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2008年04月22日


スピーカーシリーズ「EUの仕組みと各国自治体の関わり」

●テーマ:「EUの仕組みと各国自治体の関わり」
●日時:2008年4月24日 14:00~15:30
●講師:東京大学社会科学研究所教授(オックスフォード大学客員教授) 中村民雄教授

ご講演要旨

【EUを研究することになった経緯】
○英国は国会が立法の無制限の主権をもっているという前提が、EUの統合に伴って、英国国会の主権が制限されるのではないかという懸念が出たことにより、英国の国会とEUとの関係を研究することとなった。
○ヨーロッパのことを勉強しなければイギリス自体をつかめない世の中になった。
○今日お話する「EUの仕組みと各国自治体の関わり」は、従来からの研究テーマである「英国国会とEUの関係」の応用版として、国家レベルの下に存在するサブナショナルな統治体がEUとどのような関係にあるのかについての話である。

【ヨーロッパの重層する国際組織】
(教育)
(1)ヨーロッパの重層する国際組織
 ・ヨーロッパにはEU以外の国際組織が沢山ある。
 ・EUの他に自治体と最も関係がある団体としてCE(Council of Europe)がある。EUの加盟国になっていないロシア・トルコも加盟国となっている。
 ・さらにOSCEという組織があり、冷戦時代の安全保障的な役割を担うものであったが、実質的には既にその役割は終えている。
 ・本日はEUとCEに焦点を当てて説明を行いたい。

(2)EU(European Union)とCE(Council of Europe)の違い
 ・EUは「利便」(経済統合を中心)の共有のための共同体であり、CEは「理念」(人権、民主主義等、法の支配など)の共有のための共同体である。
 ・EU(加盟国27カ国)は、超国家組織であり、固有の立法権をもつ。予算規模は約1,291億ユーロ(2008年)。経済市場統合の推進や自由・安全・司法の地域の形成など、扱う分野が広く、生活に直結している。
 ・CE(加盟国47カ国)は、政府間組織(各国の主権制限なし)であり、固有の立法権はもたず、多国間条約の起草の場である(実際の条約は各国が締結)。予算規模は2億ユーロ(2008年)。これまで、欧州人権条約(1950)や欧州社会憲章(1961)などの実績がある。
 ・EUとCEはともにヨーロッパ統合の長期目標を共有し、シンボルとしての旗(12つの星)や歌(歓喜の歌)を共有している。


【EUの統治制度―リスボン条約以前と以後―】
(1)機構の概観
 ①リスボン条約(2008年批准、2009年発効見込み)以前
  ・EC、CFSP(Common Foreign & Security Policy)、PJCC(Police and Judicial Co-operation in Criminal Matters)の3つの柱から成る。
   i)EC:域内市場、共通通商政策など(対外代表:欧州委員会)。法人格を有する。WTOなど経済分野ではECとして参加。
   ii)CFSP:共通外交・安全保障政策(対外代表:連合外交安全保障上級代表)
   iii)PJCC:警察・刑事司法協力(対外代表:議長国)
  ・法人格は、EU(EUのうちEC管轄以外)とECの2つがある。
  ・対外代表もそれぞれの柱(EC、CFSP(Common Foreign & Security Policy)、PJCC(Police and Judicial Co-operation in Criminal Matters))によって異なる。
 ②リスボン条約以後
  ・1本の機構(ただしCFSP分野は政府間協力的な統治方式)
  ・1つの法人格(ECは廃止されEUのみ)
  ・1つの対外代表(連合外交安全保障上級代表が全分野を代表。ただしCFSPについては、欧州理事会理事長(President)が代表する。)

(2)立法手続
 ①リスボン条約以前
  ・立法事項により手続が異なり、複雑である。
  ・ECの「共同決定手続」は以下のとおり。

      欧州委員会の提案

           ↓

    (地域評議会などへの諮問)

           ↓

閣僚理事会と欧州議会の採択(多数決が原則)

 ②リスボン条約以後
  ・EC+PJCC分野
   i) 通常立法手続(ECの「共同決定手続」、多数決が原則)の原則化(立法事項の8割)
   ii) 特別立法手続(諮問・承認手続)(ごくまれに使われる)
  ・CFSP分野

構成国または連合上級代表の提案(欧州委員会には提案権なし)

                 ↓

       閣僚理事会の採択(全会一致が原則)

                 ↓

            欧州議会への報告

(3)各国議会のEU立法補完性監視
  ・もともと、EUは、「構成国単独では十分に達成できないことを行なうべき」との原則がある。
  ・上述のリスボン条約以後、EC+PJCC分野における通常立法手続及び特別立法手続について、構成国は各国の議会において補完性審査を行う。

欧州委員会の提案(各国議会・EU機関への法案送付)

      ↓              ↓

    各国議会          地域評議会などへ諮問
  (補完性審査)

      ↓

Yellow Card
1/3各国議会の反対→欧州委員会は提案再検討(原案維持可)
Orange Card
1/2 各国議会の反対→欧州委員会は提案再検討(原案維持可)
閣僚理事会の55%構成国多数又は欧州議会の投票過半数で廃案となる

【EUと各国自治体との関わり -歴史的な展開と現在―】
(1)1970-80年代-地域政策の法がと諸基金の「構造基金」化
  ・EUの地域政策の基本的なパターンは、金がついた後、政策がついてくるというもの。
  ・従来、農業補助金がEU補助金の大部分を占めていたが、1988年以降、構造基金が大きな割合を占めるようになった。
  ・これは、1975年に創設された欧州地域開発基金をはじめ、地域振興活動に使いうる縦割りの諸基金を構造基金として統合的に運用するようにしたため。
  ・1986年以降には地域格差是正を目的とする「結束政策」もとられるようになった。
(2)1990年代前半
 ①地域評議会の制度化
  ・1980年代に欧州委員会の諸基金運営の諮問会議であったものを1992年のマーストリヒト条約によってECの諮問会議へ格上げ。
 ②体系的な地域政策の登場
  ・マーストリヒト条約によって、「構造基金」(諸基金連関運用)と「結束基金」(国民総所得がEU平均の90%未満の構成国に給付。環境と運輸基盤の財政援助)の2つの基金を統合して、地域政策とそのための手段(基金)の呼応を明確化した。

(3)90年後半~2000年代-地域政策の拡充
 ①東欧加盟による新課題
  i)経済社会格差の拡大
  ii)ロシア等非加盟国との対外国境管理
 ②政策目標(2007~2013)
  i)収斂(格差是正)
  ii)地域競争力強化と雇用
  iii)欧州領域協力(Territorial Cooperation)
   a)国境隣接地域間協力
国境をはさんだ地域間で共通の開発戦略により地域の社会経済的な中心をつくる。スペインとポルトガル、英国とアイルランドなど。欧州領域協力予算の67%。
   b)越境的協力
国家・地域・地方政府を取り込んでヨーロッパ内の越境的広域地域をつくり統合を進める。市町間、都市・地方間の協力。運輸・通信設備、天然資源(水など)、文化遺産の運営等。ギリシャとトルコにおけるギリシャ文明の保存協力など。欧州領域協力予算の27%。
   c)地域間協力
情報交換や経験共有を行い、地域の政策や手段を効果的に開発する。欧州領域協力予算の6%。
 ③European Groupings of Territorial Cooperation (EGTCs)
  ・構成国、地域自治政府、地方自治体または公法人により結成される法人格のある団体。
  ・国境隣接地域協力、越境協力、地域間協力を行ないやすくすることを目的として、2007年以降に設立。
  ・金の管理を責任をもって行う。
  ・個々のEGTCを設立する際に、関係国家間協定を結ぶ必要がある。

(4)2010年代(リスボン条約以後)
  ・新EU条約第5条第3項により、補完性の原則は、構成国だけではなく、地域(州など)及び地方も対象となった。つまり、EUは、構成国及び地域・地方が単独では十分に達成できないことのみを行なうこととされ、立法準備の段階で、地域・地方の局面についても補完性原則の適合を審査されることになる。


【まとめ】
EUの地域政策史は、基金の創設が先行し、具体的政策はその後に出てきた。
1980年代後半以降からとくに、越境的な協力の財政手段や制度的手段の工夫が行なわれている。日本にとっても、アイデアの宝庫である。
(以上)

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