平成22年10月12日から14日の3日間、カーディフ市において開催されました全国地方自治体事務総長・上級職員協会(SOLACE)年次総会に出席しました。概要を次のとおり報告します。
SOLACEはその名のとおり地方自治体事務部局の長である事務総長及び幹部職員の連絡組織であり、毎年この時期に年次総会が開催され、多くの自治体から事務総長又は幹部職員が出席しています。今年は、同総会の一週間後である10月20日に財務省が「2010年支出見直し」を発表する予定となっており、その中で20%、30%にも上る公共支出が削減されることが見込まれていたため、会議テーマは「嵐に耐え抜く(Weather the storm)」とされていました。会議のプログラムは、大ホールでの講演と小グループに分かれての勉強会とで構成されており、今後の政府債務予測、保守党・自民党連立政権のスコットランド等への地方分権政策、ITを利用した地方自治体サービスの改善、経済不況下における精神活力の維持という精神医学に関する講義など、中央政府の大幅な支出削減に備えた幅広い内容のプログラムが組まれていました。
【地方自治担当大臣の講演】
総会の最後には、グレッグ・クラーク地方自治担当大臣が講演を行いました。講演概要は以下のとおりです。
前労働党政権下では中央集権化が進められ、コミュニティ・地方自治省自体も地方自治体を過剰に規制する主体となっていた。中央政府が地方自治体に細かな指示を出したり、地方自治体に対して様々な報告義務を課したりするトップ・ダウンのやり方は非効率であり、この結果、公共サービスに関する意思決定に参画できていると感じている国民はわずかであり、これが国民の欲求不満状態を招いている。現連立政権での地方分権政策は、政権樹立直後に発表した新政権政策プログラムの中でも重要政策として位置づけられている。5年間の任期を約束している本政権では、よりよい政策は地域社会から生まれる、ボトム・アップによって作られるという考えの下、地域住民及び地域社会へより権限を与えることを目指している。そしてこれまでの単なる形式的な公共サービス(Public Service)から、住民サービス(Personal Service)及び地域社会サービス(Community Service)への転換を図りたい。
何故分権が必要なのか。それは、地域が自己管理能力を高め、イノベーションを起こすことができるようになること、そして地方には行政サービス現場としての専門性があり、地域住民に対する説明責任をよりよく果たせるからである。
このため具体的には、中央政府が地方を束縛してきた不必要な法的規制及び政策目標値を廃止し、中央政府の指示や介入を除去することにより、地域社会の潜在的可能性を引き出したい。さらに具体的には、中央政府の意向を押し付ける典型的政策であった包括的地域評価制度を既に廃止している。この包括的地域評価制度においては、地方自治体がどのように事務処理を行うべきかを中央政府が細かく基準化し、それに基づく評価が行われていた。加えて、条例に対する中央政府による関与を見直すとともに、地域開発公社の廃止とそれに代わる組織の構築によって地域レベルでの戦略を策定していく。一方地域社会においては、地域に存在する資産の有効活用や、地域社会の実情に合った住宅政策及び都市計画を進めるために、地域社会の権限強化を図りたい。予算及び財源の問題に関しては、財源に対する自治体の権限を強化するために、現在コミュニティ・地方自治省と財務省との間で特定補助金の一般化について検討を進めている。同時に、これまで自治体が提供してきたサービスを自治体以外の者が提供できるようにする政策も実施する。既に発表しているフリースクール(親、教師、チャリティ団体及び企業等が設立する学校で、地方自治体の権限が及ばない)はその具体例の一つであり、今後も相互扶助組織による公共サービスの提供等を検討していく。加えて、カウンシル・タックスの税率に上限を設けるキャッピング制度を廃止し、一定基準を上回る税率の引き上げを行う際には住民投票で住民の賛否を問う制度を導入する。さらに、公営住宅新築に対しての新しい補助スキームや、地域主導予算も導入する。
現政権の地方分権政策では透明性の向上及び説明責任の強化も大きな柱となっている。市民が公共サービスについての重要な意思決定を行うために必要な情報が提供されるべきであり、今後、コミュニティ・地方自治省及び地方自治体の歳出については詳細な情報をインターネットで公開する。またこれは、国民の利便性向上のため、すべての情報を「Data.gov.uk」に集約して公開することとしている。
マイクロクレジットを創設して2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスの活動は、初めは42の家族に27ドルを貸し付けることから始まった。とても小さな活動であったが、それを繰り返し続けることで、今やマイクロクレジットは全世界的な融資手法となり、特に発展途上国において人々が貧困から脱することを可能にし、大きな成功を収めている。本政権における地方分権政策もこの例に倣いたいと考えており、地域社会において何か大きなことを成し遂げて欲しいというのではなく、地域に根ざした小さな活動を継続することを大切にしてもらいたいと考えている。それが結果的には大きな実を結ぶことになると信じている。
地方分権政策に関する今後の動きとして、10月20日に「2010年支出見直し」が発表される予定であり、地域主義法案(Localism Bill)が今国会に提出される予定である。そして、より具体的にどのような権限を地方へ移譲していくかについて来夏までにコミュニティ・地方自治省から首相へ提案を行うこととなっている。このすべての過程において、政府は地方の意見を聴きながら政策策定を進めていくこととしており、現在、コミュニティ・地方自治省の分権チームには、エセックス・カウンティ・カウンシルのポリシー・ディレクターであるブランドン・ハラム氏が地方自治体協議会(LGA)から派遣され、議論に加わってもらっている。最後に、本政権が強調している地域主義とは、絶対的に必要とされる事務のみを中央政府が担い、それ以外のすべての事務はできる限り住民に近いところで実施していくという考え方である。また地方分権化とは地域住民、地域社会及び地域組織に権限を移譲することを意味する。そして、大きな社会(Big Society)とは、社会、地域住民及び地域社会がより大きな権限及び責任を持ち、より良いサービスとそこからの便益を得るためにそれらの権限及び責任を行使していくことを意味する、との3点を強調してこの講演を締めくくる。
【インターナショナル・ディナー】
会議初日の夜にはカーディフ市の主催によりカーディフ城内においてインターナショナル・ディナーが催されました。出席者は主に海外からの会議参加者と英国公的機関の国際担当部局の職員となっており、出席者の一人としてオーストラリア・モスマン市からヴィヴ・メイ ジェネラル・マネージャーが出席されていました。モスマン市は現在、滋賀県大津市との間で姉妹都市提携の検討を進めており、当協会・シドニー事務所とも深いつながりがあって、姉妹都市提携を支援する当協会の活動を高く評価されていました。その他、ウェールズを拠点に地方自治体向けのビジネスを行っている民間企業の出席者からは、平成20年2月に当ロンドン事務所が開催した日英交流セミナーに参加した際の思い出話を聞くこともでき、海外の方々から当協会の活動が認知され、評価されていることは大変喜ばしいことと感じられました。