私が英国に赴任して間もない2019年4月8日,「前代未聞の最も急進的な計画」とも評されたロンドンの新たな大気汚染対策である,「超低排出規制ゾーン(Ultra Low Emmision Zone,以下ULEZ)」が始まりました。この規制により,新たな排ガス基準を満たさない車やバイクが市中心部に乗り入れる場合,既に導入されている混雑税(Congestion Charge)に上乗せして,1日あたり乗用車は12.5ポンド,トラックやバスなどの大型車は100ポンドの支払いが義務付けられました。街中のあらゆる場所に設置されているナンバープレート自動認識カメラが,ULEZゾーンに乗り入れた車を記録し,自動的に自宅に請求書が郵送されます。支払いを怠ると1日あたり160ポンドの重いペナルティが課せられます。
導入当初、ロンドン交通局は一日当たり4万台の乗用車、2万台のバン、2千台のトラックに影響を及ぼすと試算しており、2019年5月16日発行の英国ガーディアン紙では、2019年3月と比べ、4月に市内中心部に乗り入れた排ガス基準を満たさない車の数が一日当たり約9,400台も減少し、約26,200台になったという統計を発表、ロンドン市のサディク・カーン市長も「大胆なアクションが成果に繋がった」と述べています。
ロンドン市が2020年4月に発表した「 CENTRAL LONDON ULTRA LOW EMISSION ZONE – TEN MONTH REPORT」によると,ULEZ導入前と比べ,市中心部の二酸化窒素濃度は44%も減少し,ロンドン中心部における自動車交通量は最大で9%の減少,排ガス基準を満たさない古い車の交通量は1日平均で49%減少したと公表されており,短期においても中長期においても効果が出ています。ULEZの現在の規制ゾーンは主にロンドン中心部のみですが,2021年10月25日から、ロンドンのほぼ全域へとその対象エリアを大きく拡大し、より多くのロンドン市民に影響を及ぼします。 同様の超低排出規制ゾーンは2021年の早い時期にバーミンガムとバース,スコットランドの複数都市でも導入される予定です。
所有している車によっては日々の手数料の支払いや車の買い替えが必要になるなど市民に大きな負担を強いるULEZですが,このような大胆な規制が必要なほどロンドンの大気汚染は深刻なのでしょうか?2017年発行のガーディアン紙では、ロンドンにある97の大気汚染観測地点の60%以上において、法で定められた汚染許容量を大幅に超過しており、許容範囲を超えた二酸化窒素ガスは年間約23,500人の死に影響を与え、ロンドン市民にとって最大の健康問題であると報じています。
コロナウイルス感染拡大によるロックダウンにもかかわらず、ホワイトホール(ロンドン事務所と英国中央省庁が面する通り)で環境保護団体による大規模なデモが開催されるなど、環境問題はロンドン市民の関心が高いトピックの一つです。子を持つ親や医師団体、環境活動家などはULEZ以上の取り組みを進めるよう政府に要請しています。
(2020.12 所長補佐 阿部)