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【ロンドン事務所】コロナの影響が与える英国の交通事情の変化
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英国では、新型コロナウイルス感染拡大防止のため3月23日に政府が導入した外出規制などの段階的な緩
和が始まっています。6月には一部学校の再開や小売業の営業開始など徐々に日常を取り戻すための動きが
見えてきました。
その一方で、電車やバスなど公共交通機関の運行は縮小された状態が続き、一部業種での職場復帰が推奨
された6月になっても、公共交通機関の利用を避け、徒歩や自転車など他の移動手段での通勤が推奨されています。
この結果、外出規制発表後のロンドン市内を走る地下鉄(Tube)の乗車率は一時、前年比で95%減少しま
したが、規制緩和に伴い乗車率が再び上昇してきています。ロンドン交通局(TFL)はソーシャルディスタン
スを保って運行した場合の乗車可能数は、15分当たり5~8万人と見込んでおり、コロナ危機前のピーク時の
乗車数32.5万人と比べると4分の1以下で、今後の生活で今まで通り電車を利用することがいかに難しいかを
示しています。
政府はこれを機に電車やバスに代わり自転車や徒歩での移動を増やすため、国内の道路インフラを自転車通
勤や徒歩通勤しやすいものへと整備することを検討しています。シャップス運輸相は歩行者と自転車用に合っ
た道路インフラの整備や電動キックボードの試験導入など20億ポンド(約2,700億円)を投じる計画を発表しました。
また、政府は2012年に導入した自転車通勤を促す「Cycle to work Scheme」の活用を改めて呼びかけています。
この事業は、会社員が勤務先を通じて注文した自転車代金が給料から毎月天引きされ、その分の所得税が控除
されるため、結果的に割安で自転車を購入できるという仕組みになっています。
また、自治体レベルでも自転車利用を促す動きが始まっています。バス運転手の父を持つロンドン市長の
カーン氏も市民に公共交通機関の利用を避けるよう呼びかけており、仮設資材の活用による自転車レーンの早急
な敷設や、繁華街の歩道の拡充など道路インフラを刷新する計画を発表しています。マンチェスターではすでに
500万ポンド(約6.7億円)の緊急投資により歩行者と自転車の共有専用レーンの整備等が進められています。
自転車愛好家で知られるジョンソン首相はこれら施策について「サイクリングにとって新たな黄金期の到来
(“should be a new golden age for cycling”)」と発言しています。今後、電車やバスに代わり自転車や徒歩に
よる通勤というスタイルが英国の交通手段としてどこまで浸透していくのか注目です。
ロンドン事務所所長補佐 高橋