活動記録
2010年03月26日
E-Government in Camden
日時 2010年1月22日(金)15:00~17:00
応対 Head of Information systems and development Alasdair Mangham氏
【カムデン区の概要】
・カムデン区は33あるロンドン区の1つで、ウエストミンスター区の北東、シティ区の北西に位置する、ロンドン中心部に位置する区である。
・人口は約20万人で区内の学校では105の言語が話されており、いわば「世界の縮図」のような区である。
・区内の選挙区のいくつかは富裕層の多い選挙区トップ10(イングランド)に入っている。
・英国監査委員会による包括的地域評価では4スタープラスという全国一の評価を受けている自治体である。
・区が住民や企業に対して行っている公共サービスは約570種類に及ぶ。区が実施していない公共サービスは、医療、警察、バスが通る道路の維持修繕(これらの道路はGLAが管轄している)である。
・区議会は54人の議員からなり、議会は年7回開催される。毎年5月には区長及びその他内閣のメンバーが任命される。現在、最大会派の自由民主党は過半数に満たないことから、自由民主党と保守党の連立により区が運営されている。
・内閣は区長と9人を上限とする他の区議会議員で構成され、上述のとおり区議会からの任命を受けて内閣の構成員となる。内閣のメンバーはそれぞれ区の行政分野の一部を担当分野として受け持つ。また内閣による決定事項は事前にフォーワード・プランとして公表される。
・カムデン区には現在、以下5つの政策評価委員会があり、1)区の政策やサービス提供について監査する、2)内閣の決定事項で未実施のものについて決定内容が適切かどうかを監査する、3)特に必要のある行政分野について業績の管理を行うために年7回の委員会が開催されている。
・子供・学校・家族政策担当
・文化・環境担当
・保健担当
・住宅・社会福祉担当
・内部管理担当
【国の電子政府・自治体政策】
・2000年3月、英国政府は地方自治体が実施するサービスの全てを2005年12月までにオンライン化するとの政策を発表し、この目標を達成するための呼び水としての予算を確保した。この予算は大きく分けて以下3つに大別される。予算は内閣府予算として確保され、内閣府に良い政策として認められた自治体の政策に対して中央政府からの補助金が与えられる仕組みとされた。
・試験的プロジェクト用予算(2001年から2002年実施)
・国家プロジェクト用予算(2003年から2004年実施)
・改革・刷新用予算(2004年から2005年実施)
・地方自治体は、「E-Government実施に係る政府方針」に基づき、以下のシステムを整備することとなった。
・コンテンツ管理システム
・消費者管理システム
・オンライン予約システム
・都市計画、免許取得、駐車許可等に係る申請システム
・また、「E-Government実施に係る政府方針ガイドライン」は、システムを整備する際に満たすべき点について言及しており、例えば相互に情報交換可能なシステムを構築することなどがあげられている。
・地方自治体の業績を測る制度としてベスト・バリュー制度という制度があり、157の指標が設けられているが、それら指標の中には、住民に提供するサービスに係る自治体のウェブサイトや、それに関連する申請様式、支払いシステム等に着目した指標もある。
・2005年に一旦終了した中央政府主導のE-Governmentプロジェクトにより、地方自治体には様々な影響があった。まず、政治的にE-Governmentの必要性が認知されたということがある。一方、中央政府の呼び水的予算は小規模な自治体に対する政策誘導効果はあったが、大規模自治体への政策誘導効果は小さかった。さらに、プロジェクト終了とともに中央政府からの補助金も終了してしまったことから、プロジェクト期間中に成功を収めた自治体の政策は数多くあったが、補助金の終了によりそれらも終了してしまった。ただし、変革の重要性への理解は進んだことから、このプロジェクトを元に民間ベンダーが開発したシステムを、自治体が購入して利用するような動きも進んだ。自治体にとっては、政府の補助金よりも、ベスト・バリュー制度のE-Government関連指標でよい評価を得ることの方がE-Government政策を推進するインセンティブとなった。また、政府方針の中には全自治体が満たすべき基準が定められていたが、それにより自治体共通のシステムが構築されることはなく、いまだに自治体のシステムは共通化、統一化されておらずシステム調達も個々に行っている。
【電子政府・自治体政策を考える上で知っておきたい重要な5つのポイント】
・第一は、効率的なサービスと効果的なサービスの違いを理解し、どちらを目指すのかを明確にすることである。「効率的」「効果的」という言葉は同時に用いられることが多いが、公共サービスを考える上ではこれらは二律背反の概念である。「効率的」というのは例えばマクドナルドのように提供するサービスを限定し、提供方法を完全にマニュアル化してサービス提供にかかる時間や費用を最小限に抑えることである。一方「効果的」とは、たとえば高級レストラン「ゴードン・ラムジー」のように、サービス提供を受ける者がそのサービスから最大の利益を得られるようなサービス内容や提供方法を考案することであり、「効果的」を最大限追及すればサービス享受者それぞれのニーズに個別に対応するサービスを提供することになる。したがって「効果的」なサービスのためにはその提供方法等はマニュアル化することはできず、また規模の経済も働かないことから、効率性を追及することは困難となる。
・第二は、インターネットはそれ自体がサービスを分散に向かわせる技術だが、政府のサービスは、変革を行って初めて分散的にできるということである。E-businessとの違いをよく理解したうえで、E-Government政策を推進する必要がある。E-Businessは、競争上の優位性を求める、既存の流通網に分裂的な変化を与える、新たな需要を生み出す、変化に対して迅速に対応できる、という特徴がある。一方E-Governmentでは、提供するサービスは独占的であり、サービス流通網の全てを制御でき、需要を規制することができるという特徴を持っている。官僚機構の永続的な業務を基にしたシステムであるため、E-Businessとは大きな違いがあり、E-Businessの手法をE-Governmentに直接当てはめることは難しい。
・第三は、E-Governmentを構築するために、どのモデルを使うのかということである。E-Governmentを構築する際に、1)供給主体型、2)需要主体型、3)設計主体型のどれを選択するのかにより、政策リスクが異なってくる。1)供給主体型では、E-Governmentの枠組みを政府側主導で構築し、出来上がった枠組みは国民に自ずと利用される、という考え方になるが、この場合、多くの利用されないE-Governmentサービスが発生するリスクが考えられる。2)需要主体型を選択した場合は、利用者が望んでいることを把握する必要があるが、利用者に当たる利害関係者(一般市民、職員、政治家、中央省庁、他の公共部門)があまりに多く複雑で、彼らの要求に優先順位をつけることが難しいというリスクが生じる。3)設計主体型においては、オンラインサービスの向上のために消費者(利用者)分析の手法を用いることになる。しかしこの場合は、利用者である住民に合ったオンラインサービスが、職員が望むサービスとは異なるというリスクがあり、また消費者分析手法について卓越した知識が必要となる。
・第四は、情報技術というのは、単なるプログラミング言語の理解というだけのものではないということである。E-Governmentに係る技術の市場構造というものを理解しておく必要がある。ある特定の技術を取り上げた場合、当該技術の規格が確立するまでの初期段階においてはイノベーションの繰り返し等により市場への参入企業数は急増する。その後当該技術について規格が出来上がると、次は生産プロセスや価格に関する企業間競争が起こり、その結果企業の淘汰が進んで市場の企業数は減少することとなる。
・第五は、将来の予想について、決して特定の前提を置いて考えてはいけないということである。将来を見越した設計として鍵となるポイントは以下の5つの点である。1)組織・業務管理手法の変革(インターネットがすべての手続をさらけ出してしまうので、役所の内部業務をE-Governmentに合わせて改革しなければならなくなる)、2)知識管理(E-Government技術・知識のデータベース化や、熟練した人材の流出を防ぎ、また一方では適切な人材を担当として配属するなど)、3)オープン・スタンダード(標準的技術の採用。これは必ずしも「オープン・ソース」、すなわち技術情報がすべて公開されているものと同じ意味ではない)、4)データ管理(取得情報、保有情報の同一性、互換性を担保すること)、5)システムの相互操作・相互利用可能性(異なるシステム間で、共通のデータソースを参照できるようにすること)
・E-Governmentサービス設計における基本原則は以下5点である。1)利用者の状況をよく把握していること(ほとんどの市民は必ずしも足しげく役所に来るわけではないので、本当に市民ニーズを理解するのは実は難しい)、2)利用者が今現在、そのサービスをどのように利用しているか、また市場における他の似通ったサービス、商品をどのように利用しているかについて把握していること、3)データ分析結果を設計に反映させていること、4)繰り返し(常時)改善が図られているシステムであること(少しずつ改善を加えていくことが重要である)、5)業務の目的が達成されるシステムであること。
【カムデン区の電子自治体政策】
・カムデン区では、利用者の状況を把握するために以下のような方法を用いている。まず、社会的データ図表として、区の地図上に個人の所得額情報や人口情報を複層的に重ねたデータを利用している。また、オンラインの利用者調査、グーグルを用いたウェブサイト分析も利用している。
・カムデン区の住民は、所得等に応じて3つのグループに分けられる。人口の40%を占めるのが「アーバン・インテリジェンス」グループで、このグループは、若い世代で未婚、多くは中級レベル以上の学歴をもつ者から構成され、都会の生活を好み、リベラルな思想をもつ傾向にある。次に人口の30%を占めるのが「シンボル・オブ・サクセス」グループ。このグループに属する住民は、高収入が得られる職に就き、奢侈品や高額高品質な商品を購入できる。最後に人口の26%を占めるのが「ウエルフェア・ボーダーライン」グループで、文字通り生活保護を受けるボーダーライン前後の所得の住民がこのグループに入る。彼らの多くは区から住宅や手当の支給を受けている。
・より詳細に上記3グループの特徴を見ていくこととする。まず「アーバン・インテリジェンス」グループは、若くて未婚、子供なし、中級以上の教育を受けている、学生であったり知的専門職についている者、広い視野をもち、都会の生活を好む、良い食事をして健康状態も良好、文化的な嗜好は多様という特徴を持つ。そしてどのような媒体から情報を得ているかという点については、インターネット、リーフレット、ポスター、ダイレクトメール、電話、居住地域の店、雑誌を多く利用しており、ほとんど新聞を利用していないという特徴がある。
・次に「シンボル・オブ・サクセス」グループは、中年齢層、(主に仕事において)成功している、高収入が得られる職に就いている、裕福、様々な選択肢から住宅を選べるだけの経済的余裕がある、良い食事をしている、毎日飲酒をする、環境への関心が高いという特徴がある。情報媒体については、新聞を利用する、雑誌をよく読む、電話、インターネットを利用するが、テレビ、ポスター、テレマーケティングをあまり利用しない傾向にある。
・「ウエルフェア・ボーダーライン」グループは、家族単位の所帯で、多くの子どもがこのグループに含まれる。低所得のため無料の給食を支給され、また公営住宅に入居している所帯が多い。生活必需品に事欠くことも多い。公共交通機関を利用、テレビを非常によく見る、大酒飲み、ヘビースモーカーが多く存在する。情報媒体については、テレビの通信販売番組、リーフレット、ポスター、ダイレクトメール、大衆紙をよく利用し、インターネット、雑誌、大衆紙以外の新聞をあまり利用しない。
・次に、これら3つのグループと区が提供する公共サービスの利用との関係を見ることにする。リサイクル、公園、駐車場、娯楽施設、都市計画に関するサービスは、「シンボル・オブ・サクセス」グループに多く利用され、図書館、住宅手当、初等中等教育、保育所は「ウエルフェア・ボーダーライン」グループが主に利用している。「アーバン・インテリジェンス」グループは、どのサービスについても他2つのグループの中間程度の利用度合となっているが、成人向け社会福祉サービスの利用は最も多くなっている。
・これらの属性から「ウエルフェア・ボーダーライン」によく利用されるサービスは紙ベースの広報がなじみ、「アーバン・インテリジェンス」はインターネット、「シンボル・オブ・サクセス」は新聞・雑誌が効果的であることがわかる。
・カムデン区ウェブサイトの改善のために、各ページのアクセス件数等を自動的に記録して分析をしてくれるグーグルの無料サービスを利用している。
・データ分析から、カムデン区サイトの利用者は女性の方が多いことや、65歳~75歳の年齢層が予想以上に利用していることなどもわかった。
・カムデン区の電子自治体サービスにおける課題等として、1)住民と行政サービスを結ぶチャンネルの移行(住民への窓口対応は1回£10かかるが、オンラインであれば2ペンス未満)、2)業務効率化(区内部の業務を効率化させる必要がある)、3)多く利用されているオンラインサービスは娯楽施設関連、駐車場関連、都市計画関連、4)オンラインで提供するサービスは速度と手間がかからないこと、という2点がポイントとなる。
・カムデン区の「オンライン業務を改善するための手引き」は以下のとおり。
「オンライン業務を改善するための手引き」
1)計画、目標設定、必要事項
―民間企業の中から先導役、コンテンツ提供者を見つける
―業務目標を設定する
―業務目標を達成するために実施しなければいけないことをグーグル分析等を用いることにより洗い出す
―民間企業、コンテンツ提供者への研修を行うため打合せを開始する
―オンライン以外の情報提供媒体の利用状況について分析する(窓口での対人対応、電話、電子メール)
2)区ホームページ担当部局とのオンラインサービス構築
―利用者志向をアンケート調査等を通じて把握する
―利用者のオンラインの利用の仕方を把握する
―利用者の目的を達成するために実施しなければいけないことを洗い出す
―他の組織(他の区、民間企業等)からモデルを見つける
―利用者目的達成のための必要事項、利用者の利用の仕方、モデル全体から得られたものを総合して、新たに実施すべき業務を洗い出す
―システム(意思決定ツリー、電子申請フォーマット、システム統合等を含む)を利用した解決方法を設計する
―ホームページ担当部局が取り組むべき業務パッケージを作成する
3)政策実施及び効果測定
―設計、利用しやすさの向上、グーグル分析等を含むオンラインサービス改善策の開発のため、ホームページ担当部局と協働する
―試験利用を行う
―新たな機能が必要となった場合には、そのためのプロセスを計画する
―ホームページ担当部局と上記事項に関する利用者テストを実施する
―1ヶ月間のABテスト(同一目的で異なるデザインのウェブページを2種類用意し、使いやすさを対比実験する手法)を開始する
―ABテストの結果を評価する
―上記結果を踏まえた改善を行う
―最終的なシステムを構築する
―サービス利用を開始する
―1ヶ月間の効果測定を実施する
―サービス目標に関しての最終的な報告書の作成及び担当課長への月例報告を行う