調査・研究

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英国

金融大国・英国の金融経済教育について

2021年02月01日 

ロンドンは世界でも有数の金融都市で、世界金融センター指数(都市の金融センターの国際的競争力を示す指標)では、ニューヨークについで世界第二位に位置づけられています。それだけに英国民の金融への関心は高く、2014年に行われた金融リテラシーの国際調査(1)によれば、英国は国民の67%が、貯蓄・投資・借入について十分な理解を持っている(金融リテラシーがある)とされており、これはトップグループのデンマーク・ノルウェー・スウェーデンの70%台にはあと一歩及ばないものの、世界第6位と相当な上位に位置します。テレビなどの広告を見てみても、資産運用に関するインターネットサービスの広告は多く見受けられますし、仮想通貨やネットバンキングといった新しい金融サービスも、若者を中心に普及しています。必ずしも全ての国民が金融リテラシーを持ってサービスを利用しているとは限らないとはいえ、英国人は金融サービスを日本人よりも身近に感じていると言えるかも知れません。

さて、金融リテラシーの向上のためには、学校教育におけるファイナンシャル・エデュケーション(金融経済教育)が欠かせません。英国においては、北アイルランド・スコットランド・ウェールズの3国が、イングランドに先行して金融経済教育をカリキュラムに盛り込んでいます(2)。イングランドでは、2011年1月「若者の金融教育に関する超党派議員連盟(The APPG Group on Financial Education for Young People)」が発足しました。同年12月に発表された同連盟によるレポートでは、英国民の3分の2がお金に関する選択をする際に混乱を感じていることや、個人の債務超過が過去に例を見ない比率で増加していることが報告され、諸外国にならい、学校のカリキュラムに金融経済教育を盛り込むことを政府に求めました。これを受け、2014年9月に初めて金融経済教育がイングランドのカリキュラムに盛り込まれ、英国を構成する4国の全てにおいて金融経済教育が学校教育に組み込まれることとなりました。以下に、各国の金融経済教育の概要について紹介します。

(北アイルランド)
同国では、4歳から14歳までのカリキュラムにより、主に数学の授業で金融経済に関する能力を育成します。小学校修了時(11歳)までにはお金の計算ができるようになり、安全なお金の持ち方、予算立てと貯金、将来の計画と消費に関する選択について学びます。中学校では、日常生活における金融経済に関することについて、数学力を用いて解決できるようになることが求められます。また、特別支援学級の生徒児童に対する金融経済教育のためのガイドラインも定められています。

(スコットランド)
同国においては、3歳から14歳までを対象とした幅広いカリキュラムの中で金融経済教育が行われています。11歳までに、お金の計算・管理、予算編成やコストの比較、銀行のカードを使うことに関するコストとメリットを理解させます。14歳になるまでには、契約やサービスにおけるお金の価値、高度な予算編成、クレジットと借金、収入と税金、個人向け金融商品の比較と選択についても学ぶべきとされています。社会科のカリキュラムにも金融経済教育が盛り込まれ、お店やサービス、倫理的な取引、ビジネスのための金融などについても学ぶこととなっています。

(ウェールズ)
同国では、主に数学と社会教育の一環として金融経済教育が行われています。11歳までには、お金の計算、貯蓄と収支の管理、利益と損失の計算、お金の価値の評価などを学ぶことになっており、16歳までには様々な通貨や為替レート、複利などのより複雑なお金の計算を学び、家計の管理を実践することが求められています。ウェールズ政府は現在、金融経済教育に関するカリキュラムを2022年に改訂することを目指し、準備を進めています。

(イングランド)
イングランドでは、中等教育(中学校と高校)のカリキュラムにおいて、市民権教育と数学の一部として金融経済教育が行われています。

上記のような金融経済教育には、学校や地方自治体だけでなく、金融機関や企業の支援を受けた団体等も関わっており、金融経済教育に関する統計やレポート、教材の作成、学校教育の現場ですぐに使用できる授業プランの配布等を行っています。金融経済教育に関わる代表的なチャリティー団体としては、若者への起業教育・金融経済教育を目的としたチャリティー団体であるYoung Enterprise & Young Money (young-enterprise.org.uk)、国民に広くお金に関する情報提供を行う政府系団体であるMoney Advice Serviceなどが挙げられます。また企業では、英国の最大手メガバンクのHSBCが、家庭および学校で使用できる独自の教材を配布するなど、官民挙げての取り組みが進められているところです。

冒頭に紹介した調査では、日本の金融リテラシーは43%とされており、日本においても、2022年からの高校の新指導要領において、資産形成に関する指導を盛り込むことになっています。一足先に金融教育の拡充に舵を切った英国にどのような変化が起こるのか、注視していきたいと思います。

(所長補佐 濱本 2021.1)


(1)S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスによる2014年の調査。
(2)英国はイングランド・北アイルランド・スコットランド・ウェールズの4つのCountryに区分され、教育の分野ではそれぞれのCountryが独自の権限を持っています。便宜上、ここではCountryを国と訳しています。


(出典)

Visualizing Financial Literacy Rates Around the World (howmuch.net)

APPG on Financial Education – Young Enterprise & Young Money (young-enterprise.org.uk)

Financial and enterprise education in schools – House of Commons Library (parliament.uk)

Financial capability for schools | Financial Capability – FinCap

APPG Financial Education for Children in Care Report – Young Enterprise & Young Money (young-enterprise.org.uk)

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