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ADレポート「英国の自動車速度制限事情について」

2022年11月23日 

私は、自家用車を英国に持ち込むために、渡英前(今年3月後半)に車を輸出業者に引き渡しました。コロナ禍で物流が停滞する中、半年の期間を経て、9月後半にようやく手元に車が到着しました。今回は、英国内での運転経験を交えて、英国の自動車速度制限事情についてご紹介します。

〇英国内の自動車法定速度について

英国には日本と同様に高速道路と一般道路があります。Mと表記される高速道路は、一般的に法定速度が時速70マイル(時速約112km)と定められています。一般道路のうちAと表記される主要な幹線道路は、二車線以上の場合は法定速度が時速70マイル(時速約112km)、一車線の場合は法定速度が時速60マイル(時速約96km)と定められています。またBと表記される市街地等の道路は、法定速度が時速30マイル(時速約48km)と定められています。ただし、別途速度の指定がある場合は、上記の法定速度によらず指定速度が優先されることとなります。

英国の道路にはかなりの数のCCTVと呼ばれる監視カメラが速度違反をはじめ駐車禁止等の違反行為を監視しており、個人的には日本よりも取締りが厳しいように感じます。違反行為が発覚した場合は、所定の罰則を受けることになります。

写真:高速道路における時速40マイル(時速約64km)制限表示とCCTV設置の表示
(BBC Top Gear 「Should smart motorways and their speed limits be scrapped?」より引用、
https://www.topgear.com/car-news/should-smart-motorways-and-their-speed-limits-be-scrapped)

〇法定速度違反となる速度の取扱い変更について

ロンドン警視庁が設定している速度超過の許容範囲は、過去は法定速度の10%+3マイルでした(つまり、法定速度が時速70マイルの場合、速度超過の許容範囲は10マイルまでになります)。しかし、2019年5月14日に、ロンドン警視庁は公式発表することなく、速度超過の許容範囲を1マイル引き下げ、法定速度の10%+2マイルに変更しました(つまり、法定速度が時速70マイルの場合、速度超過の許容範囲は9マイルまでになります)。変更前の6か月間は速度超過違反が9万7,000件であったのに対し、この速度規制強化の影響により、2022年1月から6月までの間の速度超過違反は34万7,000件と、違反数が259%も増加しています。

ロンドン警視庁は、この公差の変更を発表しなかったことについて「掲示制限速度は、道路利用者が常に遵守すべき最高速度であり、警察が取締りの対象とする速度とは無関係」としています。

今回の公差の変更について、市民からは「時速1マイル(時速約1.6km)速度を落としたとしても危険性はほとんど変わらない」「国は税収増加を目的として速度規制を強化した」といった批判の声が挙がっているようです。しかしながら、ロンドン交通局の動きに目を向けると、事故低減のために着実に対応を進めているように見受けられます。

〇ロンドン交通局の動き

ロンドンの路上で人が死亡または重傷を負った衝突事故の少なくとも37%は、スピード超過が要因とされています。このため、ロンドン交通局ではロンドン全域で道路の速度規制強化を進めています。この取り組みは、2041年までに道路上での死者や重傷者をゼロにするという、ロンドン市長のビジョン・ゼロ政策の一環によるもので、2024年までにロンドン交通局が管理するロンドン域内の道路網137マイル(約220km)で時速20マイル(時速約32km)の制限速度を達成するという公約を掲げています。この理由として、①車両の走行速度が速いほど、ドライバーが反応したり、停止したり、回避したりするための時間が短くなるため、衝突が起こりやすくなること、➁人が時速30マイル(時速約48km)ではねられた場合、時速20マイル(時速約32km)ではねられた場合よりも死亡する可能性が5倍高くなること、③環境への影響が少なくなる(時速20マイル(時速約32km)ゾーンでは時速30マイル(時速約48km)ゾーンよりも加速や減速が少なく、よりスムーズに車が移動するため、タイヤやブレーキの摩耗による粒子状物質の排出を減少させる)ことを挙げています。

写真:市街地に設置された時速20マイル(時速約32km)制限表示。ロンドンをはじめ英国各地で時速20マイル(時速約32km)制限の導入が進められている(筆者撮影)

この取り組みにより、2020年の3月には既に、セントラルロンドンのコンジェスチョンチャージゾーン(渋滞緩和を目的とし、特定の時間帯に車で乗り入れる際に課金されるロンドン中心部の特定エリア)内のすべてのレッドルート(路肩での駐停車を禁止している道路)の制限速度が時速30マイル(時速約48km)から時速20マイル(時速約32km)に引き下げられており、これに続いて2022年3月31日に5つの区の道路で制限速度が時速30マイル(時速約48km)から時速20マイル(時速約32km)に引き下げられました。今後はさらに2つの区でも、時速20マイル(時速約32km)制限道路が導入される予定です。

速度を下げるために使われる設計・工学的手段には、道路標識以外にも、スピードバンプ(なだらかな曲面の舗装を盛り上げたもので、道路における車両速度と交通量を低下させるためのもの)、歩道や自転車通行スペースの拡張による自動車通行スペースの縮小、トラフィックアイランド(交差点や横断歩道などに設けられる、減速して注意しなければならない構造のもの)の設置等、様々な方法があります。ロンドン交通局では、これらの方法による速度規制強化の効果を継続的にモニターし、さらなる設計変更が必要かどうかを判断することとしています。

この速度規制強化は、ドライバーにストレスを与えるかもしれませんが、車との衝突事故や死亡者が減ることを期待したいと思います。

写真:横断歩道で見られる退避型のトラフィックアイランド。
(TRAFFIC CHOICES 「PEDESTRIAN REFUGE ISLAND」より引用、https://www.trafficchoices.co.uk/traffic-schemes/refuge-island.shtml)

所長補佐 西田隆章

(参考)
https://tfl.gov.uk/corporate/safety-and-security/road-safety/safe-speeds
https://www.express.co.uk/life-style/cars/1698811/driving-law-changes-20mph-speed-limits-london-consultation
https://www.msn.com/en-gb/cars/news/uk-motorists-warned-of-major-driving-law-changes-tomorrow-risk-of-fines-and-new-rules/ar-AA12naMR?ocid=msedgntp&cvid=a7d4174fea764b3493502c954270b763
https://www.standard.co.uk/news/crime/speeding-fines-tolerance-london-met-police-b1028154.html
https://tfl.gov.uk/info-for/media/press-releases/2022/february/tfl-to-launch-13-77km-of-new-lower-speed-limit-schemes-to-cut-road-danger-across-the-capital-and-save-lives
https://www.topgear.com/car-news/should-smart-motorways-and-their-speed-limits-be-scrapped
https://www.trafficchoices.co.uk/traffic-schemes/refuge-island.shtml

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