英国は、デジタル・ガバメントの先進国だと感じる。筆者自身、これまでさまざまな手続きを経てきたが、一度も「役所」を訪れたことがなく、全ての行政手続がオンラインで完結する。
実際に、デジタル化の国際順位で、OECDの「デジタル・ガバメント・インデックス(2019)」では、韓国に次いで2位、World Wide Web Foundation「オープン・データ・バロメーター(2016)」では1位にランクイン。
積極的に政府のデジタル化が進められたのはキャメロン政権時であり、各政府機関のウェブサイトは単一の「GOV.UK」に統合され、各政府機関を横断した内容(パスポートの申請、各種補助金(生活保護、子供手当、農業)の申請等)が掲載されている。さらに、各地方自治体のウェブサイトとも連携している。
また、国営医療サービスであるNHS(国民健康保険)は、独自にウェブサイトを持ち、コロナ禍にあって、当該ウェブサイト上でワクチン接種予約・変更手続が完結。そこで本稿では、実際に筆者自身が体験した身近なデジタル化の事例を紹介したい。
住民登録がない?オンライン上で登録
英国では、日本の住民登録制度に類する制度がなく、個々の行政分野(税・選挙等)ごとにオンライン上で登録・変更するだけで済む。 当初、それを知らず、住民票の手続をすると思い、最寄りの役所を調べ準備をしていたのだが、特に必要がなかった。
ということで、外国人でも支払わなければならない、Council Tax(住居に係る税金)の登録・支払いをオンラインで行った。【以下写真】の支払いフォームに表示されている、固有の番号や金額は、居住自治体から書類で各戸に送付され、支払方法(1年払い・半年等)も選択可能。支払い後は、自動で確認メールが送られてくる。1つ挙げるとすれば、固有番号を入力する際に、金額も自動的に反映されると思ったが、自分で金額を入力をしなければならず、何度も慎重に確認を行った。
【写真:カウンシルタックスの支払いフォーム画面】
また、前述の「GOV.UK」のウェブサイトにもCouncil Taxのページがあり、郵便番号等を基に、各居住自治体の該当ページに案内する構成になっている。ちなみに Council Taxだけではなく、自治体が窓口になるようなものは、同様に案内される。
【写真:GOV.UK上で、各地方自治体のCouncil Taxのページに誘導してくれる】
NHSの登録・ワクチン接種予約等について
英国ではNHSの登録が必須であり、また登録して利用料を払っていればワクチン接種も無料で受けられる。 NHSへの登録はオンライン上で完結でき、NHSの加入者は自己負担なく医師の診察を受けることが可能。
英国では外国人である筆者の場合、ビザ申請時に NHS利用料を支払っているので、赴任後すぐにNHSの登録は済ませた。登録後、NHSナンバーが割り振られ、NHSにおける全ての治療履歴が当該ナンバーに紐付いて記録される。当然ながら、ワクチン接種予約でも当該ナンバーの入力を求められる。筆者が予約した際には、アクセスが集中していたためか、当該ウェブサイトを開くまで10分ほど待たなければならなかったが、その後の入力等は比較的スムーズに進み、5分ほどで済んだ。なおNHSでは、電話でも予約受付を取り扱っているので、オンラインでの予約が難しい高齢者でも安心だ。
ワクチンパスについて
ワクチン接種記録は、NHSアプリと連動させることができる。「NHS COVID PASS」と呼ばれる接種情報等は、QRコードに集約され、閲覧・共有することができる。主に海外旅行やイベント参加の際にパスの提示をすることもあるということだが、筆者はまだ使ったことがない。
また、このQRコードは複製・偽造を防ぐため、有効期限が決まっており、期限後はまた新しいバーコードに変更されるという。
図書館の利用登録・電子図書館( Digital Library )ついて
筆者の住むロンドン・バーネット区(以下「バーネット区」という。)では、図書館の利用登録はオンライン上で行うことができ、特に住所を証明するような添付書類を求められることはない。同区では電子図書サービスも提供しており、 以下3つのプラットフォームで本やオーディオブックを借りることができる。
〇BorrowBox(書籍・オーディオブックを提供)
〇libby overdrive (主に子供向けの書籍が多い)
〇pressreader(新聞や雑誌が多い)
【写真:pressreaderのサインイン画面。利用したいプラットフォームにアクセスし、図書館利用ナンバーを入力するだけ(アプリでも利用可能)】
筆者はロックダウン中、本屋も図書館も開いていなかったため、電子図書館を頻繁に利用していた。書籍数・オーディオブック数は予想以上に多く、雑誌や新聞も豊富。ただ、図書館と同じように、やはり人気の本は予約しないと難しい。
なお、本の貸与期限が過ぎたら自動的に返却されるので、借りっぱなしという状況も防げる。英国でとても人気がある絵本 Gruffalo(グラッファロー)のオーディオブックもあり、筆者の子どもたちは大喜びだった。
テニスコートの施設貸出について
テニスコートの予約利用もオンラインで可能だ。英国では、公園や緑地内にテニスコートが設置されていることが多く、バーネット区の場合は、区内23箇所に50面以上の公設テニスコートが存在している。同区はローンテニス協会(テニスの全国統治機関)とのパートナーシップを結んでおり、同協会のウェブサイトで、コートの予約及び使用料支払い(有料コートの場合)が可能である。 有料コートは機械施錠されており、使用料の支払後に送付されるPINコードを入力して解錠するというシンプルな仕組みだ。 このような仕組みのテニスコートを利用したことがなかったので、本当に開くのか不安だったが、特に問題がなかった。中には予約したにも関わらず、PINコードを入力してもドアが開かず、困っていた人もいたので、そのようなトラブルがないとは言えないようだ。
【写真:テニスコートに設置されている機器。使い方の説明もわかりやすい】
<<担当所感>>
以上、筆者が体験した事例である。日本と英国では制度が異なる部分もあるため、一概に単純比較することはできない。しかしながら、「申請書をウェブからダウンロードし、入力、印刷・押印して提出するような手続き」よりも「オンラインで完結する手続き」のほうが、簡単であるし、自治体側・利用者側の負担が少ない。すべて自治体自前のシステムを構築するのは費用もかかるが、電子図書館やテニスコートの事例のように、民間事業者と連携してデジタル化を図る取り組みは、日本の地方自治体にとっても参考になるのではないだろうか。
(ロンドン事務所所長補佐 新野)
<<参考リンク>>
・GOV. UK https://www.gov.uk/
・外務省:世界の医療事業(英国)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/europe/uk.html
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