日本では新築の住宅を建てることは珍しくはないが、英国では古い住宅をリフォームして住むことが多い。この場合、家の内装・見た目はきれいになるものの、家の中の設備関係は古いままということもよくある。
実際、筆者が英国に住んで約1年半の間にも、家の中のモノがよく故障した。例えば、ボイラー、バスタブの蛇口、シャワー室のドア、ガラス窓の開閉部品、ドアノブ、テレビのアンテナ、玄関チャイムなどが次々に不調を来たしていた。(住居費の高いロンドン市内にあるため、日本の地方出身者である筆者からすると目が飛び出るような高い家賃の物件であるにも拘わらず、である。)
故障が発生すると、我が家の場合には大家に伝えることになるが、その度に大家が息子さんと共に、工具やインターネットで購入した交換部品を携えて修理をしに来た。なかなか専門業者にお願いしようにもすぐに予約が取れないことが多く、修理には時間がかかるので、自分で修理をした方が早くて安く済むということだと思われる。
少し話が変わるが、英国で有名なテレビ番組の1つに、壊れた品物にまつわる思い出話をインタビューで聞きながら、様々な分野のプロの職人が見事にそれを修理し、再び使用できるようになった品物を感動とともに持ち主が持ち帰る、という番組があり、とても人気である。
総じて、英国人にとって、モノは簡単に捨てるものではなく、自分で修理して長く使うものだという考え方が深く根付いているように感じる。
モノを大切に長く使うことは、地球環境保全につながる。世界人口の増加や、地球上の限りある資源を有効活用する観点などから、従来型の「大量生産→大量消費→大量廃棄」というリニアエコノミー(線形経済)から、持続可能なサーキュラーエコノミー(循環経済)に移行するための政策が世界各国で推進されており、日本においても、2020年5月、経済産業省により「循環経済ビジョン2020」が発表されている。
このような状況の中、英国では「モノの図書館」(LIBRARY OF THINGS)という活動が各地で見られるようになっている。図書館は本を借りるところだが、「モノの図書館」はまさにモノを借りることができるところである。
このうち、英国オックスフォードにおいては、この「モノの図書館」が2019年2月から運営を始めている。ここでは、のこぎりなどのDIY工具、アイロンなどの家庭用品、ラケットなどのスポーツ用品、ギターなどの楽器類、テントなどのキャンプ用品など実に多様な品物が安価に(品物によっては無料で)借りることができる。中には、拡声器やサーモグラフィーカメラなど、稀にしか使わないであろう特殊なモノも借りることができるため、様々なニーズにも対応できて便利そうである。利用方法としては、利用したいモノの在庫をインターネット上で確認して申し込みの上、(オックスフォード大学にほど近い)「モノの図書館」の窓口にモノを借りに行き、使用後に返却しに行くという流れである。また、修理のための工具を借りられるだけでなく、壊れたモノをどのように修理すればよいかを学ぶことができる「リペアカフェ」というワークショップも定期的に開催されている。
「モノの図書館」の運営団体であるShare Oxfordは、廃棄物を削減するため、人々の経済行動の変化を促すことを目指し、リペアカフェのような活動や、他地域で同様な活動を始めようとしている団体を支援するなどコミュニティ活動グループとして様々な活動を行っており、それは単なる商業的なレンタル会社とは性質が異なるものである。(Share Oxfordによると、モノの図書館のような活動は、2021年半ばまでに英国全土に50以上の事例が見られるとのことである。)そして、地元自治体であるオックスフォード郡(Oxfordshire County Council)は、このようなShare Oxfordの行うシェアリングエコノミーの活動を含む様々な地域コミュニティ活性化事業に対し支援(活動スペースの提供)を行っている。
元々英国に根付いているモノを修理して長く使う文化が、インターネットの普及や近年のシェアリングエコノミーの考え方の広まりと相まって、レベルアップした形で展開されていることが興味深く感じられた。
所長補佐 西川
出所:
https://shareoxford.org/
https://makespaceoxford.org/about-us/