調査・研究

スピーカーシリーズ

金融危機の管理と地方の統治

2010年06月01日 

1 テーマ:「金融危機の管理と地方の統治」
2 日時:2010年5月24日(月)14:00~15:30
3 講師:白鴎大学法学部准教授、バーミンガム大学客員研究員 児玉博昭 様
概要は下記のとおりです。

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<欧州地方自治体への影響>
・金融危機は地域経済と地域社会に大きな影響を及ぼしており、世界的不況の地方政府への影響に関しては都市・地方政府連合(UCLG)が、欧州各国における地方自治体への影響に関しては欧州自治体・地域協議会(CEMR)が調査報告書をまとめている。
・欧州自治体・地域協議会が各国の地方自治体を対象に行った調査によると、昨春以降、金融・経済危機が悪化し、今年も状況は同様か悪化するという回答が多くを占めた。また多くの自治体が税収の減少、特定の公共サービスへの供給需要の増加を経験している。

<英国自治体への影響・対応>
・英国監査委員会が金融危機と景気後退が地方自治体に与える影響に関する報告書を発表している。また、地方自治体協議会(LGA)は、国内外の自治体が地域に対し提供している解決策をまとめた事例研究「世界不況:地方の対策Ⅱ:人々と事業を援助する自治体」を作成し、エセックス県が地元の中小企業を対象とした独自の融資制度Banking on Essex等を紹介している。
・不況により民間部門が深刻な影響を受けており、特に製造業、流通業、金融業で失業者が多い。非熟練労働者は全労働者の4分の1に過ぎないが、失業手当申請者の2分の1を占めている。
・ディストリクト・カウンシルがユニタリー・カウンシルやカウンティ・カウンシル等に比べより深刻な財政的ダメージを受けている。過半数の自治体が余剰人員対策を開始又は計画している。

<日本の自治体と地方銀行-栃木県と足利銀行>
○足利銀行の破たんと栃木県の対応
・足利銀行は2003年11月預金保険法に基づき破たん処理を受け、一時国有化された。栃木県庁の指定金融機関であり、県内の中小企業の多くが融資を受けていたことから、破たんに伴う地域経済への影響が懸念された。
・事前対策:栃木県はペイオフ一部解禁に備え、「栃木県公金管理運用方針」を策定し、「栃木県公金管理運用委員会」を設置し、「栃木県公金リスク管理マニュアル」を作成していたが、これらは公金の保全を目的としたものであった。
・事後対応:足利銀行の一時国有化に対応するため、県は「栃木県金融危機対策本部」を設置、「栃木県経済新生計画」を策定、「緊急セーフティネット資金」を創設するなど、地域金融・企業再生を目的とした施策を展開した他、緊急議会が招集され、議員提案により「栃木県産業再生委員会」が設置された。更に、「栃木県緊急経済活性化県民会議」が発足し、県、県議会、県選出国会議員、県内関係団体を巻き込んだ危機管理の全県体制が築かれた。また、知事選の結果議会協調派の新知事が選出されたことにより、足利銀行の受け皿に関して国に対し県民が一丸となった要望活動が実現した。
○キングダンの「政策の窓モデル」
・政策プロセスには、問題・政策・政治という関連しつつ独立した3つの流れがあり、この3つが合流(問題を認識、解決案を用意、政治的に好機)した状況を「政策の窓」が開くというが、機会は少なく期間も短い。
・足利銀行の一時国有化で受け皿問題が浮上し、県民銀行構想が消滅する中で民間主導の経営方式に選択肢が絞り込まれ、議会と協調的な知事に交代したことで、「政策の窓」が開き、県民一丸となった国への要望活動が実現したとみることができる。
○公共経営と公共ガバナンス
・事前対策の保守性はマネジメントの限界を、事後対応の流動性はガバナンスの必要性を示唆している。
・危機管理の政策プロセスを分析する必要がある。自治体も非常事態に備え金融対策のチャンネルを持つべきである。

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