活動記録
2009年06月24日
スピーカーシリーズ「地域経済振興のために果たしている地方自治体の役割についての国際比較」
1 テーマ
地域経済振興のために果たしている地方自治体の役割についての国際比較
2 日時及び会場
平成21(2009)年6月24日(水) 14時00分~15時30分(質疑を含む)
(財)自治体国際化協会ロンドン事務所会議室
3 講師
コミュニティー・地方自治省 ジェニファー・アシュビー様
講演要旨
【ノーフォーク・チャリタブル・トラストについて】
・ノーフォーク・チャリタブル・トラストは独立した非政府組織で、経済発展への貢献を目的とし、主に英国内とEU地域で活動を行っている。
・ノーフォーク・チャリタブル・トラストでは毎年テーマを決めて活動をしているが、2008年は地方自治体と地域経済との関連性に着目し、「ノーフォーク・フェローシップ・プログラムツアー」で世界の6都市を対象に地方自治体の役割について現地で調査を実施した。
【ノーフォーク・フェローシップ・プログラムツアーについて】
・2008年に当該ツアーを実施したころは、ちょうど景気後退の影響が出始めたころであった。
・現在の変化の速い環境では、活力を保ち変化に対応できることが地域経済にとって重要である。この困難な時代にあっては、かつてないほど地域経済の効率的な運営、支援が必要となっている。この状況で地方自治体は地域経済や地域社会の安定化のため効果的な施策を実施する必要がある。
・地域経済の活性化のために重要な要素は何かという問題意識を持ち、3つの要素を抽出した。この3つの要素とは、①公的部門(地方自治体等)、②民間商業部門(企業等)、③地域社会部門(NGO、住民グループなど)である。
・3つの要素のバランスが取れていれば、地域経済の持続的な成長が見込まれる。
・これら3つの要素のうちのいずれが弱いか、あるいはバランスが取れているか、という観点から世界の6都市で調査を実施した。
・グダンスク市(ポーランド)は中世の街並みが残る歴史ある都市で、造船業が中心産業である。地域経済に最も影響力を持っているのは地方自治体で、国外からのビジネスを積極的に呼び込んでいる。また外国企業からの投資も多く、民間商業部門も力強い。一方で共産主義体制崩壊後の地域社会部門は弱く、この部門への投資が持続的な成長への鍵になるだろう。また他都市につながる交通網の整備も課題となっている。
・ポートランド市(アメリカ)は穀物、材木を搬出する港として栄えた都市である。今回調査を実施した都市の中では3要素のバランスが最も良く、実際に地域経済も好調である。近隣住民の集会やネットワークが発達しており、地域社会部門が最も力強い。住民と地方自治体が政策について議論する場も機能している。また地方自治体の規制によってスプロール化が妨げられ、秩序ある開発が行われている。一方で大企業の進出を快く思わないこの地域の風潮もあり、民間商業部門はやや力強さに欠けている。
・クリアカン市(メキシコ)は農業が中心の都市だが、麻薬取引のルートとなっており治安対策が大きな課題である。3要素のバランスとしては民間商業部門の影響力が突出している。市長は3年しか勤められないルールで、市長とともに市の職員も一般職レベルまで大幅に入れ替わるため、公的部門は政策を継続的に実施できない。地域住民の地域経済への関与もほとんどない状態である。
・コインバトール市(インド)は繊維産業が中心の都市である。地域のNGOのネットワークが発達しており、地域社会部門が強い影響力を持っている。これらのNGO団体は地域の特性をよく理解しており、地域経済にとって良い影響を及ぼしている。一方で地方自治体は地域経済のためのサービスをほとんど提供できていない。
・ハイフォン市(ベトナム)は中央政府からの統制が強いが、都市として成功し始めている。現時点では中央政府、地方自治体の影響力が非常に強いが、自由な市場経済も取り入れ始めている。住民の起業精神も旺盛で、現時点では弱い地域社会部門が今後改善される可能性もある。
・四日市市(日本)では化学工業が主要な産業で、地方自治体のリーダーシップで公害を克服し、工業都市として発展を遂げた。民間商業部門も力強いが、地方自治体を始めとする公的部門も地域経済発展の原動力となっている。また今後の更なる発展のための革新戦略に焦点が当てられている。地域社会部門で多くの団体が活発に活動しているというわけではないが、文化的に個人主義が強くないこともあり、地域社会には一定のまとまりがある。
【ノーフォーク・フェローシップ・プログラムツアーで得た成果】
・以上の調査から学んだ英国の地方自治体で実践すべきことは次の5点である。
①経済全体を見渡すこと
②地方自治体が介入すべき適切な時期を知ること
③地域の特性を重視すること
④革新と創造が生まれる土壌を培うこと
⑤地方自治体は、民間商業部門と地域社会部門、そして自らの三者をつなぐまとめ 役として機能すること
・「①経済全体を見渡すこと」の具体的な内容は以下のとおり。
(1)3つの各部門は全て重要であり、それぞれが果たすべき役割があることを認識すること。
(2)地域によって3つの部門の最適なバランスは異なるので地域の特性を反映すること。この点ではポートランド市と四日市市を高く評価している。
・「②地方自治体が介入すべき適切な時期を知ること」の具体的な内容は以下のとおり。
(1)あまりにも介入しないのも介入しすぎるのも良い政策とは言えないと認識すること。
(2)経済発展は理想主義で解決できるものではなく、現実への対応によって達成されるものであると認識すること。
(3)自由な市場とは無計画を意味するのではないと認識すること。
(4)また、地方自治体が介入の度合いを決定する際には3つの原則がある。第一に経済発展自体は最終目的ではないこと、第二に経済成長の恩恵を広く共有するために介入すること、第三に一つのセクターが全ての技術・知識を持っているわけではない、ということである。
・「③地域の特性を重視すること」の具体的な内容は以下のとおり。
(1)地方自治体が地域の特性をよく理解すること。
(2)地域の特性は競争上有利に働くこともあると認識すること。
(3)地域の特性を反映することで地域開発への住民の共感を得やすい。
(4)投資にはなぜその地域を選んだかという理由が必要だが、特定の地域への投資に偏りがちであることも認識する必要がある。
(5)地域の特性を理解することは、その地域の強みを理解することにつながる。
(6)地域の特性を理解した上で、地方自治体が中心となって様々な業界、関係者を巻き込むことにより、地域経済にとってより大きな役割を果たすことができる。
・「④革新と創造が生まれる土壌を培うこと」の具体的な内容は以下のとおり。
(1)景気後退時期はリスクを取るべき時期で、「創造的破壊」の機会と認識すること。
(2)アジア経済の興隆・技術革新・高齢化社会など、世界経済の枠組みが変化していることを認識すること。コインバトール市では社会の認識・行動など社会的な変革が求められており、四日市市では研究機関等による産業の変革が求められ、ポートランド市では税金・補助金などの公共部門の変革が求められている。
・「⑤地方自治体は、民間商業部門と地域社会部門、そして自らの三者をつなぐまとめ役として機能すること」に関しては市長のリーダーシップは非常に重要である。地方自治体に求められることは以下のとおり。
(1)地方自治体は過度の干渉を避けつつも、他機関の仲介役として機能すること。
(2)グダンスク市では地方自治体同士の連携
(3)四日市市では地域の産業界との協働
(4)ポートランド市では行動に結び付ける地域住民の力の活用
(5)クリアカン市では地域経済政策の継続性
・英国においては政府が地方自治体の役割を見直しているところだが、地方自治体の資金の75%は政府から与えられることもあり、現時点では地域経済にとっての地方自治体の役割・権限は小さいのが現状である。
【結び】
・地域内での製品・サービスの生産、また製品等の地域内外での取引は、目下の景気後退の防波堤として重要である。
・グローバル化の波による影響は世界中どこでも似通っていると思われるが、その中での成功のカギは、各地域がそれぞれの特徴を生かした成果を生み出せるかどうかにかかっている。
・経済・産業振興のための政策は、地域の特性に合わせたものが最善であり、この観点からも地方自治体の果たすべき役割は地域経済にとって非常に重要である。
(以上)