活動記録
2009年10月28日
スピーカーシリーズ「Business Improvement Districts, a flexible machanism for urban management」
1 テーマ
「Business Improvement Districts, a flexible machanism for urban management」
2日時及び会場
2009年10月28日(水)14:00~15:30
自治体国際化協会ロンドン事務所会議室
3 講師:Chief Executive, Better Bankside Peter Williams様
【はじめに】
・今日の話は主に以下三点について。1)都市のマネジメント、2)BIDSの概要、3)Better Banksideの取組。
・初めに世界の都市化の状況について見てみたい。世界中で都市化は進行しており、2030年までに世界の都市人口は50億人になると見込まれている。この50億人という数字は、1987年における全世界人口に匹敵する。これは毎日18万人が都市へ移動していることになり、この数字は衝撃的な数字である。ロンドンの人口は、100万人から800万人になるのに130年かかったが、新興都市のバンコク、ダッカ等では、より短期間で人口増加が起こっている。
・次に、このような都市のマネジメントは誰の役目なのかということを考えてみたい。ここ20年、30年間で、より多くの民間部門が都市の開発やマネジメントに携わるようになっている。都市マネジメントの特徴の一つとして土地所有の問題から交通の問題までありとあらゆる問題が関わってくるので複雑だという点がまずあげられる。階層構造の組織ではこの複雑な課題に対処することは困難で、パートナーシップ等の水平的な関係がより重要になってきている。また、マネジメントを行う上では、地理学者、社会学者、経済学者の専門的な視点も必要となる。
・次に、都市の公的空間を実際にコントロールしているのは誰なのかということについて見ることにする。モスクワにとても大きなホテルがある。室数は3200、スイートは245あるが、同時にこのホテルの建物の中には警察署、ジム、ナイトクラブ、映画館、美容室、コンサートホール、レストランも同居しており、一つの建物の中にとても多くの施設がある。これはまるでタウンセンターのようで、今後の都市のかたちを考える上でモデルとなりうる。
【BIDsの概要】
・そもそもBIDsは、北アメリカで考案されたシステムであり、カナダで初めて導入されたと言われている。アメリカでの例としては、ニューヨークのジュリアーニ市長が、石油会社のエクソンの支援を受けて窓を取り替えたりすることで、汚い駅で有名だったグラウンド・センター駅を生まれ変わらせ、ニューヨークのダウンタウン地区の再生に取り組んだという例がある。
・イギリスの場合は、企業がよりボランティア的に取組を行うという点が特徴となっている。
・BIDsの特徴は、まず明確にその地区を地図上で決めるということにある。Better Banksideの場合は、ロンドンのサザーク地区の極めて限られた狭い地域をBIDs地区として定めている。
・次に、BIDsでは、当該地区に位置している全ての企業から、不動産評価額に応じたBID特別税を徴収している。テナントが入っていない不動産やチャリティー団体にはBID特別税の軽減措置がある。また、税の徴収事務は、BID運営体に代わって地方自治体が行っている。
・BIDsの意思決定はBID特別税を支払っている事業主の代表で構成される理事会でなされ、BIDの運営体は、BIDsの活動についてメンバーである企業に対して積極的に情報提供することが主要な業務の一つとなっている。
・BIDsの組織構造は、上記理事会の下に担当業務ごとにCleaning、CSR、Finance等の部局(thin group)が設けられている。
・不動産評価額に応じたBID特別税の支払い義務者は、当該不動産所有者ではなく、当該不動産占有者(事業主)となっている。この点はアメリカと異なっており、アメリカでは不動産所有者が支払い義務者である。これについては、不動産所有者がBIDsの活動により貢献すべきではないかとの議論がある。この議論に関して、政府はよりよいBIDsの枠組みを現在検討中であるが、スコットランドでは不動産所有者にも負担を求める仕組みが既に導入されている。
・ロンドンには現在、検討中のものも含めて非常に多くのBIDsがある。ロンドンの中心部のBIDsの一つとしてレスター・スクエア地区があるが、ここでは地区内の土地の所有者等利害関係者が多く、これらを結びつけて一つのBIDsとして長期計画を作成することは容易ではない。
・以前にケープタウンでBIDsに似たパートナーシップ活動を視察したことがある。活動としては似ているが、活動が始められた理由は異なっており、ここでは社会の安全性を向上させることが最大の理由となっている。例えば、駐車場にスタッフを雇って顧客の安全性を確保する等の活動が行われている。
・また別の事例として、フィラデルフィアの事例がある。個人的にはここの活動はとてもすばらしいモデルだと考えている。ここでは、BIDsの財源として債券が発行されており、しかもその格付けは地方自治体の債券よりも高い評価となっている。また、BIDsの政策を実施する期間も20年へ延長されている。
【Better Banksideの取組】
・次に、Better Banksideの活動を紹介する。まず、BIDsについての基本的な考え方だが、住民は選挙によって自分たちの居住区から代表者(政治家)を選出して自分たちの意見を反映させることができるが、当該地区の企業は選挙権をもたないので、企業の意見を反映させることは難しい。このような異なる声を代表する組織、仕組みの一つとしてBIDsがある。
・Better Banksideのロゴマークはとても鮮やかなピンクを使用しているが、これは、とても目立つ色を使用することで我々の取組を住民、企業にわかりやすくするためである。
・Better Banksideの活動の一つに、独自の清掃業務がある。地方自治体も路上の清掃業務は行っているが、Better Banksideの地区は多くの人が住む居住地区であることから自治体の清掃が行われない時間帯に清掃を行い、同地区の環境美化に努めることは重要と考えている。Better Banksideでは交通機関に関する取組も実施している。地区内の人々の動きと交通機関の利用状況を調べ、よりよい交通のあり方を検討している。徒歩と自転車の利用を重視しており、移動ルートに関する特別な契約に合意すれば、地区内の企業に自転車を貸し出し、毎月メンテナンスも行うという取組を行っている。
・その他にも、地区内で多くのイベントを実施している。例えば、マラソン大会や、冬まつりなどがある。加えて、地区内の公園を改善し、ベンチを設置してランチや午後のコーヒーを楽しむのに最適な場所へと生まれ変わらせるという取組も行った。同様に、地区内にはバラ・マーケットという食品を中心にした有名なマーケットがあるが、このマーケットにもBetter Banksideが300の椅子を設置し、マーケットで買った食べ物をその場で楽しめるようにした。また別の活動としてリサイクル活動がある。地区内には非常に多くの種類の企業があり、これら企業から出されるゴミも多種多様である。Better Banksideでは、これらのゴミを無料で引き受けてリサイクルする取組を実施している。
・CSRとして、ボランティアをアレンジする取組も行っている。Better Bankside地区の企業の職員で、ボランティア活動を希望する職員がいた場合、その希望に応じたボランティア先を見つけるという取組である。学校での子供への本の読み聞かせから路上清掃まで、様々なボランティア活動を紹介している。
・これらBetter Banksideの活動をさらに発展させるために、地区内の企業が、月に一回、Better Banksideの活動について意見を提出する仕組みを設けている。騒音へのクレーム等、企業の意見をリスト化して提出できるようになっている。
・最後に、BIDsの取組を森に例えた話をしたい。BIDs地区に木がなければならないとかいう話ではなく、BIDsというのは様々な関係者の利害を一つに纏め上げることが必要な活動であり、その複雑さは森に似ている。現在の激しい市場変化に対応し、かつロンドンにおける商業地区として魅力のある地区になるためには、BIDsとしていかに柔軟な活動ができるかという点がポイントとなる。そのためには地区内の企業等利害関係者が有機的に連携し、自然なかたち、人々の生活に優しいかたちで発展していくことが必要だと考えている。