スコットランド独立の行方
EU離脱の移行期間終了が迫る中、依然として終わりの見えないコロナ対策に追われる前途多難なジョンソン政権には悩みの種がもう一つある。英国調査会社イプソス・モリが2020年10月にスコットランドで実施した世論調査で、約58%がスコットランドの独立に賛成という結果が出た[1]。スコットランドで再び英国からの独立の機運が高まってきているのである。
英国はイングランド、スコットランド、ウェールズ及び北アイルランドから構成される連合王国であるが、その歴史を辿ると、1603 年にスコットランド国王ジェームズ6世がイングランド王を兼ねる同君連合の成立までスコットランドは独自の王をいただく独立国家であった。20世紀に入ると、イングランド以外の地域の一部で独立を要求する民族主義政党が誕生し、国会にも議員を送り込む等、その勢力は拡大してきたが、1997年まで18年間続いた保守党政権では、地方分権は連合王国の基盤を揺るがしかねないということで進まなかった。その後、1997年に誕生したブレア労働党政権では、スコットランド議会の発足や英国政府の権限のスコットランド政府への移管など地方分権が積極的に行われていった。ブレア政権以降、徐々にスコットランドの独立の動きが出始め、ついに2014年9月18日、スコットランドで、英国からの独立の是非を問う住民投票が実施された。投票前は投票日が近づくにつれ、独立賛成派が勢いを増し、反対派を賛成派がわずかながらも上回るという世論調査結果が見られるようになったが、このような状況を踏まえ、保守党、自由民主党及び労働党の各党首は、独立反対が賛成を上回った場合、スコットランドにさらなる権限移譲を行っていく旨の誓約書を、住民投票直前に共同で発表した。結果、投票率は84.59%で、賛成44.7%に対して反対が55.3%と、独立反対が賛成を上回り、英国はスコットランドの独立という危機を一旦は脱した。
そんな中、スコットランド独立の動きが再燃するきっかけとなったのが、英国のEU離脱である。2016年6月に実施された英国のEU離脱の是非を問う国民投票で英国全体では離脱支持が残留支持を上回ったが、スコットランドでは残留支持が62%と離脱支持を上回る結果となった。これにより、スコットランド国民党(SNP[2])の党首である二コラ・スタージョン首席大臣は英国からの独立、EUへの加盟を目指すことを掲げた。さらに、2019年12月の英国総選挙では、SNPがスコットランド選挙区で59議席中48議席を獲得し、大躍進を遂げた。スタージョン氏は独立の是非を問う住民投票への支持を得たとして、スコットランド議会に住民投票を行う権限を譲るよう、英国政府に正式に要請した。しかし、ジョンソン首相は2014年の住民投票で決定したことだとし、正式に要請を拒否したことで、またしてもスコットランド独立への道は閉ざされたのである。
しかし、スコットランド独立支持の勢いは衰えず、奇しくもコロナの影響が再びスコットランドの独立機運を高めている。ジョンソン政権はコロナの感染対策の導入で他の欧州諸国に出遅れ、結果多くの死者を出したことで、中央政府への不信感が強まった。一方、スタージョン氏はイングランドより早く店舗内でのマスク着用義務や小売店の営業再開を遅らせるなど独自の対策を展開したことで、支持率が高まり、結果、スコットランド独立支持者も増えてきている。上述の同調査でも、両リーダーへの満足度について、ジョンソン政権への満足度が19%であるのに対し、スタージョン氏は72%の満足度を得ている。
スタージョン氏は2021年5月に実施されるスコットランド議会選挙でSNPが過半数を獲得した場合、2回目の住民投票を実施するための新たな措置を政府に要求するとしている。また、一部の議員の中には、2021年中には独立の住民投票が実施される可能性が高いという考えを示しており、いよいよスコットランドの独立が現実味を帯びてきている。一方で、ジョンソン首相は一貫して2014年の住民投票の結果を尊重すべきと2回目の住民投票の実施を拒否しつつ、スコットランドへの経済復興支援の拠出などあくまでも火消しに徹している。
今後、ますます独立の動きが増していくと予想される中で、こうした勢力にどのように対処し、連合王国としての統制を維持していくかということが、英国政府にとっての大きな課題となっている。
[1] https://www.ipsos.com/ipsos-mori/en-uk/record-public-support-scottish-independence
[2] スコットランドの独立を掲げる政党「Scottish National Party」の略。
(所長補佐 高橋 2020.11)