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2007年11月21日


スピーカシリーズ 「Human Resource Management (HRM)」

●テーマ:「Human Resource Management (HRM)」
●日時:2007年11月21日 10:00~16:00
●講師:英国 ロバートゴードン大学 アバディーン・ビシネス・スクール 名誉上級講師
  関西学院大学経営戦略研究科客員教授 Dr. Peter Smart 氏

ご講演要旨

イギリスの地方自治体における人的資源管理(HRM)の諸問題を、地方自治体の再編と人材管理(再配置)、アウトソーシング等の活用と人材開発、イギリスの地方自治体における人材管理・育成部門の機能等について、ご講演いただいた。


セッション1 イギリスの地方自治体における人的資源管理(HRM)

・本日は、イギリスの自治体における人材管理(HRM)について4つのセッションを行なう。
・まず、最初に、イギリスの地方自治体の構造について説明したい。ご存知のとおり、イギリスは4つの国(イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド)からなる連合国家である。それぞれの地域で、自治体の構造や機能も異なる。
・イギリスの自治体において、その自主財源は1/4しかなく、3/4は中央政府からの財源に頼っている。イギリスの自治体の歳出規模は22兆円程度である。
・自治体職員の数は約250万人以上であり、正規職員と非常勤の職員からなる。
・自治体の構造や機能は、議会制定法で定まっている。機能には、自治体が必ず提供しなければならないものと、提供するかいなか選択することができるものがある。
・イングランド以外の地域の地域議会では、国会から権限を移譲された事項のみ決定することができる。イングランドには地域議会はなく、イングランドに関する法律は全てイギリスの国会で決定される。イギリスの国会には、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの議員からなる。
・スコットランドでは1999年に地域議会(Parliament)がつくられた。地域議会では、中央から権限を委譲された事項についてのみ法律を定めることができ、具体的には、地方自治体に関する事項、教育に関する事項、社会福祉サービスに関する事項、公道管理に関する事項につき決定できる。地域議会の第一党は、独立を公約に掲げているスコットランド国民党であるが、住民の1/3しか独立を望んではいない。スコットランドには32の一層制自治体があり、各自治体では学校、社会福祉、公道管理、消防、警察、環境に係る行政サービスを提供している。
・ウェールズでも1999年に地域議会(Assembly)がつくられた。スコットランドでは地域議会の名がParliamentであるのに対しウェールズ議会の名前はAssemblyであることからわかるように、ウェールズ議会にはスコットランド議会と違い新たな法律を制定する権限はないが、地方自治に関する事項、医療・保健に関する事項、社会福祉に関する事項の一部について権限が委譲されており、ここ最近ではイングランドとウェールズの間でこれら政策に違いがでてきている。ウェールズには22の一層制自治体があり、スコットランドの自治体とほとんど同じサービスを提供している。
・北アイルランドにおいても1999年にLegislative Assemblyという立法議会がつくられたが、2002年に議会が停止、2007年5月から自治が再開されたところである。北アイルランドには26の一層制自治体があるが、行政サービスの提供はほとんど中央政府によって行なわれている。
・イングランドにおいては、ロンドンの32の区、大都市圏の36自治体及びその他47の一層制自治体があるが、これ以外の地域では2層制の構造となっている。カウンティ(県)では教育、社会福祉、公道管理、ディストリクト(市町村)では、住宅、環境、レクリエーション等の行政サービスを提供している。今後、一層制自治体の数は増加していく見込みである。
・イギリスの地方自治体では、約250万人が直接雇用されており、内訳として一番多いのが教師(イングランドで約36万人)、次が社会福祉(イングランドのケアワーカーなど約20万人)、消防士(イングランドの約3万3千人)とかなり多い。これら職員に対し、地方自治体は使用者としての義務を負っている。
・イギリスの雇用法は、60年代~80年代にイギリス議会で制定されたもの及び近年EU議会で制定されたものによっている。個人の労働者の雇用守ることや、衛生安全(雇用者への環境整備)、差別(性別、民族、宗教、年齢、性的指向、既婚未婚の別)の禁止、同一賃金(同じ仕事には同じ賃金)などについて定められている。
・特に、最後の同一賃金については、女性の多い職種(例:社会福祉など)より男性が多い職種(例:ゴミ収集など)の賃金の方が高い傾向がある一方、それぞれの仕事を客観的に比較するのも難しかった。
・90年代に入って職務評価が導入され、客観的なベースで職務を評価する仕組が出来たことにより、女性が行なっていた仕事が格上げ、男性が行なっていた仕事が格下げされた。
・自治体の労働組合の組織率は50%~60%と高く、サッチャーの改革以降民間の組織率が低下した民間の労働組合とは様相が異なる。自治体の労働組合には、全国レベルと地方レベルの組合がある。
・また、イギリスの地方自治体は80年代の以降、CPAなど強い競争にさらされており、New Public Managementという概念が定着している。

セッション2 イギリスの地方自治体再編と人材管理(再配置)

・私は、三度の自治体再編を経験した。そのうち1回は、問題処理も経験した。
・1966年にカウンティカウンシルのウエストサセックスに就職し人事部に入った。1972年にイギリス政府はイングランドの自治体改革を決断し、その一環としてウエストサセックスがイーストサセックスの一部を受け継いだ。つまり再編の最初の経験は、1972年発表1974年実施の再編であった。
・私はその後1979年にアバディーンに移り、自治体の上級の職につき、人事部で仕事をした。スコットランドは再編が行われたばかりだった。
・そのころ、イギリス経済が最悪のときだったので、賃上げや賃金体系の変更には、制約があった。自治体ごとに、賃金(レート)(時給)が異なっていた。私の仕事は、組合との調整だった。賃金の格差をなくすことに努め、同じ仕事は同じ時給になるようにした。
・1992年から1996年は、保守党サッチャー政権の最後の時期だった。1992年に、スコットランドの体制を変えるという発表がされた。1994年に法律が通過し、1996年に発効し4月1日に実施された。職員は新しい自治体へ行き、また、仕事がなくなったり、移りたがらない人もいた。
・イングランドでは、自治体のユニタリー(一層制の自治体)化が続いている。一層制にするメリットは多く挙げられている。まず、住民にとって分かりやすいことである。政治家は「ノックするドアがひとつになる」と言っている。また、オペレーションしやすいことである。選挙も幹部職員も各部署も一組で済む。
・議員は、ユニタリー化により経費の削減効果も指摘している。議員も減り、会議も減る。1つのユニタリーカウンシルができることで、複数のディストリクトが減ることもある。
・スコットランドとウェールズは、全域が1996年からユニタリーである。
・イングランドは、大都市圏ディストリクト、他に47のユニタリーがある。
・ユニタリーは大都市圏に多く、二層制は過疎地に多い。
・ユニタリーをつくるにあたり、二層制のときのサービス形態を見る必要がある。
・ユニタリーで人事面にどのような影響があるか。いくつかシナリオがある。
・もとの状態を、いくつのユニタリーにするかにより、シナリオを3種類設定した。シナリオ1は、ひとつのカウンティを、その下にあったディストリクト4つを、そのまま4つのユニタリーにするもの。シナリオ2は、カウンティ全体をひとつのユニタリーにするもの。そしてシナリオ3は、ひとつのカウンティを複数のユニタリーにするが、もとあった各ディストリクトをそのまま各ユニタリーに移行するのではないものである。シナリオ3が、私が1996年に経験したケースである。シナリオ1は、ブリストルやヨクシャーのケースである。
・旧自治体は、再編の前日までサービスを提供し、切り替えは真夜中に行われる。しかしその1年前に、政治的な政策を打ち立てたり構造作りを行ったりするため、選挙を行う。そして、シャドーオーソリティにより、戦略的な方向性や組織をつくっていく。その間に、上級職員も任命する。職員や資産や税制終始の移転も行う。職員の移転を行うのが人事である。
・移転にあたり、難易度で職員は3つのグループに分かれる。
・まず、簡単なグループ。これは、ゴミや住宅やレジャーといった運営面に携わる職員である。教員や下級管理職もそうである。同じ地域の新しい自治体へ移ればよいだけなので。
・次に、少し難しいグループ。より上級の管理職と、カウンティ本部の事務職員などである。勤務地を移転しなければならないことがある。
・最後に、最も難しいグループ。一番上級の管理職である。自治体の数が減ると、ポストが減る。雇用法により、職がなくなった場合は転職先を確保しなければならないが、50歳を過ぎていると早期退職する場合もある。
・再編における人事面での課題は、第一にレート(時給)の見直し、第二に新しい組織の運営や文化に馴染んでもらうことである。人は変化を好まない。人事は、手続きだけではなく、職員のワークライフへの影響を考えていかなければならない。
・シナリオ2は、ロンドン西のウイルトシャーカウンシルが2009年に実施する例である。
・ユニタリー化に反対するディストリクトもある。ソールズベリー市の新しい事務総長の役割は、反対意見を発信することである。
・組織改変にあたっての人事部の役割は、専門家として雇用法などに精通すること、職員を守ること、交渉力を持つこと、スタッフとのコミュニケーションなどである。私は、毎月2回、会報を出し、情報アクセスを容易にするようにした。そして、スタッフの知識と経験を活用すること、雇用のプロセスへ参加することである。

セッション3 アウトソーシング等の活用と人材開発

・ヨーロッパ諸国の地方自治体では、目標を定めて達成することが重要である。カスタマーである住民のニーズやコスト意識も高まっている。特に、高齢化が進む中で、高齢者の行政サービスへの要求水準も高まっている。
・イギリスの自治体では、インフレ率よりも高い賃上げが毎年期待されているところであり、自治体財政の逼迫により、各自治体が苦しんでいるところ。2007年は、中央政府から、賃上げ率をインフレ率以下にするようにとの方針が指示され、通常自治体と組合との関係は良好であるが、このような理由からその関係も多少悪化しているところである。
・法務・ITなどの仕事では、民間の給料の方がいいので、民間に人材が流れている。特に、IT部門、都市計画、社会福祉、教育などの分野は人材が不足している。職員定着が困難な状況。
・自治体における職員募集は、地理的状況とも関係してくる。特に、大都市から地理的に遠い自治体になると、人材確保も難しくなってくる。
・自治体では、民間にならってアウトソーシング等の活用により、スタッフの数を減らすなどの努力を行なっている。イギリスの民間企業では、コールセンターをインドなどへアウトソースしているところがあるが、自治体ではまだこのような例はない。
・自治体においては、住民の期待やニーズに耳を傾け、反応することが重要である。よりよい人材を確保するための課題としては、適切なスキルや能力そして研修の機会を与え、リーダーシップを発揮できる管理職を育てること、このためには十分な賃金水準を保つことが重要である。
・イギリスの自治体では、気候変動についての意識がEU加盟国の中でも高く、環境についての視点も自治体の幹部にとっては重要である。スコットランドの海岸が美しい保護指定地域において、アメリカの不動産会社が世界最大規模のゴルフコースを開発したいという申し出があり、雇用創出効果が期待されている。自治体においては、環境保護と経済効果のはざまで非常に難しい決断をせまられた。このプロジェクトには、1600通の反対と1800通の賛成意見が寄せられ、議会の委員会では、賛成が7人、反対が4人であった。開発業者は、もし11月末までに決断されないとアイルランドに候補地を変えると言っている。この結果はスコットランド政府にかけられ、来年はじめまでには結果が決まる。
・英国自治体では様々な民族、宗教、人種の人間が流入しており、これら多様な住民への対応も自治体リーダーに求められるところである。
・自治体が少ない財源でよりよいサービスを提供するには、新しいテクノロジーや効率的な仕事の仕方を導入しなければならない。
・自治体に必要な人材としては、住民のニーズをよく理解できる人、リスクをとれる革新的なリーダーやマネージャーである。

セッション4 イギリスの地方自治体における人材管理・開発部門の機能

・これまで、自治体の変化の背景と課題を見てきた。最後に、HRMとしての自治体の方向について見ていく。自治体ごとに異なるもので、一概には言えないが。
・まず、HRMの定義は、簡単に言えば、組織のために働く人々を管理する活動のマネジメントの一部である。
・人材計画は経営戦略の上で大切である。
・組織に明確な戦略や方向があれば、HRMもやりやすい。正しい人を推薦できる。
・HRM部門の人間が、組織が何をしているか、財務や戦略のビジョンは何か、つまり組織の明確な戦略や方向性を理解していれば、これが最も重要な要素である。
・また、その他、自治体以外でも行われる機能もある。私は3R と言っているが、リクルートメント(採用)、リテンション(定着)、リリースオブエンプロイ(離職)である。リテンションは、職員が定着したくなるような政策、戦略をたてることである。リリースオブエンプロイには、解雇や引退や病気離職もある。
・次に職員の研修開発がある。最近は、教えるという一方的な表現ではなく、学習と言っている。
・また、個人レベルや団体レベルでの、職員との関係がある。
・賃金交渉は、全国レベルと自治体レベルがある。賃金は、概ね全国レベルの枠組み合意による。
・業績管理と、職員の効果性は、自治体で効果性を求めるならば、貢献度を測る仕組みが必要である。
・HRMの活動のうち、戦略的組織的開発が最重要である。
・今までの話は、全て、「変化」に集約される。
・全てが自治体職員の生活と仕事に影響する。その影響を最小限にすべきである。
・HRMは、組織の変化や開発に適応し、人的戦略を的確に進めるスキルが必要である。
・各サービス提供部門のトップとの連携が必要である。
・政策と手順の開発について。雇用法の40年の経緯では、このため使用者は懲戒免職や苦情や差別に対応する必要があった。自治体内部の慣行として、募集、選抜、管理、査定のルールづくりが必要だった。誰かが、雇用法を理解し、意思決定の根拠を理解している必要がある。それらを明確に公正に適用する必要がある。イギリスはこのための効果的な政策づくりもしている。
・ルールや手続きの保証のため、HRMの人が内部統制やプロセスに参加し、良い行動につなげている。例えば、不正を防ぐ規定などである。最後の不正事件は、30年前の事件であった。有罪判決が下った。防ぐ手順を開発するほうが簡単である。
・労働組合との交渉時の、従業員との橋渡しもHRMである。
・最後に人事がある。記録保持や種々の面接である。
・HRMの役割は、HRMだけではなく全てのマネージャーの任務でもある。トップレベルの自治体は、リーダー個人もこれを認識している。人の管理と、CPAスコアとの相互関係もある。
・自治体HRMの歴史であるが、この言葉は40年前から自治体で使われている。革新的なイングランドのカウンティカウンシルに、中央化されたHRMがあった。給与交渉などをやっていた。ウエストサセックスもそうである。しかし、中央化されたHRMは、警察のように、コントロールをしてしまい、サービス部門からのイノベーションが許されなくなってしまった。そこで、今は分散するようになっている。一部委託もある。まだ中央化されているところもあるが。部門ごとに分権すると、部門ごとに研修などもできる。
・アウトソーシングについて。地方自治体は、人事の機能の一部は40年前から外部のサービス提供者を使っていた。例えば求人活動。また、新組織開発のコンサルや、トレーニングも。しかし、人事機能の外注(アウトソーシング)は、自治体それぞれの政策次第である。
・教師、消防、警察を雇用している自治体であるが、そういった専門性の強い分野には、専門のHRMがある。内部の人しか分からないからである。
(以上)



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