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調査・研究

スピーカーシリーズ

スウェーデンの政府間財政関係と近年の状況

2014年07月02日 

2014年度第2回スピーカーシリーズ

「スウェーデンの政府間財政関係と近年の状況」

2014年6月11日(水)10:00~12:00

講師:横浜国立大学 准教授 伊集 守直氏

 於:クレアロンドン事務所 会議室

IMG_3124今年度第2回目のスピーカーシリーズは、英国の地方財政及び会計制度の調査のため、当地にお見えになられました横浜国立大学准教授の伊集守直氏を講師にお招きし、スウェーデンの政府間財政関係と近年の状況に関して、ご講演いただきました。なお、調査団長である立教大学の関口智先生にもご参加いただきました。主な内容を以下のとおりご紹介いたします。

○スウェーデンの政治体制について

スウェーデンは、社会民主党を中心とした左派政権の下で社会保障を充実させてきたが、近年は中道右派政権が政権を握ることもあり、現在は穏健党を中心とした連立政権である。ただし、現在の世論調査では、次は再び社会民主党に戻る可能性が高いとみられている。

○スウェーデンにおける国民負担率について

・日本に比べて、スウェーデンの公的負担は高くなっている。

 日本:38.3%(租税負担率22.0%、社会保障負担率16.2%)

 スウェーデン:62.5%(租税負担率50.2%、社会保障負担率12.4%)

・スウェーデンは、医療や介護などのサービスの財源が税金であるため、社会保障負担率が比較的小さく見える。一方で、ドイツやフランスは、社会保障が財源であるため、社会保障負担率が大きくなっている。

 ○歳入に占める地方税の割合、歳出に占める財政赤字の割合について

イギリスは地方税の割合が非常に小さくほとんどが国税であるが、日本やスウェーデンは地方にも税源が配分されている。また、スウェーデンの歳入を見てみると、歳出の規模は大きいものの、財政赤字が少なく(日本は財政赤字が対GDP比約8%)、他の国に比べて財政状況は健全であるということができる。

 ○政府構造について

・スウェーデンの地方政府は、都道府県に相当する広域自治体(ランスティング、20団体)と市町村に相当する基礎自治体(コミューン、290団体)の二層制となっている。特に、基礎自治体において、自治体ごとの規模の差が小さいことが特徴として挙げられる。(5,000人未満15団体、10万人以上14団体、中央値15,243人)

 ・これらの地方政府に加え、各広域自治体(及びゴットランド)には、国の地方行政機関である「レーン府」が配置されている。レーン府は主に環境保護や建設の許認可などを行っており、地方政府とは明確に業務が区別されている。

 ・なお、より広域的で権限のある広域自治体が必要との考えから、現在、広域自治体のうち3団体、基礎自治体のうち1団体が「レギオン」となり、「レーン府」から地域政策等に関わる権限を移譲されている。(レギオン実験)

 ○政府間事務配分について

地方政府の主な業務としては、広域自治体が医療、基礎自治体が社会福祉、教育となっている。日本と違い重複がなく、地方政府間の事務分担が明確になっていることが特徴である。

 ○地方政府の歳入構造について

・地方政府の歳入における地方税(地方所得税)の占める割合が高く、また地方税の税率は地方政府が決定している。さらに、高所得者層(フルタイム労働者の約2割が該当)に対しては、地方税に加えて、国の所得税が徴収される。

 地方政府の歳入における地方税の占める割合: 広域自治体約70%、基礎自治体約60%(日本約35%)

・60年代半ばから80年代初頭にかけて、地方政府のサービス供給拡大に伴い、地方政府の財政規模が拡大し、地方所得税率引き上げに繋がった。

○公共サービスに対するニーズ

・80年代と比較して、医療、高齢者福祉、学校教育に対するニーズが高まってきているほか、子育てに対するニーズも安定して高い。

・ニーズの中身を見てみると、特に子育て、高齢者福祉において、現金給付よりも現物給付のニーズが高い。また、公共サービス充実における増税に対しても賛成の意見が多い。

○公共サービスにおける民間参入

穏健党中心の中道右派連立政権の下で、サービスの効率化も必要との観点から、2009年に「自由選択制度法」が制定され、医療、介護、保育などすべての公共サービス分野における民間事業者の参入が自由化された。これは、利用者が無料でサービスを受けることができ(公的供給)、サービスは民間が提供する(公私混合生産)という形をとっている。(例:バウチャー制度)

○スウェーデンにおける政府間財政関係の歴史的変化

都市部への人口流入と地方政府における財政需要の拡大を受け、合併の実施、財政調整制度(自治体間の格差を調整)の導入が行われた。

○基礎自治体の合併

福祉の充実等の観点から政府主導により合併が進められ、基礎自治体は、1951年の第一次合併により2490団体(1951年)から1037団体(1952年)、第二次合併により、278団体(1974年)にまで減少した。

○財政調整制度

・自治体規模の拡大により生じた自治体間格差を解消するために、1966年から財政調整制度が導入された。1993年には、特定補助金の大幅な一般財源化が行われ、1990年代初頭まで割合の高かった特定補助金(使途の限定された補助金)の割合と一般補助金の割合が逆転した。

・加えて、1996年には、自治体間の財政力格差の是正を目的に、財政力の強い自治体から弱い自治体に再分配する「水平的調整」が導入された。

○1990年代の財政再建について

1990年代初頭のバブル経済崩壊に伴い、財政再建(増税と歳出削減)が実施された際には、「現物給付の削減は行わない」という原則で実施された。(失業保険の給付引き下げ(失業前の90%から75%)などの現金給付削減は行われた。)今後日本が財政再建を図る際にも、この点は参考になるのではないか。

【質疑応答】

●1993年の制度改革により、地方政府への補助金は総額ベースで減額しているが、どのような経緯で減額が行われたのか。

⇒制度改革が行われた当時の政権は、公的支出の削減を打ち出していたため、総額ベースで減額されることとなった。その結果、地方公務員の雇用もかなり失われた。その後、1994年に社民党が政権を取ってから、補助金総額を戻す形となった。

●日本では増税の議論があった際には、行政のムダなどに議論が及ぶことが多いが、スウェーデンではそのような議論はないのか。

⇒スウェーデンにも、行政自体の無駄に対しての批判はある。しかし、自治体から提供されているサービスがはっきりしているため、公的サービスの質に対する批判は少ない。日本の場合はすぐにムダの議論になってしまう。我々学者も含め、もっと国民・住民に地方行政の果たす役割をきちんと理解してもらうための努力が必要。スウェーデンはその点がしっかりとできている。

●今後、税収減などに対してスウェーデンはどのように対応していくのか。

⇒スウェーデンでは、産業構造を変革して、より高付加価値な産業に切り替えていくことを重視している。一方、スウェーデンでは難民は受け入れているが、労働移民は受け入れておらず、人口減少に伴う移民受け入れ増加に関しては消極的。

【講演資料へリンク(PDF)】

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