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2008年01月21日


スピーカーシリーズ「地方債の格付けについて」

●テーマ:「地方債の格付けについて」
●日時:2008年1月21日 15:00~16:00
●講師:株式会社格付け投資情報センター 格付本部
公共部 チーフアナリスト 安田 稔 様

ご講演要旨

・地方債の格付け取得の動きは今後加速していく見込みである。
・格付け会社によって、地方自治体の格付けに係る考え方が異なり、全ての地方自治体に同じ格付けをつけているところもあれば、異なる格付けをつけているところもある。また、国債格付けとの関係においても、国債よりも地方債の格付けを高くしているところもあれば、地方債の格付けの上限を国債の格付けとしているところもある。

・R&Iでは、地方債の信用力に関し、制度的な面も含めた政府サポートを高く評価する一方、各自治体の経済力・財政状況・債務水準などスタンド・アローンの評価を踏まえ、各地方自治体の格付けにAA-からAAAまでの4段階の格付けをつけている。また、国債格付けとの関係では、地方債の格付けの上限は国債の格付けと考えている。


1 格付け投資情報センター(R&I)による地方債の格付け状況について

・現在、12の地方自治体が格付け機関に依頼し、格付けを取得している(依頼格付け)。うち、R&Iが行なっている格付けは3団体(神戸市・静岡県・岡山県)である。今後、自治体による格付け取得は広がって行く見通し。
・金融庁に認められた格付け会社は、Moody’s, S&P, Fitch(以上外資系)、及び,JCR、R&I(以上日系)の5社である。
・R&Iは、日本の公募債市場では圧倒的なカバレッジを誇る。特に自治体、政府系機関、学校法人などの公的セクターでは圧倒的である。
・自治体財政の悪化に伴い、金融機関から自治体格付けの要望が高まったことを受け、R&Iでは1999年に日本で始めての自治体格付けを公表。公開情報に基づき、公募債を発行する16都道府県と12政令指定都市に対して、依頼によらない公開情報に基づく格付け(勝手格付け(OP格付け))を行なった。
・現在は、OP格付けを含めると全国型の公募地方債を発行する42団体のうち39団体にまで格付けを行なっている。
・R&Iでは客観的な格付け体系を構築している。他社との比較では、Moody’sは全ての地方自治体に対してAa1をつけているのに対し、R&IではAA-からAAAまで4ノッチの幅を設けている。格付け会社によって格付けの考え方が異なる。
・R&Iの格付けと地方債のスプレッドは相関性が高い。ただし,現在は、市場の需給がタイトなので、各自治体のスプレッドもタイトである。なかなか信用格差がスプレッドに反映されにくい状況である。2006年末と2007年末のスプレッドを比べると、2006年は夕張市の財政ショックなどにより、投資家が地方債マーケットのクレジットに注意しはじめたので、2006 年末は財政状況の悪い自治体はワイドなスプレッドを要求されたが、2007年末のスプレッドはタイトになっている。


2 地方債の信用力に関する考え方について

・総務省の正式見解では「地方債の元利償還に必要な財源を国が保障」とされている。また、地方債のリスク・ウェイトは国債同様ゼロである。
・しかし、R&Iでは、地方債の償還能力が単純に国債と同一とは考えていない。
・R&Iにおいても、制度面を含めた政府サポートは高く評価しており、全ての全国型公募地方債を発行する自治体をAA-以上にしている。AA格というのは、民間企業でいうと超一流企業である。AAAがつくのはごくわずかの企業のみ。つまり、AA-といっても、基本的にデフォルトを想定していない非常に高い格付けであり、これは国と地方の関係が非常に強固であることによる、政府サポートに裏打ちされたものである。
・R&Iではこの考えに立った上で、自治体のスタンド・アローンの評価を格付けに反映させている。
・地方財政計画は地方自治体の単年度予算に基づく財源保障であるが、この保障は、“保証(guarantee)”ではなく“保障(Assured)”であるため、全自治体にAAAをつけることはできないと考えている。また、地方財政計画の規模が緊縮傾向であること。また、現在の財政再建制度には自治体自らの申請が必要であること。さらに、地方債残高に占める政府系資金の減少。これらの理由から、自治体に対する政府サポートは強固だが、必ずしも完全ではないと考えている。
・地方分権が進む中、国と地方の関係は離れることはあっても近づくことは考えにくく、これにより、自治体の自主性が高まる反面、自己責任の範囲も広がり、また、経済力や行財政改革の濃淡で財政格差がつきやすいため、今後も財源保障機能や財源調整機能は残ると考えたうえで制度変更リスクを想定できる範囲内で織り込む必要があると考えている。この結果、政府サポートを踏まえつつ、自治体固有の信用力を格付けに反映させている。
・マクロベースでの財源保障は基本的にはどの自治体でも同じであるが、スタンド・アローンの評価については、経済力(自主財源比率、域内GDP、産業構造など)、財政状況(修正単年度収支比率(R&I独自指標。収支に、地方債残高の増減や積立金の増減を調整することで実質的なフリー・キャッシュ・フローを算出し、これを標準財政規模で割ったものであり各自治体の行財政改革の状況を見ることができると考えている)等)、債務水準(債務償還年数(R&I独自指標。地方債残高を公共投資を全く行なわなかった場合の収支で割って、何年で地方債を償還できるかを算出したもの)等)の3つの視点を重視している。
・3つの視点に加えて、自治体が出資する第三セクターや地方公社など外郭団体の債務水準や自治体の関与度合いについても考慮する。
・R&Iが想定する地方債のデフォルトについては、「元利払期日の変更、強制的な借り換えなど民間資金のリスケジュール」であり、地方自治体がなくなり、投資家の投資資金がまったくかえってこないというようなことは想定していない。返済タイミングの遅れや、金利引下げが行なわれる可能性はあると考えている。地方債デフォルトの要因としては、長期的要因(過大債務による収支圧迫による財源不足など)、短期要因(例えば、原発の立ち退きによる税収の落ち込みなど。)、突発的要因(巨大震災の発生など)の3つの要因を考えている。
・ソブリン格付けと自治体格付けについては、R&Iでは国債がAAAであるのに対し地方債はAA-~AAAとしている。一方、Moody’sでは、国債がA1であるのに対し地方自治体はAa1(国債の3ランク上)としているなど、格付け機関によって考え方が異なる。R&Iでは、中央集権国家においては国債の格付けが地方債の格付けの上限になると考えており、国と地方の関係は相関関係が硬いので、ジョイント・サポート(相関関係の低い団体が保障しあうようなケースでは、それぞれ単独の格付けよりも高くなるというケースがある)は想定できないと考えている。
・地方債の自由化の流れについては、2008年1月より国外の投資家が受け取る利子が非課税となり、海外投資家の日本の地方債への関心が益々高くなることが考えられる。
・財政健全化法については、財政悪化に一定の歯止めをかけるスキームとして、クレジット判断ではプラスに働くと考えている。
・2009年施行予定の財政健全化法では第三セクターも考慮した健全か判断指標を採用することについて、普通会計以外の財政健全化を進めるスキームとして、クレジット判断ではプラス評価が可能と考えている。
・実質公債比率とR&Iの格付けの相関関係は低くなっているが、これはR&Iでは財政の水準だけでなく地域内の経済力を重視している結果である。
(以上)



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