英国で5月6日に実施された統一地方選挙の結果、リバプール市において英国内で初となる黒人女性市長が誕生しました。ダイバーシティの重要性が浸透している英国では、自治体の幹部職員の一覧を見ても、多様なメンバーが選ばれています。
英国では、なぜダイバーシティが重要視されているのでしょうか?英国政府、自治体、ビジネスの3つのレベルでダイバーシティを推進している目的や、ダイバーシティが達成されることで得られると考えられている状況について、見ていきたいと思います。
まず英国政府は、「ダイバーシティとインクルージョン戦略」という2018年から2025年までの計画を作成しており、その中で、平等やダイバーシティに取り組む目的を、「市民の安全と国境の安全を守るため」であるとしており、具体的にはテロを防ぐこと、犯罪を減らすこと、移民の管理、成長の促進、内務省の変革を挙げています。
自治体の例として、ロンドンのハロー 区は平等やダイバーシティを重んじる目的として、下記の3つを挙げています。
- 職員一人ひとりが価値を認められ尊重される、コミュニティの多様性を反映した、誰もが受け入れられる職場環境
- コミュニティへの理解を深め、すべての人にとって公平、公正で利用しやすいサービスを提供し、不平等を是正すること
- 区内の多様性を促進し、称えることで、コミュニティの結束力を高めること
イングランド中北部にあるドンカスター市も、「ドンカスターに住む、訪れる、働くすべての人々の生活の質を向上させること」をダイバーシティや不平等の是正に取り組む目的としており、いずれも、職場やコミュニティといった生活に身近な場での平等やダイバーシティが重要視されていることがわかります。
また、英国の公認マネジメント協会によると、ビジネスの現場では
- 多様な視点が入ることによる創造性やイノベーションの増大
- 多様な解決策が持ち寄られることによる問題解決や意思決定の改善
- より良い問題解決や意思決定による利益の増加
- 自分が受け入れられていると感じることによる従業員のモチベーションの向上
- ダイバーシティへの配慮が企業評価に直結する
などがダイバーシティに取り組む利点とされており、ダイバーシティを向上させることによるポジティブな効果がより重要視されていることが読み取れます。
これら英国でのダイバーシティ推進には、平等法も大きく影響しています。平等法は、年齢、障害、性適合、婚姻および同性婚、妊娠および出産・育児、人種、宗教または信条、性別、性的指向による直接差別(直接不利益な取り扱いをすること)と間接差別(差別的な規定、基準や慣行を適用すること)を明確に禁止する法律で、政府や自治体、企業はこの法律に基づいて、全ての人を差別なく扱うことが義務付けられています。
新型コロナウイルスの拡大に伴い、アジア系住民への人種差別が問題視されるなど、英国内で差別や偏見が全くないとは言えませんが、一般的には「誰もが平等に扱われなくてはならない」という認識が共有されており、少なくとも制度上差別されることはないという環境は、“外国人”である私にとっても居心地よく感じられます。
(2021.5 金子)