2016年夏に配信が開始され、世界中で人気を博しているスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」を利用して来館者数を増やしているロンドンの図書館がある。レッドブリッジ(Redbridge)区は、2012年ロンドン・オリンピックの会場であったニューアム区やウォルサム・フォレスト区に隣り合うロンドン北東部の区である。北はエセックス県と隣接し、緑の多い郊外の街として知られている。同区南部のイルフォード(Ilford)地区に位置するレッドブリッジ中央図書館(Redbridge Central Library)[1] は、ポケモンGOで「ポケストップ」に指定されていることに目を付け、毎週金曜日の夕方、ポケモンGOを利用したイベントを開催している。ポケストップとは、ポケモンGOでポケモンを捕まえるために必要なモンスターボールを集めたりできる場所で、ポケモンGOのプレーヤーは必ず訪れる必要がある。イベントでは、主に子供や若者たちがスマートフォンを持参して集まり、館内でモンスターボールを入手したり、ポケモンを捕まえたりする。それだけではなく、コンピューターの使い方やインターネット上でのプライバシーの保護などについて館員からアドバイスを受けることもできる。
このイベントの発案者は、同図書館を運営する「ビジョンRCL (Vision Redbridge culture and libraries)」[2] のデジタルサービス・イノベーション部の図書館開発担当員であるマリア・レグエラさんである。ビジョンRCLは、レッドブリッジ区に代わって、同区の全ての文化・レジャー施設の運営を担うNPOである。同図書館を訪問し、レグエラさんから直接お話しを伺ったところによると、地方自治体と違って民間の様々な補助金に申請することができるNPOがこうした施設を運営する仕組みは好都合だという(英国では、数年前からの緊縮財政で地方自治体への政府補助金が削減されている影響で、全国で図書館の閉鎖が相次いでいる)。
レグエラさんは在ロンドンのスペイン人で、スペイン語の新聞で、ポケモンGOのポケストップに指定されたことで訪問者が増えたスペインの教会に関する記事を読み、このイベントのアイデアを思い付いた。イベント開始にあたり、同図書館がポケストップであることや、館内で見つけたポケモンの画像をレッドブリッジ区の全図書館の公式ツイッターからツイートするなどして、参加者を募った。
イベントの開催日を金曜夕方としたのは、主なターゲットである子供たちが放課後に参加し易いためである。イベントをマンネリ化させないため、同図書館と同様にポケストップに指定されているレッドブリッジ区内の歴史的建物を周り、地域の歴史について学ぶガイドツアーも開催している。また、ポケモンGOの特定のチームのプレーヤーが、図書館内のカフェを割引料金で利用できるサービスを実施している(割引料金を利用できるチームは週ごとに変わる)。
レグエラさんによると、イベント参加者の多くは、普段はこの図書館を利用していない若者や子供たちだという。同図書館にとっては、館内で無料Wifiやコンピューターが使えることや、貸出ししている電子書籍、電子雑誌について情報周知できる機会にもなっている。同図書館はほかにも、地域の起業家向けに企業経営に関するアドバイスの提供や無料Wifiが使える机スペースの貸出なども行っており、ポケモンGOのイベントも、こうした新たな利用者獲得のための同館の創意に富んだアイデアの一つである。
*画像は全てレッドブリッジ中央図書館提供(ツイートのキャプチャ画像を除く)
[1] https://www.redbridge.gov.uk/redbridge-events/libraries-events/other-children-clubs/[2] http://www.vision-rcl.org.uk/