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地方自治体等訪問レポート「アバディーンを訪問」

2023年10月17日 

職員を対象とした研修の一環として、スコットランドのアバディーン市を訪問した。アバディーン市は英北部スコットランドに位置する北海に面した港湾都市であり、北海油田開発の基地として海洋産業が発展した場所である。

日本とも縁が深く、アバディーン市は北海道室蘭市及び兵庫県神戸市とそれぞれ覚書を結んでいる。

〇海洋博物館

・アバディーン市は英北部スコットランドに位置する北海に面した港湾都市。北海油田開発の基地として海洋産業が発展した。

・博物館ではアバディーン市における初期の貿易、漁業、造船業から、オフショア・エネルギーとその職場での生活環境、そして世界的なエネルギー転換のリーダーとしての今日のアバディーンの地位までを無料で見学することができる。

・日本関連の展示もあり、トーマス・ブレーク・グラバー(1838-1911)という19世紀後半に、日本の工業国家としての発展に貢献した人物が取り上げられている。グラバーはスコットランドの貿易会社ジャーディン、マシソン・アンド・カンパニーで働いていたとき、1859年に長崎へ渡り、その後の生涯を日本で過ごした。日本の工業化に貢献するとともに、日本の政府や生活様式の近代化にも一役買ったと言われている。グラバーは、自分の名声と命を賭けて日本のために尽くすことを厭わない、その献身的な姿勢から「スコティッシュ・サムライ」と呼ばれるようになった。ブースには侍の鎧の展示が行われている他、グラバーがキリンビールの創設に貢献したことからキリンビールのボトルの展示も行われている。

博物館外観 日本関連展示ブースの様子

〇アバディーン市役所

副市長より訪問歓迎の言葉が述べられた後、各部署の担当者よりアバディーン市の取組等について説明を受け、適宜意見交換を実施した。また会場近くにある歴史的建築物であるTown House内部の視察も行った。

<選挙の実施方法について>
・選挙の種類、投票システムについて説明が行われた。

<水素経済導入の取組「H2 Aberdeen」について>
・市における水素経済導入の取組状況について説明が行われた。
・市の水素戦略は2015年に発表され、市が低炭素経済をリードする世界クラスのエネルギー拠点となり、水素技術の最前線となることを確実にするために、10年間に必要な主要なアクションの概要を示している。
・市を水素技術の中心地として位置づけ、スコットランド北東部の石油・ガスに関する専門知識や再生可能エネルギー発電の優れた能力を活用することで、水素経済を地域に導入し、水素技術の普及促進を目的とした取組を行っている。
・アバディーンは市の働きにより、2つの水素ステーション(Kittybrewster、ACHES)、バス、自動車、バン、道路清掃車や廃棄物運搬車など、ヨーロッパ最大級かつ最も多様な水素自動車を擁する水素活動の集積地となっている。Wright Bus社の世界初の燃料電池ダブルデッカーバスの最初の配備地でもある。
・市は、現在行っている水素の普及活動を通じて、官・民・サードセクターで協力して地域の利益を最大化する一方、産業の多様化という長期的な目標も視野に入れるなど、地域におけるより近い将来の成長の機会を促進している。

<アバディーン市と日本とのつながりについて>
・市と国際的なつながりのある都市について、日本に焦点を当てて説明が行われた。
・市は北海道室蘭市及び兵庫県神戸市とそれぞれ覚書を結んでいる。
・室蘭市とは水素エネルギー発展に向けた覚書を締結し、水素エネルギー産業の事業化に向けた知見や情報の共有、水素の輸出入による産業発展の実現可能性の検討など相互的に連携協力することとしている。
・神戸市とは水素・再生エネルギーにおいては情報共有などで連携すること、また、海洋産業の振興や人材育成に関する覚書を結んでいる。さらに、アバディーン市と神戸市はH2 Twin Citiesに採択されており、両市は連携を更に強化することで、水素などに関する知見の共有や取り組みを進め、2050年カーボンニュートラルを目指すこととしている。ロバート・ゴードン大学(Robert Gordon University)で神戸市主催のサマースクールが開催されていることにも触れられた。

<反貧困活動(Anti Poverty Actions)について>
・子どもの貧困にどう対応しているのか、学校による状況改善の取組事例を取り上げ説明が行われた。
・貧困に関連した格差を小さくしていく支援をするため、スコットランド政府から学校に直接資金が配分され、学校は格差を特定し、その資金で介入策を実施する。
・具体例として、一部の学校でフードバンクが運営もしくはフードバンクへの案内を行っていること、朝食クラブというものがあり無料で朝食が提供されていること、貧困の影響を受けている若者に対し、課外活動を助成または無料化することなどが挙げられていた。
・また、スコットランド政府は、スコットランドが「子ども/若者を育て、成長させるのに最良の場所」となることを目標に掲げていること、スコットランドの教育に関する法律の概要も示された。

取組の説明を受ける
Town House 外観 Town House 内部

〇Robert Gordon University

<RGUについて>
・RGUは、市の中心地からバスで20分程度の場所に立地しており、149の国から17,000人の学生を受け入れている大規模な大学である。質の高い教育カリキュラムによって、学生にキャリアを通じて成功するために必要なスキルを提供しており、National Student Surveyの学生満足度調査において、スコットランドでトップ3、英国内でトップ10に入る満足度を得ている。
・11の学校で構成されており、エンジニアリング、コンピューティング、建築、生命科学、医療、社会福祉、ビジネス等に関する300以上のコースを提供しており、オンライン学習にも注力している。それらのコースは、産業界などとの緊密な連携を通じて実施されており、国や地域のニーズに応じたスキルを提供している。また、現在、学生の約3分の2がキャンパス内で、3分の1がオンライン、または海外の提携校で学習している。
・RGUは産業界との密接な関わりを持ち、国内外での人材育成において大きな実績があり、組織・政府・業界団体・教育機関と協力し、イノベーション及び経済発展を推進している。学生は、大学が有する産業界との関係を活かして企業と関わりながら学習し、社会人も企業に身を置きながら学習している。就職後も履修することができるプログラムを整備しており、個々人がそれぞれの状況に応じた形で、仕事を継続しながら、自身が欲する知識やスキル、さらには学位を取得できることが強みの一つである。

<RGU及びアバディーン市と日本の繋がり>
・アバディーン市が2014年に日本との関係を深めるための戦略(Japan Engagement Strategy)を公表して以来、アバディーン市及びRGUは日本との結びつきを強化している。特にRGUとしては、日本財団や神戸市と繋がりが強く、2016年以降サマースクールとして学生を受け入れている他、2018年にRGU大学長と神戸市長の間で人材育成に連携して取り組むことを確認する「意思確認書」を交わして以来、「神戸市スコットランド・サマープログラム」として留学プログラムを提供している。
また、神戸市の海外ビジネスコーディネーターがアバディーン市に在住しており、両市の架け橋として活躍されている。

エントランス 学内共有スペース

<地域コミュニティへの連携強化>

・RGUは地域コミュニティとの関わりを重視しており、地域社会が何を欲しているかに耳を傾けながら地域との連携を推進するための戦略(Community Engagement Strategy)を策定している。RGUとしては以下の4点を重要視している。

①説明責任(Accountability)

公的資源の使用にあたっては、コミュニティに対して開放的であり、かつ、透明性を保つ必要がある

②価値と目的(Value and Purpose)

より広範な社会的利益、公共的価値、都市やコミュニティに根ざした大学としての取り組みを推進する

③関連性(Relevance)

地域社会との対話を通じて、研究・教育の焦点、明確性、関連性を高める

④応答性(Responsiveness)

大学が公益のための創造性とイノベーションの原動力であることを認識し、コミュニティや関係者の声に耳を傾け、彼らが大学に何を求めているのかを探る

・地域への関与に関する具体例としては、学生による法律相談サービスが挙げられる。近年、多くの方が法律相談を受けられないことで弱い立場に置かれている状況を踏まえ、充分に教育を受けた学生が地域のコミュニティに対して無償で法律相談サービスを提供する法律クリニックを開設した。クリニック事業を通じて、地域コミュニティの人たちは無料でサービスを享受でき、学生は相談サービスの経験を積むことができた。大学として、地域のどこにニーズがあり、そのニーズと現状のギャップを埋めるために何ができるか、どのような価値を創出できるかを常に考えている。

<経済発展のための取り組み>

・社会起業家かつ慈善家であったロバート・ゴードン氏の名前を冠するRGUは、アントレプレナーシップとイノベーションの向上に取り組んでおり、5年前に専門チームを組織してより強力に各種事業に取り組んでいる。その結果、THE World Universities Insights Limitedが運営するThe Awardsという表彰事業のうち、「Entrepreneur University of the year」という賞を直近3年で2度受賞している。

・具体的な取組としては、「スタートアップ・アクセラレーター」と「国連SDGs学生アイデアコンテスト」が挙げられる。

「スタートアップ・アクセラレーター」は、学生・卒業生・大学職員からスタートアップのアイデアを募り、審査を通過したアイデアのビジネス化を支援するものである。5年前から実施している本事業には、例年200件ほどのアイデアの応募がある。審査を通過したアイデアに対して、資金援助を得るために対外的な広報の機会の提供、専門家による個別指導、スタートアップを探している企業とのマッチングサービス等を提供している。大学自体がこのような事業を実施することはまだ珍しく、スコットランドにおける同種の事業としては、先進的な取り組みの一つであると考えている。

「国連SDGs学生アイデアコンテスト」は、SDGsの17の目標のいずれかに関連した優良なイノベーションのアイデアを表彰し、賞金を支払うものである。昨年から試験的に開始したプログラムであり、月に一度、1名の受賞者と2名の優良アイデアを選出している。受賞者が新しいベンチャー企業を立ち上げたいと考える場合は、上述の「スタートアップ・アクセラレーター」事業に加わることも可能になっている。

・上記以外にも、アバディーン地域に居住する、子どもを育てている女性を対象としたオンライン形式でのスタートアップ起業支援事業も実施しており、学生のみならず、地域住民との協働を推進している。

<技術革新と将来の仕事>

・固定電話が開発されてから5,000万人に利用されるようになるまで75年かかったところ、パソコンは14年、ポケモンGoはわずか19日で同数の利用者を獲得しており、技術の進歩・普及は急速にスピードアップしている。

・オックスフォード大学の研究者によると、現在の仕事の47%が20年以内に自動化されるおそれがあるとされており、将来の労働者に求められるスキルが変化することが予想されている。今後は、①素早く機転が利くこと(AGILE)、②創造性(CREATIVE)、③革新性(INNOVATIVE)、④協調性(A TEAM PLAYER)を有する人材が必要とされると考えており、大学として、そのような人材を社会に送り出すよう努めている。

<その他の取り組み>

・世界最先端の掘削シミュレーションマシーンによる掘削技術の向上、掘削技術を活用した地熱活用の将来性に関する説明を受けた他、歩行分析研究室の最新鋭の歩行モニタリングシステムに関する解説、臨床技術センターにおける実務的な技術を磨くための設備を視察した。

加えて、「神戸市スコットランド・サマープログラム」の一部である、ブルーエコノミーと持続可能な石油とガスの生産に関する講義を聴講させていただいた。

最先端の掘削シミュレーションマシン 歩行分析機器を備えた研究室

〇所感

・訪問を通じて、主に大学の概要、地域コミュニティとの連携、経済発展のための取り組みについてご説明いただき、在学中の学生のみならず、卒業生や地域を巻き込んだ事業を多く実施されていることが印象に残った。社会人でも必要に応じたスキル・知識や学位を取得しやすい受講体系や、卒業生も対象となるスタートアップアイデア事業、地域の方を対象とした起業支援など、社会に開かれた大学であることから、学生は実践的なスキルを得ることができ、地域住民も大学があることの利益を享受できている実情を学ぶことができた。

・また、アバディーン市とRGUは、複数の分野で深く頻繁に連携しながら事業を推進しているとのことであった。私たちも地域住民の生活の根底を支える行政サービスを提供する職員として、目まぐるしく移り変わる社会の中で、地域に何が必要とされているのかを素早く感じとり、それを課題として明確化し、大学や地域の事業者と共有・協力することにより最短経路で的確に解決・改善することが求められると感じた。

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