【記事】英国警察の取組に学べ~草の根レベルのテロ対策~
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英国でもテロ事件が相次ぐ中、市民向けテロ対策講座を受ける機会を得ました。
講師はロンドン警視庁の現職警官で、国家テロ対策警備室(National Counter
Terrorism Security Office: NaCTSO)の仕事にも携わります。NaCTSOは、少
人数の警察部隊から構成され、英国政府の対テロ戦略4P方針(Pursue・Preven-
t・Protect・Prepare)のうち“Protect”と“Prepare”の部分を担う組織で、
今回の講義はその普及啓発活動(Project Griffin(※1))の一環として実施
されたものです。
Project Griffinは「英国を取り巻くテロの現状への理解」「テロ等に遭った際
の対処法」「疑わしい行動を見抜き、通報すること」の普及を目指し、特に事
業者向けの支援に力を入れています。直近では、バカンスシーズンを前に、旅
行業界と協力して、研修用のテロ対策映像(※2)が作成され、2万名超が視聴
しています。リアルな映像が、テロを自らの問題として捉えさせ“RUN(逃げる)
・HIDE(隠れる)・TELL(通報)”の順に従って、取るべき行動を1つ1つ確認
することができ、大変有益です。
講座の中では「疑わしい行動を見抜き、通報すること」の部分にも重きが置か
れ、日常の中で普段とは違う何か(人・モノ)に気づき違和感を覚えたら、そ
の直感を無視せず、些細なことでも警察への連絡を躊躇せず行ってほしいと求
めていました。また、通報の内容による優先付けを行いつつも、原則として全
案件に対応する方針をとっているとのことでした。
英国警察の真摯な姿勢は、私が受けた講義が、当地の日系機関の一室で行われ
たことからも伺えます。要請があれば、テロ対策担当の警察官自らが企業等に
赴き、小規模講座の開催にも応じてくれます。市民目線に立った地道な努力は、
本講座の受講経験者による、実際のテロの現場での適切な対処につながる等、
大きな成果をあげています。
また英国では、警察官が学校やモスク、病院といった組織を訪ねてまわり、
「テロリストを生み出さない」土壌づくりにも注力しているそうです。こうし
た草の根レベルのテロ対策の在り方に私たちも学ぶべきことがあるように感じ
ました。
(※1)2004年の経済界、ロンドン市警察、ロンドン警視庁の試行的ジョイント
ベンチャーが始まり。その後、模範的な官民パートナーシップのテロ対策の取
組として英国内等で急速に活動の幅を広げている。
(※2) https://www.gov.uk/government/news/travel-industry-training-staff-to-deal-with-terrorist-incidents
(ロンドン事務所所長補佐 牧田)