職員を対象とした実地研修の一環として、英国東海岸の港町であるハートルプールを訪問した。この街の人口は約9万人であり、7世紀にヘッドランドという半島に建てられた修道院を中心に発展し、19世紀には造船業で栄えた歴史ある街である。
第二次世界大戦後には造船業が衰退して失業率が高まり、街の活気が失われかけたことから、現在、国からの約40億円の補助金を得て、港湾遺産観光振興等をテーマとした大規模な再開発が進んでいる。
〇市内視察
ハートルプールのメインストリートであるチャーチストリートと、その道沿いにあるアートギャラリーに加えて、ウォーターフロント地域を訪れた。
メインストリートは、駅の目の前に立地しており、鉄道でのアクセスは非常に良好であった。しかし、道沿いには1階部分が店舗、2階部分が住居になっている建物が多く存在するものの、複数の空き店舗が見受けられた。こちらも再開発の補助金の対象になっており、学校の誘致等の賑わい創出のための取り組みが進められている。
【再開発の主な対象であるチャーチストリート】
その後訪問したハートルプールアートギャラリーは、19世紀中ごろに建てられた教会の内部をリノベーションし、1996年にギャラリーとして一般公開を開始したものである。内部には、コミュニティアートスペースがあり、学生による作品が掲示されており、また、大きな机と椅子も多く設置され、訪れた子供などが作品を描くことができるスペースが用意されていた。
【ハートルプールアートギャラリー】
【ハートルプールバラカウンシル】
【ハートルプールの観光資源であるマリーナエリア】
翌日には、ヘッドランドを訪問し、街の歴史の中心であった修道院の跡地に建てられた教会や、その周辺の住宅地を訪問し、その後、ハートルプール博物館を訪れた。
12世紀後半から13世紀に建築された教会及びその周辺には、「ヘッドランドストーリートレイル」として、ウォーキングコースが設定され、各拠点にヘッドランド及びハートルプールの歴史を説明する説明書きが設置されていた。後述する第一次世界大戦時の砲撃に関するモニュメントなどもその一環に含まれていた。
【居住区の中心にある教会】
ハートルプールミュージアムでは、ハートルプールの歴史として、様々な年代の街の写真や、港町ならではの展示物として、漁船の発展に関する掲示や海鳥の鳴き声を聴き比べることができる展示があった。中でも最も目を引いた展示は、第一次世界大戦中に砲撃を受けた歴史であった。ハートルプールは造船業で発展していたことから、ドイツ軍の標的とされ、1914年12月16日に攻撃を受け、少なくとも130名の死者と500名の負傷者が出たとされている。当時の街の様子をまとめた動画や写真の展示があり、「THE BOMBERDMENT OF THE HARTLEPOOLS」として展示コーナーが設けられていた。
〇ハートルプールバラカウンシルを訪問
ハートルプールはタウンズ・ファンドに選ばれ、国から£2500万(約40億)の補助金を受け、大規模な再開発を実施している。タウンズ・ファンドとは、英国政府が進めるレベリング・アップ政策の一環として全国の中小規模の地方都市100自治体を対象とした補助金であり、長期的な経済成長と生産性向上を実現するために地域の持続可能な経済再生を推進することを目的とするものである。
ハートルプールは、中心市街地の衰退をはじめ、雇用・技能開発の不足や歴史的建造物の荒廃、駅から町の中心部やマリーナエリアへのアクセスの不十分さなどを課題として挙げており、これらの解決に向けて補助金を利用している。
今回の訪問では、街の職員に進行中の取組の説明や街の引率をご対応いただいいた。レクチャーにおいては、特に重要なプロジェクトとしての技術訓練施設の整備やショッピングセンターの再開発、歴史的建造物の改修、駅の再開発についての説明があった。
教育機関や民間企業と協力し、若者が医療・社会福祉分野や土木分野の技術開発に取り組めるよう、訓練施設の整備を行っている。また、町の中心部に位置するミドルトン・グランジ・ショッピングセンターの再開発においては、公共スペースとしての用途を追加し、複合的な施設として再利用を試みている。
1873年に建築された歴史的建築物であるウェスリーチャペルの再開発においては、2017年に発生した大規模な火災以来、荒廃した姿で放置されているこのチャペルをブティックホテルに改修するプロジェクトを進めている。
ハートルプール駅の再開発においては、£1200万もの資金を投入し、線路やプラットフォーム、改札を増設するという。線路の拡大により南北に行き来する列車の本数を増やし、来訪する人々の増加を図ろうとしている。現状では、駅の南側にしか改札がないことで、北側に位置するマリーナエリアにアクセスするためには、迂回して線路をまたがなければならない状況であるが、新たにマリーナエリア側にも改札を設けることで、アクセスを向上させることを目指している。
【再開発によって臨海部へのアクセス向上が予定されているハートルプール駅】
加えて、クリエイティブ産業の誘致にも力をいれ、メインストリートに新たに設置された映画・映像制作の専門学校やノーザンスタジオという映画スタジオの誘致を契機として、賑わいの創出が期待されている。
職員の一人は、公共投資を使って適切な条件を作り、民間投資を受け入れるための一定レベルの市場の信頼性を確保することが重要であること、公的な介入は将来の土台となるものであると語った。
レクチャー後は、メインストリートからマリーナエリアの入口まで散策し、導線の課題について説明を受けた。駅からのアクセスの悪さに加え、マリーナエリアについても導線の課題があるとのことであった。遊歩道が整備されておらず、飲食店の集まるエリアまでアクセスしづらいことや周辺マップが整備されていないことから現在地や飲食店エリアまでの導線が把握しづらいことなどが課題として挙げられ、その対応策としての誘導標識の設置案などについて概説を受けた。
英国政府のレベリング・アップ政策を通じて英国内の自治体で再開発が進められ、多くの地域において大きな変化が見込まれるところ、ハートルプールの街もその一つであり、今後どのように生まれ変わっていくのか、進展を見守りたい。
【訪問時の様子 The BIS(クリエイティブ企業のコワーキングスペース)において説明を受ける】
【The BISの共用スペース】