の規制が解除。(上限30人)
・屋外での劇場公演や屋外での映画館が再開。(屋内では上限6人または2世帯)
・屋内でのパブやレストランなどのホスピタリティ施設、屋内での映画館や幼児向け遊具施設といった娯楽施設、その他の宿泊施設、屋内での大人のグループスポーツや運動教室が再開。
・屋内会場での公演やスポーツイベントが開催可能。(最大1,000人または収容可能人数の半分のいずれか少ない方まで)
・屋外会場での公演やスポーツイベントが開催可能。(最大4,000人または収容可能人数の半分のいずれか少ない方まで)
・着席型の更に大型の屋外施設の再開。(最大1万人または座席総数の4分の1まで)
ロードマップにおける制限緩和に向けた最終段階である「ステップ4」については、6月21日またはそれ以降に移行が予定されており、ナイトクラブの再開及び上記「ステップ3」にて適用された大型イベントや公演に関する制限がすべて解除される予定である。
4 海外からのイングランド渡航に関する制限及び海外旅行の一部再開について
英国政府は、2021年5月7日、各国・地域を感染やワクチンの接種状況を踏まえた危険度に応じて、信号機と同じ「青・黄・赤」の3色に色分けし、各国・地域からの入国に際し必要となる措置を定める「シグナル・システム[7]」を導入することを発表した。今回、青(Green)に指定された12か国については、イングランドに帰国後の隔離措置は求められていない。これに合わせて、これまで原則禁止としてきた海外旅行について、ロンドンを含むイングランド地方の住民に限り、5月17日より青(Green)に分類された国へのレジャー目的での渡航を解禁することとしている。黄(Amber)及び赤(Red)に分類された国については、引き続きレジャー目的での渡航は認められていない。
<表 シグナル・システムについて[8]>
色分け | 国(一部抜粋) | 措置内容 |
青
(Green) |
オーストラリア、ブルネイ、ポルトガル、イスラエル、ニュージーランド、シンガポールなど12か国 | ・隔離の必要なし
・入国前PCR検査結果・Passenger Locator Formの提出及び帰国後2日目以前のPCR検査が必要 |
黄
(Amber) |
日本、中国、韓国、米国、ヨーロッパ諸国など | ・10日間の自己隔離が必要(自己隔離中の居所についても要申告)
・入国前PCR検査結果・Passenger Locator Formの提出及び自己隔離中2回のPCR検査が必要 |
赤
(Red) |
アルゼンチン、ブラジル、エチオピア、インド、フィリピン、南アフリカなど | ・イギリス居住者以外の入国は原則禁止
・帰国者は自費で政府指定のホテルでの10日間の隔離が必要 ・入国前PCR検査結果・Passenger Locator Formの提出及び自己隔離中2回のPCR検査が必要 |
なお、上記の色分けについては、各国の感染状況を踏まえて、3週間おきに内容が見直される予定である。
上記のとおり、日本は黄(Amber)に分類されることとなったが、日本からイングランドへ入国する際に求められる要件については、これまでの措置から変更はなく、入国前3日以内の検査受験、陰性証明書及びPassenger Locator Formの提示、英国入国後10日間の自己隔離、渡航後2日目及び8日目の検査受検(自費)が引き続き求められている。
5 おわりに
ワクチン接種やロックダウンの効果により、英国の新型コロナウイルス感染者数は、ピーク時と比較して急激に減少している。4月当初にロンドンに到着した筆者は、ちょうどイングランドが「ステップ2」へ移行された頃に自己隔離を終え、街中に少しずつ活気が戻る様子を目の当たりにすることができた。今月の「ステップ3」への移行により、長らく閉館に追い込まれてきた博物館や美術館、劇場が再開されることで、ロンドンのアートやエンターテインメントに直接触れることができる日常がすぐそこまで来ており、街中がさらに活気づくことに期待が高まっている。今後、さらに進められる規制緩和措置に伴い、人々が元の生活に戻りはじめる中、英国が感染拡大防止対策及び経済回復をどのように両立し、取り組んでいくか、今後の動向に注視していく。
[1] Daily summary | Coronavirus in the UK (data.gov.uk) [2] 厚生労働省HP(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html)、人口は総務省人口推計(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/)より [3] Daily summary | Coronavirus in the UK (data.gov.uk) [4] COVID-19 Response – Spring 2021 (Roadmap) – GOV.UK (www.gov.uk) [5] Shoppers rush back as High Streets reopen in England and Wales – BBC News [6] 「COVID-19 RESPONSE – SPRING 2021」 [7] Red, amber and green list rules for entering England – GOV.UK (www.gov.uk) [8] 政府ホームページ(Red, amber and green list rules for entering England – GOV.UK (www.gov.uk))を基に作成(2021年5月 所長補佐 中村)