●テーマ:「E-Governmentの推進について」
●日時:2008年1月29日 14:30~16:00
●講師:欧州復興開発銀行 総裁特別顧問 日下部 元雄 様
ご講演要旨
・E-Governmentを推進する際、どこに力点をおくかは、自治体によって異なるが、行政サービスの効率化のほかに、住民の自治体の意思決定への参画を即すE-Democracyという観点が重要である。
・「住民のニーズに合った、国や関係機関と統合された、自治体と住民が双方向に利用できるポータルサイト」というような理想的なポータルサイトをつくるためには、まずは、サイトの枠組みを低費用でつくり、その後コンテンツを充実させていくことが重要である。
・安価なポータルを開発途上国において普及させるため、国連等との連携のもとOpen City Portal という無料のソフトウェアの開発を現在行なっており、今後実証実験を通じて、当該ソフトの精度を上げていく予定である。http://www.opencityportal.net/
セッション1 ICTに携わるようになった経緯について
・(これまでの略歴)財務省、世界銀行副総裁を経て、欧州復興開発銀行で特別顧問を務めている。
・世界銀行はパブリックセクターへ貸付けをするが、欧州復興開発銀行は、主に東欧と旧ソ連圏の市場経済化を助けるため、民間企業に貸付けを行なっている機関である。
・私は、東欧ソ連の中でも比較的遅れた中央アジアやバルカンなどの小さい国に対し、起業家を支援するようなインフラを作ることに携わってきた。
・ICTというものを私のテーマとして研究するようになった経緯は、次のとおりである。世界銀行在任時に、世界銀行が貧困対策の基本戦略を、水の供給や保健衛生、教育などからエンパワーメントに転換するため、貧困階層に直接接しているソーシャル・アントレプレナーを25人ワシントンに呼んでセミナーを行なったところ、彼らからは、
①自分達がグローバル・ノレッジに接したい。
②自分達の声をグローバルの場での意思決定に反映させたい。
③僻地でもグローバルなマーケットに商品を売れるような仕事をつくりたい。
と、どれもICTと関係した要望であった。そのため、まだ世界銀行在任中であった当時、ICTを開発途上国でどのようにつくればよいのかという研究に着手した。それを現在EBRDにおいても行なっている。
・E-Governmentは、まだ、民間企業にコマーシャルベースでお金を貸すEBRDのメインストリームのオペレーションにはなっておらず、また、今回は主に西ヨーロッパにおけるE-Governmentについて話をするように依頼されていることもあり、本日話をするのは必ずしもすべてがEBRDの取り組みではないが、最後に話をするOpen City Portalという途上国の自治体でもお金をかけずにポータルサイトを作るという取組は、国連などと一緒に力を入れて取り組んでいるプロジェクトである。
セッション2 ヨーロッパにおける E-Governmentの状況について
・EU圏におけるE-Governmentへの取組状況について、EUがこれまで二度にわたってE-Europeというイニシアティブを行なっており、その柱の一つがE-Governmentである。
・EUが加盟国内のE-Governmentの発展段階を4段階に規定しており、各ステージは以下のとおりである。
①ステージ1:information(情報入手が可能、等)
②ステージ2:One way interaction(様式のダウンロードが可能、等)
③ステージ3:Two way interaction(インターネットでの申請が可能、等)
④ステージ4:Full electronic case handling(オンラインのトランザクションが完全に可能、等)
・EUでは、加盟国が第4段階までに達することをベンチマークにしており、EU発足当初の15カ国における到達比率が2001年では45%だったのが2004年では72%となった。
・行政サービスの中のどういう分野でオンライン決済が進んでいるかについては、自治体収入を生み出す分野(税の申告等)においては非常に進んでいる。登録関係では、統計データの提出などでは進んでいる一方、車の登録ではあまり進んでいない。公的支援サービスでは、就業支援サービスではが進んでいるが、医療サービス(例:専門の医者の予約をオンラインで実施)ではあまり進んでいない。許可・免許などの分野ではあまり進んでいないが、これは個人認証の制度を作ることが前提となることが理由であろう。
・オンライン・サービスの進捗についてEU加盟国を国別に見ると、1位がスウェーデン、2位がオーストリア、3位が英国である。北欧の国は進んでいる。
・EUの基準は、オンライン・トランザクションが可能かどうかのみに偏っているが、E-Governmentの進展具合を計る基準については、次のような観点からも見る必要がある。
①各省庁/各部門の統合ポータルがあるかどうか
②市民のニーズに合わせてコンテンツが分類されているか
③一目でコンテンツの全体の内容がわかるようになっているか
④必要な情報が全て盛り込まれているか
⑤市民が実際にポータルを使っているか(日本はポータルが充実しているのに、使用率が低い)
⑥インターネットに簡単にアクセスできないような人へのチャンネルも用意されているか
⑦E-Governmentに係る目標が達成されているか
・自治体レベルでのE-Governmentの進捗状況については、Torres, Pinna & Aceretの調査によると、2つの基準での研究が行われている。一つ目の基準はService Maturity(SM:どれだけの行政サービスがオンライン化されているか。)この指標では、1位(SM>20%)がウィーン、バーミンガム、シュツッツガルト、ミュンヘン等が上位となっている。二つ目の基準はDelivery Maturity(DM:サービス提供がどれだけ工夫されているか)については、バルセロナ、フランクフルト、マドリッド、サラゴサ、カーディフ、ベルリン、ウィーン等が上位となっている。
・ EBRDでは、東ヨーロッパ諸国におけるe-Governmentの進捗度合いを以下の5段階で判定する調査を行った。
①レベル1:イニシアティブなし
②レベル2:各省庁/部門がばらばらにE-Governmentを進めている
③レベル3:市民のニーズにあった統合ポータルサイトをもっている。ま た、ダウンロードが出来たり、行政と市民の間でのインタラクションの機能もある。
④レベル4:オンラインで申請や決済ができる。
⑤レベル5:E-Governmentの結果、行政のプロセスが合理化された。
この調査の結果、2005年度時点でエストニアがレベル5まで到達、セルビアとアゼルバイジャンがレベル3という結果であった。
・自治体レベルでE-Governmentがどれだけ進んでいるかを、国際会議に参加した世界各国の自治体に調査した結果では、60都市中、レベル2が11団体、レベル3が7団体(文京区を含む)、レベル4が27都市、レベル5が5団体(後述のフランスIssy-les-Moulineauxを含む)であった。
・E-Governmentを推進するにあたってはいくつかの焦点があって、各都市において何を重視しているかは異なる。コンテンツについて、G2C(Government to Consumer),G2B(Government to Business)及びG2G(Government to Government)の3つの視点とインフラについて、それぞれどれだけ進んでいるかによって、各都市のE-Governmentの推進状況を図ることができる。
・以下、4つの国、自治体又は地域について実例を紹介する。
①フランスのIssy-les-Moulineauxという自治体は、パリの南に位置する人口6万人の自治体である。96年に市長がサイバー都市としての変革・発展行なうというビジョンを打ちたて、E-Governmentによる行政改革を進めるというE-Democracyを推進。市の中にアクセスポイントを100程度つくってデジタルデバイドの解消に努めるとともに、E Voting(E-Governmentのシステムを使って、市民が直接市の意思決定などに参画する)などに取り組んだ。市庁の会議にも、市民が登録をすれば電話会議で意見を言うことができるなど、画期的なシステムであった。このように、E-Governmentを推進している自治体は、単に電子決済などによるサービスの効率化を第一の目的とするのではなく、E-Government による市民参画(E-democracy)を進めることを目標にしているところが多い。
②ウィーンは、E-Governmentが最も進んでいる都市であるが、ここはE-democracyよりも、電子決済などe-Governmentによる効率的な行政サービスの提供に力を入れているところである。30くらいのオンライン決済ができる。また、若者、女性、高齢者など様々なハンディキャップをもっている人へのサービス提供(例:高齢者へのパソコン研修の実施、盲目の人への音声によるサービス提供など)を行なっている。さらに、50のパブリック・アクセスポイントによるマルチ・チャネルをつくっている。以前は、市役所がアクセスポイントを設置していたが、今は官民連携(PPP)により民間がより充実したマルチ・チャネルをつくっている。単にインターネットだけでなく、コールセンターをつくって電話やFAX、eメールなど、全てのチャネルをつかってe-Governmentにアクセスできるようにしている。
③カタロニア(スペインのバルセロナがある自治州)では、職業教育や職業案内、起業支援などをCatalonia365というポータルで行なっており、地域振興をE-Governmentの主眼としている。この地域では、地方政府が3層構造になっており、従来は申請を3つレベルの各自治体に提出しなければならないなど複雑であったが、制度改正によって申請がCatalonia365のポータルサイトでできるようにした。
④エストニアは、東欧の中では一番E-Governmentが進んでいるが、計画的にIDカード作ったり、コマーシャルバンクのIDカードでE-Governmentを利用できるようにした。はじめは、各省庁がばらばらのシステムをつくり不便なシステムとなったため、後に各省庁統一のインターフェースとした。
・上記4つの自治体のe-Governmentの目的はそれぞれ異なるが、日本の自治体にも参考になるものであると考えられる。日本の自治体に対して2000年に政府が、何がe-Governmentの障害になっているかを調査したところ、
①予算が不十分(73%)
②組織的なサポートの欠如(60%)
③十分な技術の不足(46%)
④不十分なICTインフラ(43%)
との結果であった。
一部の先進的な自治体を除き、このような障害が弊害となっているところが多い。日本ですらこのような状況なので、まして途上国の市町村ではもっともっと障害が多い。
・各自治体がE-Governmentを進めるにあったての戦略について、よく見受けられる誤りとして以下があげられる。
①ベンダーやコンサル主導のストラテジーとなってしまう(ベンダーは高価な機器を販売したいと考え、そのような提案をするため、非常に高額なシステムになってしまう)。
②予算制約などにより、散発的なE-Governmentとなってしまう(予算のついた部局から始めるため、部局ごとのばらばらのシステムの集まりになってしまい、システム全体の統一性が欠如してしまう)。
③オンライン決済に焦点を当てすぎる。これもコストが高くなる原因となる。
④中央、各レベルの地方自治体が、ばらばらのシステムをつくる。
・このような誤りに陥らないためには、内容は後でもよいので、まずは市民に対する統一的なポータルをつくり、市民がシステマティックに検索できるようにし、そして、市民のニーズにあったコンテンツや、市民と行政の双方向のシステムをつくることである。ここまでの作業は、さほどお金をかけなくて出来ることであり、しかも、ここまででも、E-Governmentが目指す目的のほとんどが達成される。これ以上の、個人認証やオンライン決済がコストがかかるのである。また、例えば市民が学校の情報を求める際、公立だけではなく私立の学校の情報も必要である。市民が求めるものを総合的に提供するためには、民間セクターに参加してもらうことも重要である。
セッション3 Open City Portalについて
http://www.opencityportal.net/
・このような安価なポータルを開発途上国において普及させるため、いくつかの国際機関等と連携して、Open City Portalというオープンソースのソフトウェアの開発に取り組んでいる。当該ソフトウェアを使用してポータルを作るにあたって、自治体はライセンス料を払う必要はないため、ウェブのホスティングやメンテナンスの料金だけで、その都市の特別なニーズに合わせてポータルをつくることができる。市民のニーズに合わせたコンテンツや、自治体内部の各部署及び国の各省との統一性など、必要な特徴を全てそなえている。また、グローバルな視点で、世界の自治体のベストプラクティスなども紹介できるようになっている。
・当該システムを使ったポータルの作成に係るコンテンツ作りについては、一般職員ができるようになっている。特別の職員を雇うのではなく、第一線で市民の相手をしている人が、自分でコンテンツを入れられることが重要である。
・今は英語と日本語のみのサイトとなっている。架空の都市のポータルの例が掲載されているとともに、ウェブ上で自分の自治体のポータルをつくれるようになっている。
・トップページ>Look at the Partner City Portals >Hampstead Portal(A Sample Portal) では、Hampsteadという架空の自治体のポータルが表示されているが、最初のページに全てのコンテンツの内容が一目でわかるようになっている。例えば教育のページでは、自治体の取り組みや申請にかかるFAQ、イベント情報、役場への質問コーナーなどを掲載するとともに、研究者の報告や海外自治体の取り組みなども見ることができるようになっている。
・職業紹介や町おこし、起業家がポータルを通じて他の町の起業家と連携してビジネスプランを作るなどもできる。
・また、トップページ>Creating your City Portal では、10のステップで簡単に自治体のポータルがつくれるようになっている。実際にポータルを作ってから、コンテンツを充実されるべくプログラムが構成されている。まだ機能が全て完全ではない。
・最初は自治体のポータル担当者のみがアクセス可能とし、ある程度コンテンツが整ったところで、市民にも公開するという手順が妥当である。
・このシステムはまだ実証試験が済んでいないが、この3月に国連等と共同でブータンの首都で実証試験及び評価を行なう予定。また、他の都市でもパイロットとして行い、信頼性を高めていく予定である。
(以上)