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活動記録

tensen

2008年12月06日


スピーカーシリーズ「英国紙、わたしの読み方」

●日時 2008年12月3日 14:10~15:30
●講師 株式会社 時事通信社 ロンドン支局長 櫻井渉様
●会場 (財)自治体国際化協会ロンドン事務所会議室

ご講演要旨

・私は、現在のロンドンでの業務はまだ1年4ヶ月であるが、10年前にも一度ロンドンで仕事をしていたことがあり、通算すると5年と6ヶ月になる。
・そのため、ブレア政権の時代をロンドンで見ていないが、こちらの英国紙を見ていて日頃感じていることなどをお話したい。

【記者会見】
・ロンドンの外国人記者協会に加盟し、そこを経由して来る記者会見案内から選んで出席している。
・ブラウン首相の記者会見は月一回行われる。約150人集まる記者のうち30名ほどがくじ引きで選ばれた外国人記者である。私も4~5回当たって行った。日本人記者で積極的に質問している人もいる。
・イングランド銀行のインフレ四季報とキング総裁の記者会見は、内容が市場に影響するため、「缶詰め(Lock-in)」方式で、会見の45分前に資料が配布され、会見開始と同時に送信が解禁となる。100人ほど集まる。

【記者会見以外での情報収集】
・私の一応の独自ダネの例としては、(グレアム・)フライ駐日英国大使(当時)の勇退、そして住友商事の銅取引損失などがある。
・(2008年6月の)フライ大使退官の件は、ロンドンへ一時帰国した本人がぽつりと漏らした一言から。後任が(ディビッド・)ウォレン氏であることも含め、新聞が報じる3日前に日本の編集局へ記事送稿した。
・住友商事の件は12年ほど前になる。発表の前から、FT(フィナンシャル・タイムズ)がちらっと書いた関連記事を目にとめ、周辺情報を調べ確信を持ち、東京へ打電した。その記事は新聞社・テレビ局向けは、損失金額が不透明などの理由からかボツにされてしまったが、銀行・企業向けには配信された。直後に住友商事が銅の国際取引で18億ドル(最終的には26億ドル)の損失を出したと発表した。もう少しつっこんで取材していれば、と今でも反省している。

【注目する各紙論説委員、記者など】
・タイムズ紙のアナトール・カレツキー(Anatole Kaletsky)論説委員:
英国、欧州の経済、金融関係。ずばり切り込み、しかも分かりやすい。かつてのブラックウェンズデーや今般の景気減速にあたり、一般の悲観的な見方とは一線を画した、ポンド安をよしとする明快な理論を展開している。もとフィナンシャルタイムズの東欧特派員であり、ロシア経済にも強い。
・フィナンシャルタイムズ紙のマーチン・ウルフ(Martin Wolff):
英国の経済、金融関係。分かりにくいのが難点だが、立場は鮮明。私がパーティーで会ったイングランド銀行の元局長も、ウルフの2%利下げ提言に関心を示していた。その後イングランド銀行は1.5%の大幅利下げを実施した。
・G7などの内幕記事:
日本のマスコミの内幕記事は、日本政府の背景説明をもとにしたものが中心である。英国紙の書く内容は日本のものとまた違っておりおもしろい。2008年10月のG7会議とユーロ圏首脳会議の合意に至るまでの経緯で、欧州共通の景気対策の押しつけに反対するドイツが、いくつかの選択肢の中から各国が選択できることを保証する「道具箱(ツールボックス)」という表現のもと最終的に合意したこと、ドイツに政策を受け入れさせ資金を出させたいフランスや、ユーロ圏の外から言いたいことを言っているイギリス、などの様子が分かる。
・デーリー・メール紙のコラムニストのピーター・オボーン(Peter Oborne):
政治。土曜日に政治コラム記事を書いている。立場がはっきりしており、わかりやすい。
・デーリー・テレグラフ紙のアンブローズ・エバンズプリチャード(Ambrose Evans-Pritchard)編集委員:
欧州、ロシア・東欧の金融問題。東欧諸国の混乱がユーロ圏内部での連鎖反応を起こすことを懸念。ユーロ導入反対派の論客。また、ハンガリーやラトビアの住宅所有者が日本円建てで住宅ローンを調達していたが円の急騰で債務額が膨らんだことから、日本の「キャリートレード(金利の低い通貨で資金調達し、金利の高い通貨で運用して利ざやを稼ぐ手法)」が逆転した場合のことを誰も警告していなかったことも批判している。


【その他キャスター等】
・BBC日曜日のニュース番組キャスターのアンドルー・マー(Andrew Marr):
あらゆるテーマについて、簡明な解説に定評がある。もとインデペンデントの編集長。時事通信社のセミナーの講師として呼んだこともあるが、今は売れっ子で、講演料が10倍になっているかもしれない。
・BBCのロバート・ペストン(Robert Peston)編集委員:
英国金融業に関する特ダネ記者である。今年始めに出た著書「Who runs Britain?」は、最近ペーパーバックでまた出版された。ノーザン・ロックの2月の国有化決定や、HBOS買収など、BBCのやる大きな特ダネのニュースは全部この人である。
・デーリー・メールのリチャード・ケイ(Richard Kay):
王室関係記事。今では独立した模様だが、コラムは持っている。ダイアナ妃が生前最後に会い、相談したジャーナリストである。今も社交欄にさりげなく特ダネを。
・タイムズの土曜日の、ヒューゴ・リフキンド(Hugo Rifkind)のコラム記事「My Week」:
面白おかしく書かれた、有名人のニセ日記。今年春掲載のブッシュの日記(大統領は次々訪れる3人の訪問者の区別がつかず、会談で、ありえないミスを連発する。)は傑作。


【ブラウン政権とマンデルソン】
・最近のブラウン政権は、マンデルソン中心に動き始めたのかもしれない。
・マンデルソンは(旧)ブレア派で、ブラウンはずっと毛嫌いしていた。しかしデーリー・メール紙でピーター・オボーン氏は「ブラウン氏は彼を入閣させるしかない」と論じていたと記憶している。
・ギリシャのコルフ島での豪華ヨット接待疑惑は、マンデルソンがブラウン内閣へ復帰したのをきっかけに各紙で騒がれ始めた。影の財務相オズボーンはマスコミ操作でマンデルソンに完敗。保守党人気のかげりを助長した。
・200億ポンドの景気政策に伴う赤字対策のため、所得税の最高税率を引き上げることから「オールドレーバーへの逆戻り」との批判あり。
・11月29日付ガーディアンの単独インタビューでは、ブラウン首相を持ち上げている。
・ガーディアンの故ヒューゴ・ヤング氏はマンデルソンのスポークスマンのような役割を果たしていた。ブラウン批判発言など。
・12月1日付イブニング・スタンダードなどは欧州委員会のバローゾ委員長が「英国がユーロ導入していたら事態はもっとよくなったと語った英国の有力人物もいる」と述べたと報じ、マンデルソンでは?と報じた。しかしブラウン政権ではユーロ導入はないのではないか。
・昨年秋の総選挙繰上げ騒動では、ブラウン首相は総選挙実施報告のため女王の日程調整を依頼したという説のほか、当時、女王の日程が取れなかったはずだ、という説もある。
・現在、ブラウン首相とマンデルソンはまさに二人三脚である。
・総選挙は保守党との差を逆転したとき、しかも景気回復の目途が立ったときのはず。そして昨年秋の騒動を繰り返さないよう、次はブラウン首相は情報管理を徹底するだろう。


【その他】
・国内通信社
国内通信社(PA)は、あまり知られていないがニュース配信大手である。首相官邸からの連絡もPAを通じて、という場合がある。
・夏枯れ記事
議会もなく記事の少ない7月8月は穴埋め記事が多い。マデリンちゃん事件や、ミリバンドのブラウン「不支持」、ダーリングの「60年間で最大の金融危機発言」など、根拠も意味もあまりあると思えない記事が頻発する。1997年8月に亡くなったダイアナ妃もパパラッチに追われ事故死。夏枯れの犠牲者だと思う。


【質疑】
・(要注意の記者など)目先のことばかり見て、ダメな人は淘汰される。また、優れた記者は、状況、現状認識により必要な方向転換もする。ガーディアンのある女性論説委員の記事は、少し怪しい。
・(英国紙の記事の量が多いことについて)土曜日は100頁を超えている。多くの記者を抱えていること、また、記事がロンドンのことに集中していることなどが原因だと思う。
・(マンデルソンの情報操作について)ギリシャの接待について、オズボーンがマスコミリークでマンデルソンに挑戦したことに激怒し、マンデルソンはロスチャイルド家の御曹司を使って投書させた。彼はそういう人物も動かせる人。彼はなぜそんなにすごいのか。EUのアルミ関税疑惑もあいまいになった。アルミ事業で共通の利害があるのでは。
・(日本に関する報道の内容について)たしかに、英国人教師の殺人事件やイルカのことなど、後ろ向きのニュースが多い。グリーンピースなどが強く、定着している。ただ、土曜日の特集などで、日本の優れた工業製品の紹介などがある。タイムズは皇室離婚説など、本当の特ダネではない、週刊誌レベルの仕立て上げの記事があるので要注意。日本の経済はデーリー・テレグラフがけっこう良い。特ダネに強い
(以上)

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