ロンドンの夜は10度以下と寒い。外を歩くと、閉店した店の軒先で縮こまって眠るホームレスに気づき驚くことがある。また、スーパーの入り口で紙コップを手にして座っているホームレスを見かけることも多い。そんな光景を目にし、少し怖いと思うのと同時に何ができるのかと思い過ごしていたら、ロンドンを含むイングランドは、11月5日に二度目のロックダウンに入った。
政府は、3月23日に初めてロックダウンに入った際、ホームレスに自己隔離の場所を与えるために“Bring everyone in”(※)という政策をとり、今も継続して取り組んでいる。9月までに2万9,000人以上の保護が必要な人をサポートし、そのうち3分の2の人々は、宿泊施設に収容されているという。そして、今回のロックダウンにおいては、最も追加の支援を必要とする自治体に対し、‘Protect Programme’として新たに1,500万ポンド(約20億8,035万円)を補助することを決定した。ロンドンも最も支援を必要とする自治体の1つである。
政府によるホームレス支援はこれだけにとどまらない。なぜなら、現政権は2024年までにホームレスをなくすことをマニフェストに掲げており、1億5,000万ポンド(約200億350万円)を自治体に補助し、2021年3月までに約3,300戸の住宅を整備すると発表した。これは、公約していた6,000戸の過半数である。約3,300戸の内訳は、ロンドンで904戸、ロンドン以外で2,430戸である。一時的ではなく長期的に暮らすことができる家を提供することで、メンタルヘルスや薬物やアルコールによる依存症を治療するためのサポートを専門家から受けることができ、最終的には、訓練や就職に向かい、人生を立て直すことができるのである。今年の政府によるホームレス支援の支出は7億ポンド(970億8,300万円)を超えている。
しかし、コロナ禍の失業により、ホームレスの数は増えている。今年4月以降、英国では少なくとも90,063人がホームレスになると見込まれ、そのうち半数以上がすでに家を失っているという。中でも多いのは、パブやホテルなどサービス業に就いていた若者である。住み込みで生活していたため、失業と共に、家も失っている。今回のロックダウンにおいても政府は、ホームレスを増やさないよう、2021年1月まで賃貸人に強制退去を禁じているが、十分な拘束力を伴っていないため、家賃が滞っている賃借人は、退去の通告を受けた際に、異議を唱える権利を知らずに、退去してしまう人もいる。また、家庭内暴力によりやむを得ず家を失う場合や、低所得者の中には、寝に帰るためだけにシェアハウスをしていた人もおり、コロナ禍の失業により、狭い空間で他人と丸一日同じ時間を過ごさなければいけないことが苦痛になり、ホームレスになる場合がある。
ちなみに、ロンドン事務所が所在するウェストミンスター区では、昨年2,512人のホームレスが確認されており、イングランドで最も多い。ウェストミンスター区のホームページでは、保護されていないホームレスを通報し、自治体やチャリティ団体に繋ぐStreet Linkというアプリが紹介されている。このアプリでの通報は、イングランド及びウェールズで対応している。また、英国ではデビットカードによるコンタクトレス決済が主流となっており、ホームレスに直接現金で募金をすることが難しい。今後、街角では、自治体やチャリティ団体によるホームレス支援に市民が協力できるよう、コンタクトレス決済に対応する非接触ICカードリーダー(カード読み取り機)を各拠点に設置していくようである。
・上2枚は、保護されていないホームレスを通報し、自治体やチャリティ団体に繋ぐアプリの画面
・一番下は、自治体やチャリティ団体の活動を支援するため今後導入する非接触ICカードリーダーの説明
最後に、日々の生活でホームレスを見かけるようになったことで、ホームレスへの支援は私にとって最も身近に感じるものである。コロナ禍におけるホームレスの増加を踏まえた今後の政府及び自治体のホームレス支援策に引き続き注目していきたい。自己隔離のための場所を提供すること、失業により自己隔離をするための家を失わないようにすることは皆をコロナから守り、延いては感染者数を増やさないようにするために、取り組まなければならない課題である。
(※)“Bring everyone in”については、自治体国際化協会が配信するメールマガジンを参照ください。
【ロンドン事務所】コロナ禍におけるイングランド政府によるホームレス支援
http://www.clair.or.jp/j/mailmagazine/backnumber/2020/10/vol260_sdgs.html
(所長補佐 萩ノ脇 2020.11)