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2008年02月29日


バーミンガム大学 INLOGOVを訪問

今後の地方自治体における人材育成のための研修のあり方について意見交換を行うため、バーミンガム大学INLOGOV(The Institute of Local Government Studies)を訪問しました。



2008年02月27日


スピーカーシリーズ「英国の移民政策について」

●テーマ:「英国の移民政策について」
●日時:2008年2月27日 13:30~14:30
●講師:ベーカー&マッケンジー法律事務所Immigration Specialist藤本静子様

ご講演要旨

【英国の移民政策の歴史】
○英国は元来、敵国以外の外国人の受け入れに寛大で、特に旧英領植民地の人々は、British Subject、つまり英国住民とみなされ、比較的自由に英国への移民が許された。

○それが、二度の大戦や植民地の独立化で、避難民や植民地の人々が大量に英国に流れ込むようになり、本格的に外国人のコントロールが始まった。
○まず、1962年のCommonwealth Acの制定で植民地からの移民をコントロールし、更に東アフリカからのアジア系の移民が勝手に英国に移民出来ないようCommonwealth Act1968を制定。
○1972年には、英国のEEA加盟により、ますます英国の移民政策の様相が変わり、ようやく現在の移民政策の基本ともなるImmigration Act1971が成立した。
○英国の移民政策は、私見を言えば、従来は人種差別的な側面が強かったが、今日は英国経済へ貢献するような人々のみを受け入れたいという方向にシフトしてきている。


【国境・移民庁の移民政策の変更点】
○英国における永住権(Indefinite Leave to Remain:ILR)を得るために、18歳以上の人は全て、英国についての基礎知識を計るため、“Life in the UK Test”に合格する必要がある。
○“Life in the UK Test”に合格しなかった配偶者(受験しなかった者を含む)でも、永住権保持者の配偶者として申請すれば、2年間は英国に滞在することができるが、テストの合格なしに2年以上滞在するには、特段の理由が必要。
○英国滞在のビザを外国から申請する際、5歳以上の全ての人は、東京もしくは大阪のビザ申請所において、生体情報(Biometric Data)を提出する必要がある。
○英国内では、生体確認証書(Biometric Identification Document:BID)が2008年11月から導入され、現行のUK Residence Permit(英国滞在許可証)の代わりとなる。カードに組み込まれたチップに生体情報が保存される。既にパイロット事業として始まっているが、全ての外国人へのBIDの交付は一応2011年からとなる。
○これらの移民政策の変更は、英語を母国語としない日本人の被雇用者にとっては多大な負担になりかねず、その適用の弾力化について現在外交交渉が行なわれている。


【PBSスキームの概観について】
○政府は、英国経済に貢献するような移民の申請手続きを1回で終わるよう簡素化するため、Points Based System(PBS)を導入予定で、一部のTier1はすでに今年の2月29日からスタートした。この新システムのもとでは、現在、英国への就労・就学について73のルートが可能であるところを5つに簡素化できる。この変更は、英国の移民政策の歴史の中で画期的な変更である。
○5つの区分は以下のとおりである。
Tier1. 英国の経済成長と生産性に貢献できる高技術者
Tier2. 英国の労働力不足を補う技術労働者
Tier3. 特定の一時的な労働力不足を補う低技術労働者
Tier4. 学生
Tier5. ワーキング・ホリデー及び経済以外の目的で英国に来る一時的労働者
○第一に、雇用者は国境・移民庁へSponsorship License(雇用ライセンス)を申請しなければならない(1の場合は必要なし)。
○PBS以降後に英国に来たいと考えている人は、以下を満たす必要がある。 
・区分ごとに指定された必要なポイント基準を満たすこと(Tier2の場合、50ポイント)
・以下に示す英語力を満たすこと
-Council of Europe’s Common European Framework for Language Learning又は GCSEテストのCレベル以上に合格した場合(もしくはこれらと同程度)、もしくは国民の大多数が英語を話す国から来る場合
-英語で学位取得をした場合は、別途英語力テストを受ける必要はない。
・生活を維持できるだけのお金があること。
・英国内の雇用者から事前のCertificate of Sponsorship(移民雇用証明)を得ること。


【PBSのもとでの新たな義務】
PBS導入の背景にある概念として、「移民によって利益を得る人々は、移民システムが悪用されないように責任を果たすべきである。」というものであり、ライセンスの発行に係る条件として、雇用者は、上記責務を果たすべく、適切な内部手続きを導入すべきであるとされている。雇用者には、以下の義務が発生する。
 ・記録保管義務(移民従業員のパスポートのコピー、連絡先、その他)
 ・報告義務(移民従業員の無断欠勤、解職、役職など雇用関係の変化、犯罪の疑いなど)
 ・コンプライアンスの義務(Immigration, Asylum & Nationality Act 2006の15条及び21条の遵守)
 ・国境・移民庁への協力義務(国境・移民庁の立ち入り検査、アクション・プランの遵守など)
○PBSの日本企業への影響
・移民雇用ライセンスの申請
→関連会社一括の申請を行なうか、個別の申請を行なうかの選択
→責任者(Authorised Officer)等の任命
・それぞれの従業員のCertificate of Sponsorship(移民雇用証明)申請
→申請はオンラインのみ。
→1年に発行が必要とされるCertificate of Sponsorship(移民雇用証明)の数の報告
・雇用者及び家族の延長申請
  →国境・移民局は、まだ、従業員の家族の労働を許可するかどうか決定していない
  →従業員の家族は、永住権を獲得するためには、少なくとも2年は英国で居住することが条件付けられることが予想され、事実Tier1ではこの条件が求められている。
○PBSの履行スケジュールについて
   ・TIER1
     2008年2月29日から-国内申請者
     2008年夏から    -国外申請者
   ・TIER2 
     2008年の年末
     登録は2008年初頭から(3月?)
   ・TIER3 
     保留中
   ・TIER4 
     2009年の年始
   ・TIER4 
     2008年末
○申請料金
・50人以上を抱える大企業には1000ポンド
・雇用証明170ポンド
BIDの発行30ポンド
(以上)



2008年02月25日


スピーカーシリーズ「日英の陪審員(裁判員)制度について」

●テーマ:「日英の陪審員(裁判員)制度について」
●日時:2008年2月25日 14:00~15:30
●講師:朝日新聞社記者 佐々木健 様

○私は、事件記者を長くやった。その経験も踏まえ、お話をしたい。
○日本では、来年4月ごろから裁判員制度がスタートする予定。

【イギリスの報道規制】
○イギリスでは、逮捕から起訴までの期間が短く、数日である。また、逮捕後は、陪審員に予断と偏見を与えるという理由で、重大事件については報道ができない。違反すると法廷侮辱罪になり、罰則もある
○イギリスのメディアが報道規制に甘んじている背景には、過去のデイリーメールのサッカー選手の傷害事件に関する報道への反省がある。(デイリーメール紙が事件に人種差別の背景があると報じ、しかしそのような事実がないことが分かり、同紙の記事を読んだ陪審員が全員交代になった。そのために15億円の経費が無駄になった。)

【報道規制の是非】
○しかし自主規制も含めメディアの報道規制は問題はないのか。ロス疑惑の三浦和義が27年ぶりに逮捕されたが、メディアが先行して「怪しい」と報道していた。メディアは概して大きな波に乗って、警察の前に報道する。それは問題でもあるが、使命でもある。
○私は、知能犯などを扱う捜査二課を担当していたが、たとえばある国会議員の捜査がどこまで続いているかの取材で、二課の取材と報道は、当局が狙っている段階、水面下を流しているプロセスも含め、事件がはじける前から行うものである。つまり二課については、メディアは、疑惑がある「かもしれない」という段階から報道をする。各社が独自に書く。そして、裁判が始まれば、そこで出てくる新事実ももちろん書く。しかし、イギリスの法律では、それができない。
○日本はどこまでメディア規制ができるか。メディア自身もガイドラインを自分で模索している。

【報道規制と陪審員】
○日本の裁判員は、裁判員がつくかどうかは事件の内容によって決まるが、英米は重要犯罪及び被告人が否認している事件に陪審員がつく。
○イギリスでは、犯人が逮捕されるとメディアの報道がなくなる。そのため、陪審員は、陪審員に選ばれたときに、その事件について知りたいと思うと、新聞報道がないので、インターネットを探すことが多い。そして、インターネットには、根拠のわからない怪しい情報があふれている。そういったものから、誤った先入観を得てしまうことがある。つまり、現代は、情報は止められるものではない。

【アメリカの陪審員制度の現状】
○アメリカの陪審員制度は、既に破綻している。まず、給与補償が足りないため、ホワイトカラーの引き受け手がなくなり、15%を切っている。アリバイのための航空券を売る業者までいる。また、陪審員の身辺調査をする会社があり、陪審員のメンバーにより、裁判の結果が予測できるところまで来ている。不利なメンバーであれば、理由をつけて忌避申し立てをし、交代させたりする。裁判に非常に時間がかかる原因にもなっている。(以上)

【イギリスの新聞】
○イギリスは、アメリカほどひどくはないが、規制を遵守するモラルの高いメディアは、使い分けもしている。たとえばマデリーンちゃん事件は、舞台がイギリスではなくポルトガルだったため、報道規制の適用外だった。そして、マスコミの報道は過熱した。イギリスは新聞配達がないため、街角で目に付き、買ってもらわなければ生き残れず、各社の見出しや報道内容の競争や個性化は激しい。また、朝刊と夕刊を両方出すということがないため、時間に余裕があり、記事の内容を練ることができることも、記事の個性化に資している。

【わが国の裁判員制度と報道】
○日本ではどうなるか。裁判員を無菌状態に置くことはできない。そして、世間の関心が向いていないようなときも、報道記者は事件をずっと追っている。

(質疑)
○(日本の裁判員に予想される状況について)いったん選ばれると、断ることも、また選ばれたことを口外することもできない。孤独感が強いだろう。世論が知りたくなるはずである。私は、この制度は5年で破綻すると予想している。大正時代に一度導入しようとしたが、失敗している。弁護士の口調などで、裁判員の受ける印象と判断が変わってくるようなこともありえる。
○(現行の制度に問題があったのか)専門の裁判官は、やはりプロである。批判しすぎたメディアも悪かったと思う。人間らしいのが、よいのかどうか。裁判員制度も、密室のことであり、批判すべきものではないか。
○(イギリスのメディア規制の今後について)現在の法務長官が、国会で「メディアが及ぼす影響を調査する」と答弁した。が、「あまり影響なし」という結果になりそうである。ただ、たとえ報道規制がなくなっても、自主規制で十分だろう。
○(裁判員と情報リテラシーについて)やはり情報源はメディア、特に新聞であるべきである。新聞も価値が多様化している。ただし、主張をしたい一方で、その怖さを感じている面もある。(以上)




EU加盟国間の会議に出席

ベルギーのブリュッセルで開催された、EU加盟国間の格差縮小をテーマとした会議に、2月25日と26日の2日間クレアパリ事務所と共同で出席しました。



2008年02月19日


スピーカーシリーズ「欧州での原子力発電について」

●テーマ:「欧州での原子力発電について」
●日時:2008年2月19日 13:30~14:30
●講師:東京電力株式会社ロンドン事務所長唐崎様、副所長浅妻様、牧野様

ご講演要旨

欧州では、気候変動(地球温暖化)対策、エネルギー・セキュリティ確保の観点から、持続可能な低炭素型社会の実現に向けての取組が活性化している。原子力への取組はその中核の一つである。一方、原子力発電をどう位置づけるかは、政治情勢等により国ごとにその方針が異なる。

【英国における状況】

○英政府は、2006年7月に発表されたエネルギー・レビューにおいて、「地球温暖化対策の強化」及び「エネルギー・セキュリティの確保」を2つの柱として、前者については、2050年を目標に温暖化ガスを1990年比で60%削減することを掲げており、後者については、北海油田の産出量の低下(1999年がピーク)により、ロシア及び中東への依存が拡大していることで、エネルギー・セキュリティの危機感が現実味を帯びているとしている。
○英国の発電電力量の構成比は、37%が石炭、36%がガス、18%が原子力、4%が再生可能エネルギーとなっている。現在稼動中の原子炉も、2032年までには1基を除き、全てが寿命を迎えることとなり、結果として、原子力発電所20基分相当の供給力不足となることが予想される。
○2008年1月に政府が ‘原子力新設を支持’する最終意見書を公表した。その内容は、「地球温暖化対策、セキュリティ確保の観点から、原子力は引き続き一定の役割を果たすべきであることとした上で、廃炉措置から廃棄物処分に至るまで、政府からは財政援助を行なわない」というものであった。ここにいたるまでには、先に述べたエネルギー・レビューに対し、環境保護団体等から、「エネルギー・レビューは、適切な公開審議を得ていない」とする申立がなされ、2007年2月、公開審議のやり直しを求める司法判断が下ったため、政府は同年5月から改めて公開審議を実施し、集約された2700件の意見書を考慮した上で、この最終見解を示したという経緯がある。本最終意見書に対する野党の反応としては、サッチャー以来原子力を支持してきた保守党は、「再生可能エネルギー、分散化電源の推進を軸とした」同党エネルギー政策を平行して進めることを前提に、政府見解を支持。自由民主党は、反対の立場をとっている。なお、争点の一つでもある高レベル放射性廃棄物の処分方法については、政府が提案した深地層処分の概略設計、処分場ホスト自治体選定のプロセスについて、概ね国民の支持を得たと政府は報告している。

その他欧州各国の原子力政策については、各国の歴史的経緯、政治情勢、国民の受容性等に大きなばらつきがあるため、EUとしての統一の方針が示せない状況である。欧州各国の原子力に対する姿勢は概ね以下のとおりある。
○原子力を積極的に活用:フランス、チェコ、イギリス、スイス、旧東欧諸国、フィンランド(政府による明確な政策を保持せず。) 他
○脱原子力政策を維持:独、スウェーデン、ベルギー、イタリア、オーストリア 他


【フランス】

○全発電電力量に占める原子力の構成比は86%であり、次が石油の12%である。
○第一次石油危機を契機として、政府は1974年3月に「新規電源は全て原子力発電で対応」という方針を打ち出し、現在、58基の原子炉を運転している(米国についで、世界第2位)。
○先の選挙では、保守UMPサルコジ候補が、「老朽原子力の早期閉鎖と2020年までに原子力比率を50%までに逓減する」と唱えた社会党ロワイヤル候補に勝利した。
○巨大企業アレバが原子炉建設から原子燃料供給、使用済燃料の再処理まで幅広くサービスを提供している。


【ドイツ】
ドイツの発電電力量の構成比は、42%が石炭、原子力が31%、石油が12%、ガスが11%。石炭が4%である。
○社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権下において、2001年6月に電力会社は脱原子力協定(32年で閉鎖)に調印した。
○現在、17基の原子炉が運転中である。
○2005年11月、SPDとキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)との大連立で就任したメルケル首相は、在任中には脱原子力政策の見直しを行なわないことを表明するとともに、風力、太陽光等の再生可能エネルギーの拡大に注力すること、豊富な褐炭資源とロシアからのガス(パイプライン建設中)で原子力の穴を埋めることとした。
○ 原子力閉鎖による供給力不足を懸念する産業界が、閉鎖間近の原子炉の延命策を講ずるが、実らず膠着状態であり、2009年の総選挙の頼みの状況である。


【スウェーデン】
○2006年9月、ラインフェルド首相のもと社会民主労働党、中道左派による連立政権樹立。同政権中には、「原子力の新設及び閉鎖は行なわず。出力増強は推進。」という方針を表明した。
○現在、原子炉10基が稼動中であり、電力需要の約50%を賄っている。既に2基の原子炉を閉鎖している。
(以上)



2008年02月11日


マンチェスターの名誉領事叙任式に出席

日本政府から新たにマンチェスター名誉領事に任命された、ピーター・ヘギンボサム氏の叙任式がマンチェスター市役所で開催され、当事務所からも叙任式に出席しました。



2008年02月08日


イースト・サセックス議会を訪問

イースト・サセックス議会を訪問し、予算審議が行われている本議会を傍聴するとともに、議長はじめ議員の方々と懇談しました。



2008年02月07日


日英交流セミナー(Japan Day Seminar)2008を開催

2月7日にウェールズでCLAIRロンドン事務所主催の日英交流セミナーを開催しました。今回のテーマは「自治体の地域再生への挑戦」と題し、経済的に苦境に陥った地域再生の取り組みを日英間で比較し相互に情報共有を図るという趣旨です。CLAIR本部の香山理事長にもお越しいただきました。

英国側の事例発表は、産業革命以降、鉄鋼業と石炭産業で隆盛を極めその後の産業構造改革の中で塗炭の苦しみを味わい、その後地域再生を果たしつつあるウェールズの取り組みについて、ウェールズ政府、カーディフ市の幹部から話を伺い、併せて苦境のウェールズにいち早く進出し地域経済に大きな根を張っている日本企業のパナソニックからも企業の立場から話を伺いました。
我が国の地域再生政策と事例発表は、東大の中村尚史准教授と務台俊介当事務所所長でした。中村准教授からは鉄鋼産業で隆盛を極めた釜石の衰退とその後の地域再生に向けた取り組みのお話をいただきましたが、ウェールズの置かれた環境に類似した事例であるだけに、出席者は日英両国に共通する課題認識を再確認しました。
このセミナーの模様をビデオ収録しましたので、下記リンクより是非ご覧いただきたく存じます。Public-iというICT会社のノウハウを活用したもので、英国では自治体の住民向け情報提供の手法として最近よく使われているものです。こうした手法の紹介自体が英国の現状説明になると思われます。

●テーマ:日英の自治体の地域再生への挑戦 ~地域ごとの創意工夫の競い合い~
●日時:2008年2月7日(木) 午後1時00分~午後5時10分
●場所:Cardiff City Hall
(セミナー終了後は、National Museum Cardiffにてレセプションを開催)
当日の模様(Public-i)
●参考 当日配布プログラム(PDF)



2008年02月04日


スピーカーシリーズ「E-Governmentの推進について」

●テーマ:「E-Governmentの推進について」
●日時:2008年1月29日 14:30~16:00
●講師:欧州復興開発銀行 総裁特別顧問 日下部 元雄 様

ご講演要旨

・E-Governmentを推進する際、どこに力点をおくかは、自治体によって異なるが、行政サービスの効率化のほかに、住民の自治体の意思決定への参画を即すE-Democracyという観点が重要である。

・「住民のニーズに合った、国や関係機関と統合された、自治体と住民が双方向に利用できるポータルサイト」というような理想的なポータルサイトをつくるためには、まずは、サイトの枠組みを低費用でつくり、その後コンテンツを充実させていくことが重要である。
・安価なポータルを開発途上国において普及させるため、国連等との連携のもとOpen City Portal という無料のソフトウェアの開発を現在行なっており、今後実証実験を通じて、当該ソフトの精度を上げていく予定である。http://www.opencityportal.net/


セッション1 ICTに携わるようになった経緯について

・(これまでの略歴)財務省、世界銀行副総裁を経て、欧州復興開発銀行で特別顧問を務めている。
・世界銀行はパブリックセクターへ貸付けをするが、欧州復興開発銀行は、主に東欧と旧ソ連圏の市場経済化を助けるため、民間企業に貸付けを行なっている機関である。
・私は、東欧ソ連の中でも比較的遅れた中央アジアやバルカンなどの小さい国に対し、起業家を支援するようなインフラを作ることに携わってきた。
・ICTというものを私のテーマとして研究するようになった経緯は、次のとおりである。世界銀行在任時に、世界銀行が貧困対策の基本戦略を、水の供給や保健衛生、教育などからエンパワーメントに転換するため、貧困階層に直接接しているソーシャル・アントレプレナーを25人ワシントンに呼んでセミナーを行なったところ、彼らからは、
①自分達がグローバル・ノレッジに接したい。
②自分達の声をグローバルの場での意思決定に反映させたい。
③僻地でもグローバルなマーケットに商品を売れるような仕事をつくりたい。
と、どれもICTと関係した要望であった。そのため、まだ世界銀行在任中であった当時、ICTを開発途上国でどのようにつくればよいのかという研究に着手した。それを現在EBRDにおいても行なっている。
・E-Governmentは、まだ、民間企業にコマーシャルベースでお金を貸すEBRDのメインストリームのオペレーションにはなっておらず、また、今回は主に西ヨーロッパにおけるE-Governmentについて話をするように依頼されていることもあり、本日話をするのは必ずしもすべてがEBRDの取り組みではないが、最後に話をするOpen City Portalという途上国の自治体でもお金をかけずにポータルサイトを作るという取組は、国連などと一緒に力を入れて取り組んでいるプロジェクトである。


セッション2 ヨーロッパにおける E-Governmentの状況について

・EU圏におけるE-Governmentへの取組状況について、EUがこれまで二度にわたってE-Europeというイニシアティブを行なっており、その柱の一つがE-Governmentである。
・EUが加盟国内のE-Governmentの発展段階を4段階に規定しており、各ステージは以下のとおりである。
①ステージ1:information(情報入手が可能、等)
②ステージ2:One way interaction(様式のダウンロードが可能、等)
③ステージ3:Two way interaction(インターネットでの申請が可能、等)
④ステージ4:Full electronic case handling(オンラインのトランザクシ        
ョンが完全に可能、等)
・EUでは、加盟国が第4段階までに達することをベンチマークにしており、EU発足当初の15カ国における到達比率が2001年では45%だったのが2004年では72%となった。
・行政サービスの中のどういう分野でオンライン決済が進んでいるかについては、自治体収入を生み出す分野(税の申告等)においては非常に進んでいる。登録関係では、統計データの提出などでは進んでいる一方、車の登録ではあまり進んでいない。公的支援サービスでは、就業支援サービスではが進んでいるが、医療サービス(例:専門の医者の予約をオンラインで実施)ではあまり進んでいない。許可・免許などの分野ではあまり進んでいないが、これは個人認証の制度を作ることが前提となることが理由であろう。
・オンライン・サービスの進捗についてEU加盟国を国別に見ると、1位がスウェーデン、2位がオーストリア、3位が英国である。北欧の国は進んでいる。
・EUの基準は、オンライン・トランザクションが可能かどうかのみに偏っているが、E-Governmentの進展具合を計る基準については、次のような観点からも見る必要がある。
①各省庁/各部門の統合ポータルがあるかどうか
②市民のニーズに合わせてコンテンツが分類されているか
③一目でコンテンツの全体の内容がわかるようになっているか
④必要な情報が全て盛り込まれているか
⑤市民が実際にポータルを使っているか(日本はポータルが充実しているのに、使用率が低い)
⑥インターネットに簡単にアクセスできないような人へのチャンネルも用意されているか
⑦E-Governmentに係る目標が達成されているか
・自治体レベルでのE-Governmentの進捗状況については、Torres, Pinna & Aceretの調査によると、2つの基準での研究が行われている。一つ目の基準はService Maturity(SM:どれだけの行政サービスがオンライン化されているか。)この指標では、1位(SM>20%)がウィーン、バーミンガム、シュツッツガルト、ミュンヘン等が上位となっている。二つ目の基準はDelivery Maturity(DM:サービス提供がどれだけ工夫されているか)については、バルセロナ、フランクフルト、マドリッド、サラゴサ、カーディフ、ベルリン、ウィーン等が上位となっている。
・ EBRDでは、東ヨーロッパ諸国におけるe-Governmentの進捗度合いを以下の5段階で判定する調査を行った。
①レベル1:イニシアティブなし
②レベル2:各省庁/部門がばらばらにE-Governmentを進めている
③レベル3:市民のニーズにあった統合ポータルサイトをもっている。ま  た、ダウンロードが出来たり、行政と市民の間でのインタラクションの機能もある。
④レベル4:オンラインで申請や決済ができる。
⑤レベル5:E-Governmentの結果、行政のプロセスが合理化された。
この調査の結果、2005年度時点でエストニアがレベル5まで到達、セルビアとアゼルバイジャンがレベル3という結果であった。
・自治体レベルでE-Governmentがどれだけ進んでいるかを、国際会議に参加した世界各国の自治体に調査した結果では、60都市中、レベル2が11団体、レベル3が7団体(文京区を含む)、レベル4が27都市、レベル5が5団体(後述のフランスIssy-les-Moulineauxを含む)であった。
・E-Governmentを推進するにあたってはいくつかの焦点があって、各都市において何を重視しているかは異なる。コンテンツについて、G2C(Government to Consumer),G2B(Government to Business)及びG2G(Government to Government)の3つの視点とインフラについて、それぞれどれだけ進んでいるかによって、各都市のE-Governmentの推進状況を図ることができる。
・以下、4つの国、自治体又は地域について実例を紹介する。
①フランスのIssy-les-Moulineauxという自治体は、パリの南に位置する人口6万人の自治体である。96年に市長がサイバー都市としての変革・発展行なうというビジョンを打ちたて、E-Governmentによる行政改革を進めるというE-Democracyを推進。市の中にアクセスポイントを100程度つくってデジタルデバイドの解消に努めるとともに、E Voting(E-Governmentのシステムを使って、市民が直接市の意思決定などに参画する)などに取り組んだ。市庁の会議にも、市民が登録をすれば電話会議で意見を言うことができるなど、画期的なシステムであった。このように、E-Governmentを推進している自治体は、単に電子決済などによるサービスの効率化を第一の目的とするのではなく、E-Government による市民参画(E-democracy)を進めることを目標にしているところが多い。
②ウィーンは、E-Governmentが最も進んでいる都市であるが、ここはE-democracyよりも、電子決済などe-Governmentによる効率的な行政サービスの提供に力を入れているところである。30くらいのオンライン決済ができる。また、若者、女性、高齢者など様々なハンディキャップをもっている人へのサービス提供(例:高齢者へのパソコン研修の実施、盲目の人への音声によるサービス提供など)を行なっている。さらに、50のパブリック・アクセスポイントによるマルチ・チャネルをつくっている。以前は、市役所がアクセスポイントを設置していたが、今は官民連携(PPP)により民間がより充実したマルチ・チャネルをつくっている。単にインターネットだけでなく、コールセンターをつくって電話やFAX、eメールなど、全てのチャネルをつかってe-Governmentにアクセスできるようにしている。
③カタロニア(スペインのバルセロナがある自治州)では、職業教育や職業案内、起業支援などをCatalonia365というポータルで行なっており、地域振興をE-Governmentの主眼としている。この地域では、地方政府が3層構造になっており、従来は申請を3つレベルの各自治体に提出しなければならないなど複雑であったが、制度改正によって申請がCatalonia365のポータルサイトでできるようにした。
④エストニアは、東欧の中では一番E-Governmentが進んでいるが、計画的にIDカード作ったり、コマーシャルバンクのIDカードでE-Governmentを利用できるようにした。はじめは、各省庁がばらばらのシステムをつくり不便なシステムとなったため、後に各省庁統一のインターフェースとした。
・上記4つの自治体のe-Governmentの目的はそれぞれ異なるが、日本の自治体にも参考になるものであると考えられる。日本の自治体に対して2000年に政府が、何がe-Governmentの障害になっているかを調査したところ、
①予算が不十分(73%)
②組織的なサポートの欠如(60%)
③十分な技術の不足(46%)
④不十分なICTインフラ(43%)
との結果であった。
 一部の先進的な自治体を除き、このような障害が弊害となっているところが多い。日本ですらこのような状況なので、まして途上国の市町村ではもっともっと障害が多い。
・各自治体がE-Governmentを進めるにあったての戦略について、よく見受けられる誤りとして以下があげられる。
①ベンダーやコンサル主導のストラテジーとなってしまう(ベンダーは高価な機器を販売したいと考え、そのような提案をするため、非常に高額なシステムになってしまう)。
②予算制約などにより、散発的なE-Governmentとなってしまう(予算のついた部局から始めるため、部局ごとのばらばらのシステムの集まりになってしまい、システム全体の統一性が欠如してしまう)。
③オンライン決済に焦点を当てすぎる。これもコストが高くなる原因となる。
④中央、各レベルの地方自治体が、ばらばらのシステムをつくる。
・このような誤りに陥らないためには、内容は後でもよいので、まずは市民に対する統一的なポータルをつくり、市民がシステマティックに検索できるようにし、そして、市民のニーズにあったコンテンツや、市民と行政の双方向のシステムをつくることである。ここまでの作業は、さほどお金をかけなくて出来ることであり、しかも、ここまででも、E-Governmentが目指す目的のほとんどが達成される。これ以上の、個人認証やオンライン決済がコストがかかるのである。また、例えば市民が学校の情報を求める際、公立だけではなく私立の学校の情報も必要である。市民が求めるものを総合的に提供するためには、民間セクターに参加してもらうことも重要である。


セッション3 Open City Portalについて
http://www.opencityportal.net/
・このような安価なポータルを開発途上国において普及させるため、いくつかの国際機関等と連携して、Open City Portalというオープンソースのソフトウェアの開発に取り組んでいる。当該ソフトウェアを使用してポータルを作るにあたって、自治体はライセンス料を払う必要はないため、ウェブのホスティングやメンテナンスの料金だけで、その都市の特別なニーズに合わせてポータルをつくることができる。市民のニーズに合わせたコンテンツや、自治体内部の各部署及び国の各省との統一性など、必要な特徴を全てそなえている。また、グローバルな視点で、世界の自治体のベストプラクティスなども紹介できるようになっている。
・当該システムを使ったポータルの作成に係るコンテンツ作りについては、一般職員ができるようになっている。特別の職員を雇うのではなく、第一線で市民の相手をしている人が、自分でコンテンツを入れられることが重要である。
・今は英語と日本語のみのサイトとなっている。架空の都市のポータルの例が掲載されているとともに、ウェブ上で自分の自治体のポータルをつくれるようになっている。
・ トップページ>Look at the Partner City Portals >Hampstead Portal(A Sample Portal) では、Hampsteadという架空の自治体のポータルが表示されているが、最初のページに全てのコンテンツの内容が一目でわかるようになっている。例えば教育のページでは、自治体の取り組みや申請にかかるFAQ、イベント情報、役場への質問コーナーなどを掲載するとともに、研究者の報告や海外自治体の取り組みなども見ることができるようになっている。
・職業紹介や町おこし、起業家がポータルを通じて他の町の起業家と連携してビジネスプランを作るなどもできる。
・また、 トップページ>Creating your City Portal では、10のステップで簡単に自治体のポータルがつくれるようになっている。実際にポータルを作ってから、コンテンツを充実されるべくプログラムが構成されている。まだ機能が全て完全ではない。
・最初は自治体のポータル担当者のみがアクセス可能とし、ある程度コンテンツが整ったところで、市民にも公開するという手順が妥当である。
・このシステムはまだ実証試験が済んでいないが、この3月に国連等と共同でブータンの首都で実証試験及び評価を行なう予定。また、他の都市でもパイロットとして行い、信頼性を高めていく予定である。

(以上)



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