活動記録
2010年05月11日
Spelthorneにおける選挙事務に関する調査
○日時:2010年5月6日(木)14:30~
○場所:Spelthorne Borough Council Office
2010年5月6日の英国総選挙に際し、ロンドンの南、ヒースロー空港の近くに位置するSpelthorne Borough Councilを訪問し、選挙事務に関する調査を行いました。
【Spelthorneの選挙関連情報等】
・Spelthorne市役所職員の55%は女性職員。
・Spelthorneの人口は90,000人。うち有権者数70,000人。
・投票所は市内に70以上あり、1つの学校校舎の中に5つの投票所が設置されている箇所もある。
・今回の総選挙では有権者の約11%が郵便投票を利用している。郵便投票の利用者数は増加傾向にある。
・一つの投票所には、通常1人の責任者と2人の係員が配置されるが、彼らは自治体職員とは限らない。一部自治体職員も含まれているが、投票日だけの日雇いのアルバイトを募集して人員を補っている。日雇いの中には自治体OBなど経験者も含まれているが、Spelthorneの場合市域に市職員OBが少ないため(大都市近郊であるため職員の多くが他の自治体に転職していくため)、その数は多くない。
・自治体職員が選挙関連業務を行う場合は、彼ら自身も日雇いのアルバイトとして同業務に対する支払いを受けることから、有休休暇を取得した上で選挙関連業務に従事しなければならない。
・開票作業についても同様で、自治体職員及び日雇いのアルバイトで実施される。作業員は約100人だが、自治体職員はそのうち約2~3割。
・自治体側の本音としては、全ての選挙事務を信頼できる自治体職員のみで実施したいが、投開票が平日に行われるため、通常通り役所での業務を行う人員も必要であることから、自治体職員の大半を選挙事務に従事させることはできない。
・投票所の責任者の業務に対しては、£200以上の報酬が支払われる。
・Spelthorne市議会議員選挙は4年に一度となっている。イングランドの自治体は地方議会選挙の改選方法について、3分の1ずつ毎年実施、2分の1ずつ隔年実施、全体を4年に一度の中から選ぶことができる。毎年改選がある場合では、毎年どこか特定の地域に選挙事務を集中させることができ、かつ毎年同じ業務があることから職員の経験を養うこともできるというメリットがある。
・投票事務従事者は午前6時15分ごろ投票所に到着。45分で設営作業をし、朝7時の投票開始から夜10時の投票終了まで従事する。投票所責任者はその後投票箱を開票所に運ぶ。開票作業はすべての投票箱が揃う夜11時ごろから始まり、終了するのは概ね翌朝3~5時ごろとなる。
【郵便投票の流れ】
①事前に、郵便投票登録を行う。様式に生年月日、署名等の個人情報を記入したものが、自治体においてスキャンされデータベース化されている。様式そのものも紙ベースで保存されている。
(郵便投票用紙)
・郵送用封筒、投票用紙用封筒、投票用紙から構成されている。
・郵送用封筒、投票用紙用封筒の印刷は特殊な技術を持つ指定業者が行う。
・投票用紙用封筒、投票用紙には、個人に割り当てられた有権者番号が記載されている。
・投票用紙は、投票所で使用するものと同じ。投票用紙の印刷は、立候補が締め切られたその日の夜に地元業者(随意契約)が行い、翌朝には出来上がる。郵便投票の受付は立候補締切翌日に開始される。
・有権者は、記入済み投票用紙を投票用紙用封筒に入れて封をし、封筒の外側に生年月日及び署名をする。
・必要事項を記載した投票用紙用封筒を郵送用封筒に入れ、投函する。
・2010年5月6日(投票日)22時必着という注意事項が記載されている。
②自治体では、受領した郵便投票から順に開封する(投票日における投票終了を待たない)。
③受領した郵便投票を全て郵送用封筒から取り出す。取り出した後の郵送用封筒の中が空であるかのチェックも行う。
④投票用紙用封筒の外側に記載された生年月日、署名及びバーコードを用いて、事前にデータベース化されている①の登録内容との照合を行う。
⑤バーコード読み取り機に投票用紙用封筒の外側のバーコードをかざすと、事前に登録された①登録内容がPC画面上に表示される。同登録内容(生年月日及び署名)と投票用紙用封筒の外側に記載された生年月日及び署名が一致しているかを一つ一つ確認する。
⑥⑤の過程で①登録内容と一致しなかったものは無効となる。
⑦今回訪問した自治体においては、人の目によって生年月日及び署名が一致しているかを確認していたが、自治体によってはその確認作業ができる機械を導入しているところもあるとのことであった。しかし、機械が署名等の一致を判断するのは容易ではなく、機械が不一致とみなしたものについて、再度人の目で確認する作業が発生するので、必ずしも機械での確認作業の方が勝るということではないとのことだった。
⑧⑤で問題のなかったものについて、投票用紙用封筒の開封が行われる。ただしその前に、投票用紙用封筒外側の生年月日、署名等の個人情報の切り離しが行われる。投票用紙用封筒は容易に個人情報を切り離せるようにミシン目が入った構造になっている。
⑨個人情報を切り離した投票用紙用封筒を開封し、中から投票用紙を取り出す。取り出した投票用紙は表を伏せて積み重ねられる。また、投票用紙裏側に記載されている有権者番号と投票用紙用封筒にある有権者番号とが一致しているか、開封作業を行いながらチェックが行われる。
⑩⑨のチェックで、2つの番号が一致していない場合には、無効となる可能性があるため、番号が一致したものとは区別して仕分けされる。
⑪⑨のチェックで問題のなかった投票用紙は、枚数を確認した上で開票日まで郵便投票箱用の投票箱に保管され、投票所閉鎖後の開票作業を待つこととなる。
⑫⑩の番号が不一致となったものは、不一致番号リストへの入力が行われる。同リスト上のこれまでの記録と照合し、明らかに使用する投票用紙にミスがあっただけで、投票用紙用封筒が正しいもの(本人のもの)が使用されている場合は有効票となる。
⑬Spelthorneでは、郵便投票が投票日までに全て配達されたかどうかを確認するため、Royal Mailに委託して投票日の20時頃にRoyal Mail内に郵便投票がまだ残っていないかどうかを確認させている。費用のかかる委託であることから、同委託を行っていない自治体も存在する。
⑭今回訪問時には、約30の郵便投票の処理が実施されたが、その中に⑥、⑩の事例いずれもが含まれていた。特に夫婦等の同世帯居住者に郵便投票用紙が送付された場合、封筒と投票用紙がバラバラとなって、本人の有権者番号でない投票用紙、封筒が使用される可能性が高まる。今回訪問時においても、夫婦から返送されたと思われる2通の郵便投票において、投票用紙は正しいものが使用されているが投票用紙用封筒が入れ替わって使用され⑥の場合となってしまったことから無効とみなされたものがあった。
【投票所】
①有権者には事前に割り当てられた投票所がどこであるかを告知するカードが郵送されている。ただし同カードの持参は必ずしも求められない。
②投票所では、まず名前及び住所が質問される。
③投票所係員は手元の有権者登録簿上の当該有権者の部分にチェックを記入し、投票用紙を手渡す。
④係員の手元には、投票用紙番号リストも準備されており、そのリストに有権者番号を記載する。つまり、誰に何番の投票用紙を配布したかを記録する。
⑤有権者は記帳台で投票用紙への記入を行い、投票用紙を好きなように折りたたんで投票箱へ入れる。
⑥訪問した投票所では、記帳台は日本と同じような形であったが、木製であった。また車椅子用に台の高さを低くし幅を広げた記帳台も各投票所に一つ設置されていた。
⑦投票用紙の紙自体は通常の紙と同じであるが、偽造を防ぐために特殊なインクを使用した市の紋章が印刷されている。
⑧係員の手元には、1時間ごとの投票者数を記録する様式も準備されていた。
⑨郵便投票を投票所に持ち込むことも可能であることから、投票箱とは別に持ち込まれた郵便投票を保存するための袋が準備されていた。
⑩投票時間終了後、投票所責任者は、必要書類に投票用紙の使用枚数(これにより投票箱内の投票用紙枚数がわかる)等を記載し、同書類と投票箱を開票所まで運ばなければならない。
【開票所】
・開票所として市スポーツセンター体育館が使用されていた。バドミントンコートにして10面分の広さがある。
・22時以降の開票作業に備えて、テーブル、椅子、ステージその他仕分け用の入れ物、文具類が準備されていた。
・ステージは自治体選挙総括責任者(Returning Officer)がアナウンスをしたり、最後に開票結果を発表する際に使用するためのものである。
・開票所には立候補者及び立候補者が雇用した選挙事務代理人が入ることができるが、一般市民は入ることができない。これら入場を許可された者は、仕切りの外側で開票作業を見ることができる。
・投票所の番号ごとに、開票作業を行うテーブルが準備されていた。
(開票作業の流れ)
①開票所に各投票所から投票箱が持ち込まれる。
②決められたテーブルの上で投票箱ごとに箱内の投票用紙の枚数が数えられる。
③テーブルの開票作業員が合計枚数を各投票所責任者に向かって告知する。
④各投票所責任者は、投票箱とともに持ち込んだ書類上に記載されている投票箱内投票用紙枚数と告知された枚数とが一致しているかを確認する。
⑤④で不一致がみられた場合は、テーブルで再度投票用紙枚数が数えられる。②~④は最大3回繰り返される。
⑥全ての投票箱について投票用紙枚数の確認が終わると、投票総数が算出され、自治体選挙総括責任者がステージ上で投票総数及び投票率を発表し、実際に得票数のカウントが始まる。
⑦投票総数が算出された時点で、全ての投票用紙が一まとめにされどこの投票所からもたらされた投票用紙であるかがわからなくなる。これにより、どの地域でどの立候補者に対する支持が多かったか、少なかったかという事実がわからなくなる。
⑧次に、投票用紙は投票されている立候補者ごとに仕分けされる。Spelthorneでは、9名の立候補者がいたが、この段階の仕分けでは、保守党、労働党、自民党、UK Independent党、その他の5種類に仕分けされる。
⑨その後、「その他」を残り5名の立候補者ごとに仕分ける。
⑩立候補者ごとに得票数の数え上げを行う。投票用紙を20枚ずつ束にし、丸めて特殊な箱に立てていく。
⑪得票数カウント用の特殊な箱は、5×10に仕切られている箱であり、その一マスずつに20枚の束を立てていく。したがって、箱が束でいっぱいになれば1000票の得票ということになる。
⑫⑧の過程で無効票になる可能性がある投票用紙は、審査用の箱に移され、審査係が判断を行う。
⑬⑫審査の過程においては、立候補者にその場で問い合わせて有効票とみなしたり、無効票とみなしたりする場合もありうる。
⑭全ての作業終了後、ステージ上に全立候補者と自治体選挙総括責任者が上がり、自治体選挙総括責任者が開票結果を読み上げる。その後当選者が抱負を述べて一連の開票作業は終了する。
⑮投票用紙は一年間保存することが義務付けられているため、開票作業終了後に投票用紙は市役所内に一年間保存されることとなる。今回訪問した自治体では、ゴミ箱と同形の入れ物に収納し、封をして保管するとのことであった。
⑯立候補者は開票作業に疑義がある場合は、再度の開票作業を要求することができるが、その訴えが必ずしも認められるとは限らない。
⑰供託金返金のためには有効投票数の5%の得票が必要であるが、5%にわずかに満たなかった落選者が再開票を要求することがある。再開票作業はあくまでも当選者に影響がでる場合に実施される制度であり、このような事例では再開票は実施されない。
⑱郵便投票も同開票所に持ち込まれ、他の投票用紙と同様に開票が行われる。
【その他】
・Spelthorneは今回地方議会選挙がなく、かつ市域と下院議員選挙区が完全に一致しているため、選挙事務を行うには最も容易な地域であった。自治体の中には、地方議会選挙や住民投票を同時に実施するところ、一つの自治体が複数の選挙区に分割されているところ等もあり、そのような自治体においては選挙事務がより複雑となる。
・伝統的に平日が投票日であり、開票も即日行うことが慣例となっているため、複数の選挙を一斉に行う自治体では開票作業に多くの時間と労力を費やすことになる。自治体によっては結果の急がれる下院議員選挙の開票を先に実施し、そのほかの選挙の開票作業を翌日以降に回すなどして対応しているところもあるという。
2010年05月10日
スピーカーシリーズ「Think Londonの活動と今後の対英投資促進について」
1 テーマ:「Think Londonの活動と今後の対英投資促進について」
2 日時:2010年4月28日(水)14:00~15:30
3 講師:Think London 中村 光宏様
概要は下記のとおりです。
<Think Londonについて>
・Think Londonは海外直接投資を支援するロンドン市公認の非営利組織で、公共及び民間の両方から出資を受けた、日本の第三セクター的な存在である。ロンドン開発公社(London Development Agency)から委託を受け、ロンドンに進出する海外の企業、及び既にロンドンに進出済みで業務拡大を検討中の企業に対し、分野を問わず無償で支援を行っている。クライアントには、世界40カ国1500社以上の企業にサービスを提供した実績があり、世界的に有名な大企業も数多く含まれている。
・会計事務所、銀行、保険会社、ITサービスなど数多くのパートナーと連携関係を築き、日本語が通じる不動産業者を紹介してほしい、といった特殊な要望にも応えることが可能な体制を構築している。
・世界のエリアごとにチームを設けており、中村氏はアジア・太平洋チームに所属する日本企業専属の担当である。60名のスタッフを抱えるロンドンオフィスの他に、ニューヨーク、北京、サンフランシスコなどにもオフィスを構えている。
<海外直接投資の重要性>
ロンドンにおける海外直接投資は520億ポンドにのぼり、これはロンドン経済の27%を占め、ロンドン全体の13%に当たる50万人の雇用を創出している。また1998年から2004年のロンドンにおける経済成長のうち、42%は外資企業により創出されており、ロンドンの経済成長を支える大きな要因の一つとなっている。
<ロンドンの優位性>
2009年に行われた調査によると、ロンドンは20年連続ヨーロッパで最もビジネスを展開しやすい都市に選ばれている。これは、ヨーロッパの他都市へのアクセスが容易であること、人材が豊富であること、通信が整備されていることなどが理由である。また、国際線のフライトが充実していること、約5億人の人口を擁し世界最大の市場であるEUの玄関口であること、規制が少なく海外の企業を受け入れやすいことも利点である。
<Think Londonの活動>
・公共機関と連携した、企業の進出情報の入手。具体的な段階ではないが海外進出を検討している日本企業に対するセールス。
・ロンドンの市場調査や他都市との比較を踏まえた情報提供。
・レセプションを通したネットワーク作りの支援。
・ビザ取得や住宅など駐在員の生活面における一般的な情報提供。
・事業展開に向けた活動を行う企業向けに、都心(シティ、メイフェア、ハマースミス)で事務所スペースを最大12カ月無償貸出。
<進出企業の傾向>
・業種ではICTが非常に多い。新規進出は比較的小さい企業の進出が多いため、雇用者数の増は既存企業の事業拡大による部分が大きい。
・アメリカからの進出が非常に多い。また、インド・中国が増加傾向である。日本は成熟している感じはあるが、今年1月から問い合わせが増加している。
・不況で中心部と郊外の価格差が縮小したため、ロンドン中心部への進出が増加している。今後は、東ロンドンへの誘致に尽力したい。