調査・研究

スピーカーシリーズ

効率化に向けた取り組み

2008年10月28日 

●テーマ:「効率化に向けた取り組み」(The Drive for the Efficiency)
●日時:2008年10月28日 14:00~15:30
●講師:Dr.Peter Watt, INLOGOV University of Birmingham

081028

ご講演要旨

【プライベートセクターとパブリックセクターの各生産工程における業績測定の違い】
・ラジオの製作会社の工程を例にすると、Input(労働力や資源の投入)、Output(ラジオ)。Outcomes(ラジオの視聴経験)という3つの工程が存在する。プライベートセクターにおいては、この事例では、Outcome(成果)は、買い手によるラジオから得られる視聴経験である。この視聴経験の価値そのものを知ることはできないが、ラジオの価格や販売数量というOutputにより、その価値を見積もることが可能である。また、プライベートセクターにおけるProductivity(生産性)は、Input(資源投入) とOutput(産出)のRatio(割合)により測定することができる。
・一方、パブリックセクターにおいては、Outputは必ずしも必須ではない。例えば、自治体が道路の補修を行う場合、補修に必要な費用を測定しても、補修した道路の箇所数を常に把握しているとは限らない。プライベートセクターにおいては、販売数量の記録が必須であるのとは異なり、必ずしもOutputの記録は必要ではないからである。一方で、Outcome(住民にどのような影響を与えたか)を知ることができないのはプライベートセクターと同様である。なお、近年ではパブリックセクターにおいてもOutputに関する情報を収集するようになってきた。

【パブリックセクターにおける3E】
・昔はEconomy(経済性)が重視されていたが、近年は、Efficiency(効率)、さらには最終目的であるEffectiveness(効果)が重視されるようになってきた。Efficiencyとは、物事をうまく行っているかに関するものであり、Effectivenessとは、適切な物事を行っているかに関するものである。例えば、落とした玄関の鍵を探す際に、遠くの暗い場所に落としたことが分かっているにも関わらず、明かりの灯った場所を探すのは効率的ではないであろう。このように、従来は、非効率であるにも関わらず容易な手法を選んでいたが、最近では、実施が困難であっても効果的な手法(上記の例で、遠くの暗い場所を探すこと)を選択する方向へとシフトしている。

【パブリックセクターにおける業績の向上】
・中央政府は、地方における業績向上の手法として、各自治体に対し統一的なベンチマーキングを行ってきた。これにより、自身の自治体がどこに位置するのかが分かり、また他の自治体の状態を把握することができる。ベストバリューにおいて、政府は、ベンチマークの手法を用いて、Worstであると評価された自治体に対しては5年以内にBestとなるよう指示してきた。Bestの状態は、Production Frontierとも呼ばれ、それより上位にはまだ誰も達していない状態である。これを超えるには、技術革新が必要である。政府は、地方自治体に対し、これまで年間2.5%の効率化を求めていたところ、CSR2007 において年間3%の効率化を求めている。これを達成するためには、自治体は、今後もっと生産性の高い、「新たな仕事のやり方」を見つけなければならない。

【パブリックサービスにおける生産性向上を考える際の問題】
・ある自治体における複数のサービスに関するコストと業績の相関図を事例にすると、
非常に高いコストであるにも関わらず業績が良くない事業として、図書館サービスが挙げられた。(これは全ての図書館に大規模な無料インターネットサービスを導入したことによるものである。)しかしながら、この事業は、政治的に決定された当該自治体の方針であることから、たとえ業績に比してコストが過大であるとしても、政策を変更する予定はないとのことであった。
・Baumol’s diseaseとは、サービス業のような労働集約型産業においては、生産性を向上させることは困難であるという問題である。生産性は、コンピュータの生産などモノに関してはその向上を図ることができる。しかし、モノではない場合には事情が異なる。例えば、シェークスピアの演劇には、毎回、長時間にわたる公演と多数の俳優の出演が必要であり、ここで効率性を問うことができるであろうか。これと、パブリックセクターにおける生産性の向上が難しいのとは同様である。例えば、社会福祉のカウンセリングにおいて、生産性を向上させることができるだろうか。例えば5人の話を一度にカウンセリングすることで生産性を5倍にすることができたとはいえない。あるいは、病院において生産性の向上を図る場合、1人あたりの診療時間を従来よりも短縮したとして、顧客の側では、モノを買う場合には支払いをしない、買わないという選択が可能であるのに対し、病院の場合にはそれが不可能である。ここで、Outcomeに注目し、患者から、病院における自らの経験のフィードバックを収集することにより、見せかけの効率性の向上から患者を守ることが可能である。このように、パブリックセクターにおいては、労働集約型産業であるがゆえに効率性の向上を図ることは難しい。

【政府の効率化に向けた政策について】
・政府は、地方自治体に対し、年間3%の効率化を求めている。また効率化による削減は、cash-releasing(現金化)できるものでなければならない。同じ生産価値を得るために、投入するコストを少なくしなければならない。これは、国の業績指標(National Indicator)の1つでもある。新たな業績管理の枠組みにより、過去に国が地方に対して課していた業績指標は1200であったが、現行制度では198にまで減少した。
・納税者と政府は、Principal(依頼人)とAgent(代理人)の関係にある。納税者は、中央政府に税金の多くを支払うことから、お金の支払いに見合った業績の達成を中央政府に期待する。しかしながら、実際には、中央政府に支払われた税金は各省庁に配分され、その後地方自治体に配分され、最終的には自治体の道路清掃などフロントサービスへと配分される。これはPrincipal-Agentの関係が連鎖した状態である。このような状態で納税者を満足させるために、政府は、納められた税金がどのように使われているのかを十分に説明することが必要となる。このため、CSR2007において、政府は達成すべき5つの目的を定め、その達成状況を有権者に報告することとしている。そして、政府は、資金の配分先である各省庁や自治体に対し、自らの目的の達成に向け、細かい業績目標を課している。各省庁に対しては30のPublic Service Agreement(PSA)を課すとともに、地方自治体に対しては198のNational Indicator(業績指標)を課している。

【Regional Improvement and Efficiency Partnerships(RIEPs)】
・従来のRegional Centre of excellenceとImprovement Networkが合併したもので、イングランドの9つの地域に存在する。RIEPsには、総額1億9500万ポンドが配分されているが、これは自治体の予算全体のわずか0.13%である。この資金は、自治体の改善や効率化を支援するためのコンサルティングやアドバイスを委託することなどに使用される。

【Comprehensive Area Assessment(包括的地域評価;CAA)について】
・従来のCPA(Comprehensive Performance Assessment)では、自治体における業績評価と住民の認識との間にギャップが存在していた。そこで、各自治体を個々に評価する手法から、地域を全体として評価する手法であるCAAにシフトすることとした。CAAにおいては、カウンティの中のすべての組織を総合して地域としての評価を行う。これにより、地域内の組織間において協力してより効率的な手法を採用するモチベーションとなることが期待されている。

【質疑応答】
○パブリックセクターにおいて、Outputを測定できるものにはどんな分野があるか。
・例えば、何回の講義を受講したか、については数値化することが可能であるように、あらゆる分野においてOutputを測定することは可能である。しかし、プライベートセクターが、モノの売り上げによりその価値を図ることが可能であるのとは異なり、これによってどんな価値が得られたかを明確にすることは困難である。
一方で、費用と効果を分析する手法として頻繁に用いられているものに、医療分野におけるQALY(Quality Adjusted Life Years)という評価手法がある。社会福祉分野においても、同様の評価手法がある。一方で、こういった手法は、ときには、良い結果をもたらすにも関わらず、コストに見合ったものでないとして却下されるということもあり、議論の余地のあるところである。また、別の事例を紹介すると、腎臓に関するある治療薬を、それにより多くの人が救われる可能性があるにも関わらず、NHSが治療効果が価格に見合ったものでないとして提供を拒んだことがあり、これに対し、患者から多くの不満が寄せられたことが最近の新聞で話題になった。

○ある地域内において、ある行政分野には十分な予算があるため、サービス向上に向けた十分な対策が可能で高業績を上げる一方、別の行政分野はその逆で、予算が不十分であるために、優先度が高い事項でさえ満足に実施できないため、業績が悪い場合があるだろう。すると、業績評価を正しく行うためには予算配分が公平であることも重要だと思うが、誰が地域のパートナーシップへの予算配分割合を決めるのか?
・多くの資金は、中央政府が、地域の優先事項と状況をふまえ、地方自治体と保健当局に対して配分する。しかしながら、中央政府には十分な情報がないために、ある自治体には十分な予算が割り当てられ低い優先事項にも配分される一方、別の自治体にはその逆に、高い優先事項にさえ配分できないといった問題が生じる。中央政府においては、地域内での横の調整は行わない。しかし、地域内において、LAAで定めた優先事項の優先度合いに応じて資金の横の調整を図るよう交渉することは可能である。また、個々の自治体ではなく、地域に割り当てられる、使途の定められていないPooled Budgetも存在する。これは、団体のトップが机上で議論してその使途を定めるものである。しかし、これは、地方自治体の支出のうちのごくわずかに過ぎない。また、自分に割り当てられた資金を他に譲ることはないだろうと述べる人もいる。

○それぞれの団体への配分が政府で決定された後にも、例えば、保健当局から地方自治体へ資金を移すなど、中央の許可なく地方のレベルで、資金をある団体から別の団体へ調整することは可能なのか?
・可能である。LAAに定めた地域の優先事項によって、その調整を正当化することができる。また、Joint Postといって、社会ケアと保健を兼任する幹部職のポストを設置し、(社会ケアを担当する)地方自治体と保健当局が給料を折半するといった事例もある。

○なぜ政府はそれほどまでにパートナーシップを推進するのか。
・英国のパブリックセクターでは、複数の組織による共同(Joining up)はあまり行われていなかったが、政府は、近年地域におけるパートナーシップを非常に重視するようになってきた。例えば、親戚が亡くなった場合、最近までは、非常の多くの部署でそれぞれ手続きをする必要があり、すべての手続きを1箇所で済ませられるような制度が望まれてきた。一方、プライベートセクターにおいては、例えばレストランで食事を注文した際に、顧客に対し各食材店でそれぞれの素材を購入したうえで調理するということは非効率であることから行われない。食材の調達も含めすべてのプロセスをレストランで行うことにより効率化を図っている。パブリックセクターでも同じように効率化が図ることが可能である。しかし、パブリックセクターにおいては、無料で食事を提供する場合もあり、予算の制約から効率化を図ることがこのように問題となることがある。

○地域における業績や効率化を向上させるためのインセンティブを働かせるための報奨制度はあるのか?
・LAAで定めた優先事項の業績が優れている場合、非常に少額であるが資金を上乗せする制度があり、政府はこれを増額したいと考えている。一方でこの制度には限界がある。たとえば、業績を向上させた自治体はさらなる資金が得られる一方、業績の良くない自治体は、資金の割り当てが少なくなる。このように報奨要素が大きくなれば、サービスを向上させたいところにお金が割り当てられず、不公平なものとなる可能性がある。

○CSR2007の期間中に目標の達成が困難な地域において、結果として政府が定めた目標が達成できなかった場合、それは当該自治体における失敗であるだけではなく、国の政策の失敗でもあると考えられるが、この場合、国はどのように対応するのか?
・目標が達成できない自治体に対し、国はEngagementと呼ぶ介入を行う。しかしながら、これには問題もある。たとえば、クリーニングを依頼したが、その結果が期待に沿うものでないため受託者に不満を述べた場合に、それなら委託者自らやるべきだ、言われたら困るであろう。政府と自治体の関係においても同様の問題がある。過去に、政府が業績の良くない自治体に対し介入した際に、当該自治体から、国が自らその業務を実施すればいいのではないかと反論した事例もあった。
一方で、自治体の管轄地域に問題があれば、当該自治体における業績向上能力に影響を及ぼすことがある。そこで、監査委員会は、自治体の出発点はそれぞれ異なることから、その出発点からどれだけ業績を向上させたかを重視するようになってきた。しかしこの測定手法は一層困難なものであろう。
(以上)

(注)この記録は、Peter Watt氏が自治体国際化協会ロンドン事務所において英語にて行った講演の内容について、同事務所職員が概要を日本語にて記録したものである。

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