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2009年07月15日


スピーカーシリーズ「Knowledge Transfer:英国の大学の企業・社会との関わり方」

1 テーマ:「Knowledge Transfer:英国の大学の企業・社会との関わり方」
2 日時及び会場:2009年7月15日(水)14:00~15:30 (財)自治体国際化協会ロンドン事務所会議室
3 講師:グラスゴー大学リサーチ&エンタープライズ、International Business Liaison Manager 戸田有信 様

ご講演要旨

【はじめに】
・現在の職に就くきっかけとなったのはジャーナリストを経てエチオピアで開発支援に携わったことをきっかけに、開発経済学を学ぶためにグラスゴー大学大学院の学生となったことが始まりである。
・グラスゴーに来て一番驚いたことは、グラスゴーの学生の多くが、アジアについて何も知らないということで、中には香港とシンガポールは同じだと言い張る学生もいたくらいである。グラスゴーとアジアをつなぐような仕事ができないかと考えながら、グラスゴー大学において産学連携に取り組んでいる。
・現在の部署は、大学と企業、社会をつなげるところであり、Development Managerという肩書きになっている者は外部から集めてくる研究資金の額についてノルマが課せられている。Liaison Managerにはノルマは課せられていないが、担当している国と大学との関係を構築して、ビジネスが生まれる可能性を模索することが役割である。
・日本人のLiaison Managerとして、幅広く産学連携を考え、他の職員がしないことをすることが、自分の役割だと思っている。

【グラスゴー大学の概要】
・グラスゴー大学は1451年に創立され、スコットランドで2番目に古い総合大学となっている。文系では、文学部、法・ビジネス・社会科学部、教育学部、理工系では、物理学部、工学部、情報・数学学部、生命科学系では生物医学・生命科学学部、医学部、獣医学部がある。
・学生数は約2万人で、職員数は約6,000人である。グラスゴー市の人口は約60万人だが、その中でグラスゴー大学は市役所に次ぐ大きな雇用主となっており、大学が地域経済に対して果たしている役割は大きい。
・グラスゴー大学の著名な卒業生に、アダム・スミス、ウィリアム・トムソン(ケルビン卿)がいる。これまで大学はこれらの著名な卒業生をうまく利用できていなかったが、大学の奨学金の名称を「スミス・ケルビン・スカラシップ」に変えたところ、奨学金への応募者が増加しただけでなく、応募者の質も上がってきている。

【Friendship beyond Boundaries】
・エディンバラにForth Rail Bridgeという橋があるが、この建築に渡辺嘉一氏という日本人が大きく関わっている。当時、大きな鉄橋事故があったために、人々の間には鉄橋を作ることに抵抗があったが、渡辺氏ら建築技術者は、橋の模型を作り、橋の安全性を人々にわかりやすく示した。1887年のことである。その時の写真は、スコットランドではよく知られている。
・日英友好150周年を祝うJapan-UK150の一環として、今年、Friendship beyond Boundariesというイベントを開催したが、このときにForth Rail Bridgeの模型を再現して記念撮影をした。渡辺氏は、日本の工部大学校(今の東京大学工学部)を出た後、グラスゴー大学土木工学科を卒業しており、日本とグラスゴー大学・スコットランドとの交流を象徴する人だからである。
・このイベントそれ自体は、大学に収益をもたらすものではないが、他国との交流を深めることは、大学が社会的使命を果たしていく上で、また将来、ビジネス構築の可能性を探る上でも大事いうことで、大学は広くこうしたイベントの開催を認めている。学長が主宰した同イベントのオープニングは、海老原紳英国大使、菅沼健一エディンバラ総領事に出席していただいた。

【Knowledge Transfer】
・産学連携というと、日本では、特許に基づくライセンス契約等のTechnology Transfer に焦点が当てられているように思われるが、グラスゴー大学はじめ英国の多くの大学では、Knowledge Transfer、Knowledge Exchange という幅広い概念としてとらえられており、それによって上記イベントのような開催も認められている。

【グラスゴー大学の収支】
・大学の収支について具体的な金額等は以下の表のとおりとなっている。
・大学の収入で最も多いのは学生数から算出されて割り当てられるスコットランド政府からの補助金(funding body grants)で、つまり元を正せば税金ということになる。
・スコットランド国民党が学費を全廃したため、スコットランドの住民がスコットランド内の大学に通うのは無料となっている。
・Research grants and contractsのうち、Research grantsは国からの補助金、つまり税金を財源としたものであり、大学はその収入源の大半が税金であることから、社会に貢献しようという意識が高い。
・大学の研究のうち、特許をとって商業化できるものは全体の5%くらいしかなく、金銭的な観点から産学連携活動をこれに特化すれば残りの95%の研究はなおざりにされることになり、それでは大学の社会的責任を果たせないと考えている。つまり、外部からの資金獲得ばかりを念頭に大学が産学連携を進めることは、大学の社会的使命を果たす上で妥当でないとされている。
収入                          £M
Funding body grants               149.6
Tuition fees and education contracts         66.4
Research grants and contracts           116.9
Other income                   54.7
Endowment and investment income      9.4
Total income                  397.0

支出
Staff costs 220.7
Other operating expenses 153.3
Depreciation 16.1
Total expenditure 390.1

【グラスゴー大学リサーチ&エンタープライズの組織】
・グラスゴー大学リサーチ&エンタープライズには、部局として以下のような組織がある。
○Operations
○Grants
○Contracts
○BD
○Commercialisation
○Marketing
・「Grants」という部局は、外部からの研究資金を管理する部局で、大学の研究者が外部資金の申請をする場合には、全てこの部局の審査を受けることになっている。これにより「Grants」は大学全体として適切な戦略の下で外部資金の導入を行うことができる。
・「Contracts」は、外部との契約関係を管理している。外部との契約は、すべてこの部局を通すことになっており、契約条件全てが審査され、大学にメリットが認められる契約のみが許可される。
・大学の社会的使命としては、「知の創出」、発表及び教育というかたちでの「知の普及」ということがあり、Knowledge Transferは、この「知の普及」の一形態と考えている。

【グラスゴー大学の産学連携活動】
・グラスゴー大学の産学連携活動として、以下のような活動を行っている。
○地域の経済開発
○ネットワーキング・イベント
○学生の企業
○研究(共同研究、委託研究)
○コンサルティング
○ライセンス
○大学発ベンチャー企業(spin-outs)
・地域の経済開発ということに関しては、先日、Japan Dayを開催した。これは、日本進出を考えている現地の中小企業に参加してもらって、日本進出を手助けしようというイベントである。実際にいくつか企業が見つかったので、現在は具体的な支援策を進めているところである。
・Japan Dayのような活動は、大学にとってメリットのある活動ではない。しかしスコットランドに雇用を生み出す可能性があり、大学の地域社会に対する貢献活動として評価されている。
・グラスゴー大学では、学生の起業を支援する活動も行っている。学生の特許はあくまでも学生のものであり、それをもとにした起業を支援しても大学にとってはメリットはないが、これもスコットランド経済への貢献活動として位置づけ、専門スタッフ2名を置いているところである。
・コンサルティング活動については、日本では研究者個人個人が独自に行っているようだが、グラスゴー大学では、コンサルティングについてもしっかりとした戦略の下で行うことになっており、担当部局に全てを報告することになっている。
・大学は、スコットランで一番古い博物館ももっていて、これはロンドン等の大きな博物館を見に行くことができない人たちに対して大きな役割を果たしており、これも大学の社会貢献の一つと言える。
・グラスゴー大学では「欧日対話」という講演会を定期的に開催しており、日本大使館の方や日系企業の方に講演をしてもらっている。昨年は、東芝の方に東芝のR&Dについて講演をしてもらったが、これをきっかけにグラスゴー大学の研究者と東芝とをつなぐ良い機会となった。

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